2015年10月31日土曜日

「休めない」日本人の生産性が著しく低い理由

「ダラダラ残業しているヤツのほうが、残業手当も稼いでいるし、上司のウケがいい」

 「会社から有給休暇をすすめられても、こんな忙しさでは休めるワケがない」

【詳細画像または表】

 筆者は精神科医として、大学病院の診療だけでなく、産業医として企業のメンタルヘルスの問題にも取り組んできた。患者からよく聞かされるのが、冒頭のようなぼやきだ。日本における労働時間の長さと非効率性を、端的に物語っているセリフである。

 厚生労働省が10月中旬に発表した「就労条件総合調査」(2015年)によれば、常用雇用が30人以上の4432法人のうち、2014年の年休取得割合は、47.6%に過ぎなかった。100%近い国もある欧州や70%台のアメリカなどと比べても、日本は依然として先進国の中では最低水準を記録し続けている。

・長い時間仕事をするほど評価が高い
・休暇や休憩は取らないほど評価が高い
・こなしている仕事の質や量は二の次
■ 「休む=悪」という空気が職場に蔓延している

 日本企業には多かれ少なかれ、総じてこのような風潮が蔓延している。「休む=悪」という、日本独特の「職場の空気」は、不眠や睡眠不足、あるいはうつ病といった心の病気の温床となっている。臨床を行っていても、薬の処方や多少話を聞いたぐらいでは改善せず、仕事環境をなんとかしなければ治療に結びつかない場合も多い。

 経済的な理由ももちろん大きいだろう。しかしそれよりも

 ・「みんなが忙しいのに、自分だけ休むのは申し訳ない」という自責感や罪責感

 ・「みんなが忙しいのにお前だけ休むなんて」という攻撃性

 といった感情的な問題が潜んでいることが、休みをとりづらくしている遠因とも考えられる。

 感情的な要因には、科学的根拠など事実を突きつけていくのが、もっとも理解されやすい方法である。休憩から得られる利益を、科学的に検討してみたい。

 仕事にとって重要な認知機能に、「ワーキングメモリ」がある。なにかを覚えながら、作業をしながら、別のことに取り組んでいく機能である。俗に「段取り脳」と呼ばれ、複雑な仕事や料理などが、ワーキングメモリを必要とする作業の代表格である。ワーキングメモリは、疲労や睡眠不足によって容易に機能が低下するとは、いくつかの脳機能画像の研究でも示されている事実である。

■ 「まだまだできる」とだまし、病気になることも

 「ランナーズハイ」など、やればやるほど仕事や作業にハマってくるという現象も、注意すべきである。ドーパミンは意欲や集中力を高める神経伝達物質として知られているが、このドーパミンは、疲れ果ててダウンする寸前の脳をあたかも「まだまだできる」というようにだましてしまう。結果的に、うつ病など回復に長い時間を要する病気になってしまう危険性もある。

 休みは疲労解消といった防御的な働きだけではなく、もともとの自分のパフォーマンスを高めてくれるというポジティブな作用もある。睡眠には、日中に学んだ必要な記憶・経験を脳内で増強させる学習促進作用があることは、数多くの学術論文が示しているし、わたしたちも経験することでもある。

 たとえば一夜漬けで短時間に詰め込んだ知識よりは、ある程度の期間をかけて、休憩を挟みながら繰り返し勉強して得られた知識のほうが記憶は長続きすることは誰しも経験するが、これは科学的にも実証されている。記憶の定着には、休憩中に生産されるタンパク質が重要な役割を果たすことが明らかになっている。

 さらに「ひらめき」の観点からも、睡眠や休息は重要な役割を果たしている。ドイツの大学が66人の学生に対して「ひらめき」を必要とするパズルを解かせ、パズルを解けなかった学生を、下記の3つのグループに分けて再チャレンジをしてもらったところ、「そのまま8時間の睡眠を取る」Cグループが、もっとも優秀な成績を出すことができた、という論文が「ネイチャー」誌で発表されている。

A)朝に問題を見せて、起きたまま8時間考える
B)夜に問題を見せて、そのまま徹夜で8時間考える
C)夜に問題を見せて、そのまま8時間の睡眠を取る

 DNA二重らせん構造、ベンゼン環、元素周期表などは、すべて発見者は夢からインスピレーションを得たといわれている。起きているときには思いつかないひらめき、アイデアが、睡眠中に得られた有名人の逸話は少なくないが、これらの世紀の大発見とは言わずとも、市場が成熟化し、日常のルーチンワークの延長にはない発想が求められる日本にこそ「休む」文化が必要だ。

