2015年6月14日日曜日

医師はプログラミングで医療の仕組みを変えられるか

連載

プログラミング異種格闘インタビュー(1):

医療×IT 医師はプログラミングで医療の仕組みを変えられるか

プログラミングはプログラマーだけの特権ではない?――ITを活用して自身の専門分野をより良くしていこうとチャレンジしている人たちにお話を伺うインタビューシリーズ、本日始動。






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本連載「プログラミング異種格闘インタビュー」のインデックス

連載目次

 医療、スポーツ、飲食――プログラミングで自身の専門分野をより良くしていこうとチャレンジしている人たちに、ハッカソン芸人「ハブチン」こと、羽渕彰博がお話を伺うシリーズ。第一弾は、現役の整形外科医であり、医療×ITで起業も果たした医師の黒坂望さんだ。

 総合病院の整形外科医である黒坂望氏は、医療に従事しながら、ITで医療の発展を目指すために、プログラミングを学びながらWebサービスを開発している。黒坂さんはなぜWebサービスを開発するのか、なぜプログラミングを学んでいるのだろうか。

守りの医療から攻めの医療へ

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黒坂望氏
1969年、神奈川県生まれ。横浜市立大学医学部博士課程卒業。
大学病院で整形外科医として働き始め、その後オーストラリアにリウマチの勉強のために留学。帰国後、一般病院で整形外科部長、副院長を務め、病院の経営改善に携わる。
現在、新百合ケ丘総合病院整形外科やクリニックなどで外来診療ならびに手術を行っている。2014年秋にオーストラリアBOND大学経営学修士(MBA)を取得し、医療×ITで起業。

羽渕彰博(以降 ハブチン) なぜ医療分野でWebサービスを開発するのですか?

黒坂医師(以降 黒坂) 医療従事者の視点を生かして、医療のIT化を「守り」から「攻め」に転じていきたいからです。従来の医療のIT化は、業務フローを整理し、役割分担を明確にし、システムを通じて連絡を取り合い、情報管理していく、という今まで紙ベースで管理していたものや直接のコミュニケーションで行ってきたものを、システム化するという考え方でした。超高齢社会による患者増を考えれば、医療効率化は必要です。しかしITには、効率化だけでない可能性があると考えています。

ハブチン なるほど。もう少し具体的に教えていただけますか?

黒坂 実は今、医療機関で指導するリハビリを、患者さんがどこにいても自主トレできるようにするサービスを開発中です。

 私は整形外科医なので、膝の痛い患者さんを毎日のように診察します。患者さんの多くは「変形性膝関節症」という膝の関節の軟骨が削れて痛みがでる病気で、始めは痛み止めや湿布、リハビリで治療します。

 初期状態でしたら、膝の上にある大腿四頭筋の筋トレをすると痛みが良くなることが多いので、毎日自宅でやってもらうように患者さんに指導をしています。しかし自宅で筋トレをするのはなかなか難しく、関節の破壊がだんだん進行してしまう人が多いのです。

 そこで、患者さんがもっと積極的に自宅で筋トレできるように、筋トレを行ったらWebアプリでクラウド上にデータを登録する仕組みを作り、それを基にドクターが患者さんを指導しようと考えました。

 このアプリを利用すると、毎日筋トレをしている患者さんをほめたり、逆にサボっている患者さんに運動するよう促したりできるようになります。

 患者さんは、より多く筋トレをして痛みが良くなる可能性が高まります。ドクターは、患者さんが適切に筋トレできているか事前に確認できるので、診療の効率がアップします。

自分でプログラムできれば、アイデアをカタチにできる

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ハブチン(羽渕彰博)
1986年、大阪府生まれ。2008年にパソナキャリアカンパニー入社。
転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事。現在はパソナテックで、新規事業開発や人材教育を目的としたハッカソンのファシリテーター(司会)として活動している。
過去、「朝日放送主催 ABC Hackathon」「Google主催 Google Hackathon」「Sharp主催ウェアラブルアイデアソン」などに携わっており、マイクパフォーマンスで盛り上げる進行スタイルから「ハッカソン芸人」と呼ばれている。

ハブチン 患者さんと医療従事者の双方にメリットがある、まさに攻めの医療のIT化ですね! 実際の医療従事者や患者さんの反応はいかがでしたか?

黒坂 始めはアイデアを企画書にして、周りの医療従事者に紙と口頭で説明していました。周囲の反応はというと、あまり芳しくはなく……。

 しかしサービスのプロトタイプ(試作品)を作ってデモンストレーションしたら、具体的な改善案や実際に試してみたいという声を頂けました。中には一緒に事業を手伝いたいという方も。その経験から、不完全でもいいからまずアイデアをカタチにすることの重要性を学びました。

 また、プロダクトを開発していくうちに、アイデアをできるだけ早くカタチにしたいと思うようになりましたね。「プログラミングの知識を身に付ければ、人にやってもらうよりも早く、そしてエンジニアと同じような目線で開発できる」、そう思い立ちプログラミングを学ぶことを決意しました。

医師とエンジニアの共通点

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ハブチン どのようにプログラミングを学んだのですか?

黒坂 プロダクトを開発しながらプログラミングを習得できる実践型トレーニング「ハッカー部!」というサービスを受講しました。

ハブチン プログラミングを学んでみて、いかがでしたか?

黒坂 医師とエンジニアは意外と共通点が多いかもしれない、と思います。

 私は年に何度も同じような症例の手術に携わっていますが、手術をするたびに手術手技(運針、結紮、止血など)を検討し、治療成績を改善できるよう、PDCA(Plan-Do-Check-Act)を回しています。これは、エンジニアが顧客に向き合いながらプロダクトを改善していくところと似ているのではないでしょうか。プログラミングは、研究することが好きな私の性格に合っています。

ハブチン そのままエンジニアに転身されるのでは?

黒坂 私の目的は、あくまでも「医療をITで良くする」ことです。エンジニアだけですと、肝心な医療現場の最前線の課題を知ることができなくなるので、あえて医師を続けることで相乗効果を上げたいと考えています。

医療×ITでより多くの患者を救いたい

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ハブチン 最後の質問ですが、医師×プログラミングでどのような世の中を実現していきたいですか?

黒坂 冒頭でお話しした、医療従事者の知見を生かして、新しい医療の仕組みを作っていきたいです。通常の医師の診療は1対1のサービスですが、Webサービスであれば、1対大勢の患者を救える。そこに大きな可能性を感じました。

 まだ詳しくは言えませんが、新たなWebサービスも計画しています。患者さんやご家族との情報の受け渡しを効率よくできるようにするものです。医療情報を素早く届けることで、患者さんの不安を取り除いたり、診療を効率化したりしていきたいです。

 これからは、医療従事者がその人たちにしかできない仕事に専念するためのWebサービスを開発していきたいと思っています。医療には、ITを活用して新しいことを創造できるチャンスがまだまだたくさんあるので、チャンスと捉えて挑戦していきたいです。


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