2015年9月29日火曜日

「優れた技術」が「優れた製品」にならない3つの理由とその解決法

NIKOLAY KOVSHOV

ANALYST of QWAVE CAPITAL

2015.9.29 TUE

Businessman jetpack image from Shutterstock

メディアでは夢のような技術が報道されている一方で、そういったテクノロジーをもちながら、実際に市場に参入できない企業が多いのも現状だ。これまで数々のテクノロジー企業に出資をしてきたQWave Capital社のアナリスト、ニコライ・コフショフの考える、革新的な技術を製品化する上での課題とその解決策とは。NIKOLAY KOVSHOV|ニコライ・コフショフ 

ヴェンチャーキャピタル、QWave Capitalのアナリスト。

アマゾンの小型ドローンでの配送サーヴィスについては、きっと耳にしたことがあるはずだ。でも、同じアマゾンの倉庫で、すでに本物のロボットが床を這い、働いていることをご存じだろうか? 彼らロボットは、人間以上に効率的に、商品を運んでいる。

『エコノミスト』誌は、研究分野としてのロボット工学が「今後の展望に対する高い注目と、近い将来の成功が見通せない」ことにより苦境に立たされていると指摘している。でも、イノヴェイションに対する過度な期待(そして実現性の無視)によって進歩が遅れている分野は、決してロボット工学だけではないと、筆者は主張したい。

華やかに報道される技術と、実際に市場に登場する技術には、なぜこんな断絶があるのだろうか?

アート、エンターテインメントには、「未来的なテクノロジー」のイメージが氾濫している。『宇宙家族ジェットソン』に登場するパーソナル・ロボットから『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に描かれたタイムトラヴェルまで、驚異的な架空のアイデアの多くは人の手に届くようには思えないし、たいていの場合は実現しないだろうと考えられている。

その一方で、新聞やブログには「もう少しで製品化されそうな未来的なテクノロジー」がたくさん登場する。そのひとつが、背負って空を飛べるジェットパック「Martin Jetpack」だ。でもこの技術のアイデア自体は実は80年前からあるわけで、現実の科学的躍進が人々のもとに実際に届くまでには、数十年を要するのだ。それも、それらが日の目を見た場合の話であり、実際にはずっと製品化されない場合も多い。

華やかに報道される技術と、実際に市場に登場する技術には、なぜこんな断絶があるのだろうか? 素晴らしい技術が、多くの場合、成功につながるわけではない理由を、いくつか以下に挙げていこう。

問題1.先入観

理想的な世界においては、素晴らしい製品は何でも、諸手を挙げて受け入れられるだろう。しかし現実には、人々(そして政府)は多くの場合、特定のアイデアやテクノロジーに対して強い先入観をもっている。例えば、原子力はほかの多数のエネルギーよりも人間や環境に対し安全であるという報告があるが、いくつかの事故によって、特に米国では、原子力に対する根強い偏見が生まれている。

こうした偏見のもうひとつの好例は遺伝子組み換え食品(GMO)だ。GMOは危険だと証明されてはいないものの、多くの人々に敬遠されている。また、個人の遺伝情報を解析するサーヴィス(「23andme.com」)もこうした例のひとつだ。この技術は2008年に『TIME』誌で「イノヴェイション・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたものの、その後、米食品医薬品局(FDA)によって禁止されてしまった。

予期されていなかった(たいていは理不尽な)不寛容に遭ったとき、企業はイメージを変えるために広報活動を行う必要が出てくる。でもこれは簡単なことではないし、多くの場合、科学者やイノヴェイターたちが得意とすることではない。彼らの多くはこの時点で新製品をあきらめてしまったり、小規模なニッチ市場へと向かう。

解決法:一部の人たちを不快にするからという理由だけで、革新的な製品をあきらめるのは道理にかなっていない。そうではなく、「市場におけるイメージ」を変える方法を見つけだす必要がある。これを実行するために、科学者たちは政治家、報道機関、教育機関と協力し、自分たちの主張を裏づける実例やデータを使って、こうした製品のメリット(および欠点の事実)を周知させ、理性を欠いた先入観に打ち勝つ必要がある。

問題2.不正確な宣伝

科学者にとって、広報とは、有り難いものにも、忌むべきものにもなりうる。メディアは、社会的に見過ごされていた技術的成功に対し、必要とされる注目を引き寄せることができるが、その一方で、その技術の性質や可能性を不相応に誇張し、あまりに輝かしく非現実的な姿を提示することがある。そして、期待と現実とのギャップによって、製品をアイデアから現実のものにするために必要なリソースを集めるのが困難になってしまう可能性もある。