 「ダラダラ残業しているヤツのほうが、残業手当も稼いでいるし、上司のウケがいい」

 「会社から有給休暇をすすめられても、こんな忙しさでは休めるワケがない」

【詳細画像または表】

 筆者は精神科医として、大学病院の診療だけでなく、産業医として企業のメンタルヘルスの問題にも取り組んできた。患者からよく聞かされるのが、冒頭のようなぼやきだ。日本における労働時間の長さと非効率性を、端的に物語っているセリフである。

 厚生労働省が10月中旬に発表した「就労条件総合調査」(2015年)によれば、常用雇用が30人以上の4432法人のうち、2014年の年休取得割合は、47.6%に過ぎなかった。100%近い国もある欧州や70%台のアメリカなどと比べても、日本は依然として先進国の中では最低水準を記録し続けている。

・長い時間仕事をするほど評価が高い
・休暇や休憩は取らないほど評価が高い
・こなしている仕事の質や量は二の次
■ 「休む=悪」という空気が職場に蔓延している

 日本企業には多かれ少なかれ、総じてこのような風潮が蔓延している。「休む=悪」という、日本独特の「職場の空気」は、不眠や睡眠不足、あるいはうつ病といった心の病気の温床となっている。臨床を行っていても、薬の処方や多少話を聞いたぐらいでは改善せず、仕事環境をなんとかしなければ治療に結びつかない場合も多い。

 経済的な理由ももちろん大きいだろう。しかしそれよりも

 ・「みんなが忙しいのに、自分だけ休むのは申し訳ない」という自責感や罪責感

 ・「みんなが忙しいのにお前だけ休むなんて」という攻撃性

 といった感情的な問題が潜んでいることが、休みをとりづらくしている遠因とも考えられる。

 感情的な要因には、科学的根拠など事実を突きつけていくのが、もっとも理解されやすい方法である。休憩から得られる利益を、科学的に検討してみたい。

 仕事にとって重要な認知機能に、「ワーキングメモリ」がある。なにかを覚えながら、作業をしながら、別のことに取り組んでいく機能である。俗に「段取り脳」と呼ばれ、複雑な仕事や料理などが、ワーキングメモリを必要とする作業の代表格である。ワーキングメモリは、疲労や睡眠不足によって容易に機能が低下するとは、いくつかの脳機能画像の研究でも示されている事実である。

■ 「まだまだできる」とだまし、病気になることも

 「ランナーズハイ」など、やればやるほど仕事や作業にハマってくるという現象も、注意すべきである。ドーパミンは意欲や集中力を高める神経伝達物質として知られているが、このドーパミンは、疲れ果ててダウンする寸前の脳をあたかも「まだまだできる」というようにだましてしまう。結果的に、うつ病など回復に長い時間を要する病気になってしまう危険性もある。

 休みは疲労解消といった防御的な働きだけではなく、もともとの自分のパフォーマンスを高めてくれるというポジティブな作用もある。睡眠には、日中に学んだ必要な記憶・経験を脳内で増強させる学習促進作用があることは、数多くの学術論文が示しているし、わたしたちも経験することでもある。

 たとえば一夜漬けで短時間に詰め込んだ知識よりは、ある程度の期間をかけて、休憩を挟みながら繰り返し勉強して得られた知識のほうが記憶は長続きすることは誰しも経験するが、これは科学的にも実証されている。記憶の定着には、休憩中に生産されるタンパク質が重要な役割を果たすことが明らかになっている。

 さらに「ひらめき」の観点からも、睡眠や休息は重要な役割を果たしている。ドイツの大学が66人の学生に対して「ひらめき」を必要とするパズルを解かせ、パズルを解けなかった学生を、下記の3つのグループに分けて再チャレンジをしてもらったところ、「そのまま8時間の睡眠を取る」Cグループが、もっとも優秀な成績を出すことができた、という論文が「ネイチャー」誌で発表されている。

A)朝に問題を見せて、起きたまま8時間考える
B)夜に問題を見せて、そのまま徹夜で8時間考える
C)夜に問題を見せて、そのまま8時間の睡眠を取る

 DNA二重らせん構造、ベンゼン環、元素周期表などは、すべて発見者は夢からインスピレーションを得たといわれている。起きているときには思いつかないひらめき、アイデアが、睡眠中に得られた有名人の逸話は少なくないが、これらの世紀の大発見とは言わずとも、市場が成熟化し、日常のルーチンワークの延長にはない発想が求められる日本にこそ「休む」文化が必要だ。

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