2016年2月7日日曜日

iPSに勝るか、ほぼ無限に培養できる「胆管幹細胞」、再生医学に重要な1ページを刻む

勉強の為に引用しました。
https://welq.jp/8232

前回紹介した、ヒトの多能性幹細胞から始原生殖細胞を作り出す方法の開発は、再生医学にとって重要な1ページを刻んだ研究だと思う(「iPSから精子と卵子」に王手、日本人研究者が快挙を参照)。同じ号のセル誌には、もう一つ再生医学に大きな貢献を果たす可能性のある論文が報告された。オランダのユトレヒト大学からである。
       
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前回紹介した、ヒトの多能性幹細胞から始原生殖細胞を作り出す方法の開発は、再生医学にとって重要な1ページを刻んだ研究だと思う(「iPSから精子と卵子」に王手、日本人研究者が快挙を参照)。同じ号のセル誌には、もう一つ再生医学に大きな貢献を果たす可能性のある論文が報告された。オランダのユトレヒト大学からである。

肝臓の幹細胞を増やし用可能に

タイトルは「成人の肝臓から肝細胞と胆管細胞の両方に分化可能な幹細胞の遺伝的に安定な長期培養(Long-term culture of genome-stable bipotent stem cells from adult human liver)」だ。要するに、大人の肝臓細胞を長期間にわたって培養。そこから肝臓を含めた細胞を作り出したという報告だ。再生医学に使える方法が開発できた。研究を行ったハンス・クレーバース(Hans Clevers)は、「内胚葉」の組織幹細胞研究の第一人者だ。受精卵が分裂して、外胚葉、内胚葉、中胚葉と分かれていく。このうち内胚葉は肝臓のほか、生殖細胞などになる。

有言実行の研究者

現在慶応大学の佐藤俊朗さんが在籍中に「Lgr5」と呼ばれるタンパク質を出している腸管の幹細胞を長期にわたって培養する方法を開発している。多能性幹細胞やリプログラム万能の風潮に一石を投じて脚光を浴びた。体に元々ある幹細胞を増やしてコントロールできるのであれば「初期化」する必要はない。当時からハンス・クレーバースに会議で会うと、あらゆる内胚葉系の幹細胞は、Lgr5を発現していれば培養できると豪語していた。今回、Lgr5を出している人の肝臓の細胞を長期にわたって培養する実験に成功した。

安定的に増やせる方法開発

彼らがこれまで開発した培養法はたかだか2〜3週間の培養が精一杯だった。今回、ヒトの肝臓から取った細胞を60時間に1回のペースで安定的に分裂させられると発見した。これまでは「Wntシグナル」という信号を刺激して培養するだけだった。ここにいくつかの工夫を加えたのだ。まず「A8301」という化学品を使って増殖を止めようとするTGFβを邪魔する。さらに、フォルスコリンという化学品で「cAMP経路」という信号を刺激する。培養方法も立体的に増やすのだ。

胆管に存在する幹細胞

次に増殖細胞の由来について調べている。正体は胆管に存在する幹細胞。これまで肝臓の幹細胞として研究されてきた「星細胞」などではなかった。実際、胆管の幹細胞が単一細胞から培養できることは横浜市立大学の谷口英樹さんたちがマウスではずいぶん昔に示していたが、同じ細胞なのだろう。この研究が特に強調しているのは「安定性」である。培養される細胞は遺伝的に安定という。ヒトES細胞やiPSは培養中にどうしても遺伝子の突然変異が起こってくる。安全性が高いと説明している。

ゲノム解析で突然変異の少なさを示す

単一細胞からコピーを増やし、3カ月後にゲノム配列を決定している。培養で起こる突然変異は体の中で既に起こっている突然変異の10分の1以下程度と示している。100個程度しかない。これを示すため詳しいデータを示している。再生医学の利用という面からは組織幹細胞が最終的に有利だというハンスの信念を表現したものだろう。

肝臓の細胞になる

さて、この方法でほぼ無限に培養できる胆管幹細胞ができた。さらに「Notch阻害剤」「FGF9」「BMP7」などを加えると試験管内で成熟した肝細胞になる。肝細胞の特徴である、アルブミンを作り、アンモニアを処理できる。肝臓の痛んだマウスの治療も実現している。作り出した胆管幹細胞をとくに処理せずに投与すると、そのまま肝細胞になる。2カ月以上アルブミンを体内で作り続ける能力を持っていた。十分再生医療に利用できるわけだ。このほか病気を再現する用途にも使えるようだ。突然変異を持つ人の細胞を取ってきて、肝臓細胞や胆管細胞の病気が試験管内で起こせる。

赤ちゃんの肝臓移植の代わりは

論文を読むと、内胚葉組織細胞にかけるハンスの強い気持ちが伝わってくる。iPS報告以降同じような主張はさまざまな研究から行われていたが、なるほどと高い説得力のある完璧な実験でそれを示せた研究者はハンスを含めて限られている。再生医学という点からは、大量培養のためのスピードとコストの問題を解決できるか。アンモニアを生まれつきうまく処理できない赤ちゃんの治療には肝臓を移植する必要がある。移植用の肝臓として大人の肝臓は大きすぎる。移植できるまで本人が成長するのを待つ必要がある。この移植をできない間にアンモニアによる脳障害を防ぐ必要があるが、肝臓細胞の移植で乗り越えられないかという課題がある。我が国でも研究が進んでいた。このような病気に対する最初の再生医療がどの細胞を用いて行われるか。競争が始まった気がする。おそらくハンスの方法が一番乗りを果たす気がする。
・本文中、人名に誤りがありました、正しくは「Hans Clevers(ハンス・クレーバース)」です。お詫びして訂正いたします。

文献情報

Huch M et al. Long-Term Culture of Genome-Stable Bipotent Stem Cells from Adult Human Liver. Cell. 2014 Dec 18. [Epub ahead of print]
Cell. 2015 Jan 15;160(1-2):299-312. doi: 10.1016/j.cell.2014.11.050. Epub 2014 Dec 18. Research Support, Non-U.S. Gov't

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