SF映画につきものの3Dホログラムが、平面スクリーンに取って代わるのを、人々は長い間夢みてきた。ガーボル・デーネシュは1947年にホログラフィの特許を取得し、1971年にはその発明でノーベル物理学賞を受賞した。だが、ホログラムは、ほぼ50年わたって存在しているものの、家庭向けの技術にはなっていない。この世を去ったラッパー2パックホログラフィで再現されたり、インドの政治家ナレンドラ・モディが、選挙運動にホログラフィを使用するのを禁止して話題になったりしたが、ホログラフィ技術は一般的には商業化されていない。なぜなら、技術的な課題が、期待をはるかに上回っているからだ。

「不正確な宣伝」のもうひとつの有名な例は、SF作家たちの大きな注目を集めてきた「原子力電池」だ。アイザック・アシモフは1964年、「2014年の電気製品は、コードを必要としていないだろう。当然ながら、長寿命の原子力電池を動力としているからだ」と予測している。しかし幸いにもこうしたデヴァイスは危険すぎるので、工業的用途においても実現していない。それでも、例えば、人間に対してほとんど脅威をもたらさない、隔絶された極域の気象観測所などでは、この種のバッテリーが使用されている。

解決法:科学者たちは時間をかけて、技術が一般化するための課題について説明し、こうした技術に対する期待を緩和する必要がある。科学的躍進が日常にもたらされるまでにかかる時間について、より現実的な展望を提供し、なぜそれが重要なのかを説明するうえで、彼らは最適な立場にあるのだ。

問題3.人間の惰性(あるいは「穴居人の原理」)

穴居人の原理」とは、人間が、本能的なあり方によってプログラム化されていることを指摘したものだ。しかし、ときにこのプログラミングは、現代の科学技術とあまり一致しないことがある。

例えば、ビル・ゲイツはかつて、インターネットによって「人々は都市の中心から移動し…(中略)ポジティヴなフィードバック・サイクルが誘発され、地方での生活が促進される」と、予測した。しかし、こうしたことは実際には一般化されていない。なぜなら多くの人は、たとえ仕事や健康面で必要ない場合でも、ほかの人たちの近くにいることを好むからだ。

受け容れられるには長期にわたる教育的な取り組みが必要で、その結果も予測することは難しい。

また、「Google Glass(グーグル・グラス)」は、技術が穴居人の原理にぶつかってしまったことを示す好例だ。この“現実オーヴァーレイ・メガネ”は、人の注意力を分散させてしまうという「不自然な」仕組みのために、広く受け入れられるかどうかは不透明だ。一方、コンピューターのマウスがかくも隆盛を極めているのは、人間の触覚的な性質を考慮してつくられているからだ。現時点で、直感的ではないGoogle Glassのインターフェイスが、穴居人の原理を克服し、広く受け入れられることに成功するかどうかは不明だ。

解決法:新しい技術が、どれほど驚異的であったり革新的に見えたとしても、それが人々の基本的な本能やあり方に逆らうことを要求するものであったとすれば、受け入れられるのは困難になる。このことを、イノヴェイターや投資家は肝に銘じなくてはならない。たとえ達成されたとしても、受け容れられるには長期にわたる教育的な取り組みが必要で、その結果も予測することは難しい。

前へ進むには

テクノロジーとは、単に研究室で夢想したり工場で製造されるだけのものではない。それを認識するのは重要だ。あらゆる製品やアイデアのライフサイクルは複雑で、多くの要素に依存している。そのプロセスは、触ったり見たりできるようになるよりもずっと前から始まるものであり、さらに、製造されなくなったあとも、しばらく経ってから終了する。また、科学者やエンジニアに留まらず、はるかに多くの人々がかかわるものだ。

イノヴェイションのライフサイクルは、製品が市場へ出たときに終わるわけではない。

こうしたライフサイクルが始まる可能性がある場所のひとつが、大学の教室だ。大学は、これまで説明してきたような課題を、未来のエンジニアたちが乗り越えていくことを後押しできる。エンジニアリング上の困難だけでなく、彼らが直面するであろう多数の「人間的な」障害について前もって考慮するよう導き、目的を貫くための現実的な戦略を与えるべきだろう。

そして、イノヴェイションのライフサイクルは、製品が市場へ出たときに終わるわけではないことを強調する必要がある。市場が出たときが終わりではなく、その瞬間こそ、一般市民の「教育」を開始して自分にとっての利益や可能性のある用途を知ってもらい、偏見や誤解、惰性を克服する努力を始めるべき時なのだ。

TRANSLATION BY TOMOKO MUKAI, HIROKO GOHARA/GALILEO
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