2016年10月28日金曜日

患者由来iPS細胞とゲノム編集技術を用いて、 BH4代謝病のドパミン合成異常の疾患モデル系構築に成功

研究成果

患者由来iPS細胞とゲノム編集技術を用いて、 BH4代謝病のドパミン合成異常の疾患モデル系構築に成功 -iPS細胞利用による代謝改善生理活性物質の同定と疾患再定義-

2016年10月28日

     石川泰三 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員、井上治久 同教授らの研究グループは、患者由来のiPS細胞を用いて、BH4代謝病(BH4の先天的な代謝異常によりおきる遺伝性疾患)におけるドパミン合成異常の再現と、その遺伝学的および薬理学的修復に成功しました。

     本研究成果は2016年10月18日に英国の科学誌「Human Molecular Genetics」でオンライン公開されました。

    研究者からのコメント

    左から、井上教授、石川研究員

     iPS細胞とゲノム編集を組み合わせることにより、患者さんの体の中にある細胞の状態をより正確に理解することができるようになりました。今回の研究では、BH4代謝病(患者数の少ない疾患)の代謝改善生理活性物質を同定しましたが、 パーキンソン病(患者数の多い疾患)でもその生理活性物質は有効で、同じ物質が有効な疾患ということがわかりました。iPS細胞を使うことで疾患をこれまでと異なる角度から再定義できました。

    本研究成果のポイント

    • BH4代謝病患者由来iPS細胞とゲノム編集技術を用いて、ドパミン合成異常を示すモデルを構築
    • BH4代謝病患者由来iPS細胞から作製したドパミン神経は、生理活性物質セピアプテリン投与で、ドパミン合成異常が改善
    • セピアプテリンは、ドパミン合成量が減少することが知られているパーキンソン病患者由来iPS細胞から作製したドパミン神経のドパミン合成を改善
    • iPS細胞利用により判明したRare Disease(患者数の少ない疾患)の知見からCommon Disease(患者数の多い疾患)の病態を改善しうる生理活性物質を同定、iPS細胞による疾患再定義

    概要

     ドパミンは脳内の神経伝達物質の一種で、BH4代謝病やパーキンソン病を含むいくつかの疾患で中心的な役割を果たしています。ドパミンを合成するためにはチロシンハイドロキシレース(TH)という酵素が必要ですが、THによるドパミン合成にはさらにテトラヒドロビオプテリン(BH4)が必要となります。そのため、BH4の合成やリサイクルがうまくできなくなると、ドパミン合成が異常になり、運動障害を含めさまざまな症状をきたします。BH4の合成に関わる6-ピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素(PTPS)や、BH4のリサイクルに関わるジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)をコードする遺伝子に変異が入ると、BH4の代謝異常がおきます。これについては今まで研究がされていましたが、BH4の合成やリサイクルに関わる遺伝子の変化が患者の脳の中でどのようにしてドパミン合成の異常をおこすのかは分かっていませんでした。

     そこで本研究グループは、BH4の合成やリサイクルに関わる酵素であるPTPSやDHPRに変異のある患者からiPS細胞をつくり、ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)を用いて遺伝子を修復した正常なiPS細胞を用意しました。

     それらのiPS細胞をドパミン神経へと分化させたところ、PTPS欠損の患者由来神経細胞ではBH4の量、THタンパク質レベル、ドパミン合成レベルが減少しているという表現型を示しました。そこで、BH4前駆物質セピアプテリンを添加したところ、PTPS欠損ドパミン神経細胞で見られるそれらの表現型が改善されました。さらに、セピアプテリン投与で、ドパミン量が減少することが知られているパーキンソン病患者iPS細胞から作製したドパミン神経の合成するドパミン量が改善しました。

    図:PTPS変異BH4代謝病の患者由来のドパミン細胞でのBH4量、THタンパク質、ドパミン合成レベル
     

    左からBH4の量、TH発現面積、THタンパク質の量、ドパミン合成レベルをそれぞれ表している。いずれも遺伝子修復をしていない患者モデル神経細胞の方が低くなっている。

    詳しい研究内容について


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