2016年11月19日土曜日

なぜ企業は「沖縄」に拠点を置くべきなのか 製造・物流ビジネスに変革が生まれる


2015年、沖縄県が策定した「沖縄県アジア経済戦略構想」。アジアと日本を結ぶビジネス拠点を構築することで、沖縄の発展を加速させるのが基本方針だが、実際に近年、沖縄に企業が続々と集まり始めている。沖縄にはビジネスを飛躍させる様々な利点があったのだ。

急成長するアジア市場に対し
圧倒的なメリットを持つ

近年、沖縄県における製造業等の誘致は、着実に実績をあげている。その背景を知る上で大前提になる事実が、アジア市場が富裕層や中間層の増加により急拡大していること。日本企業にとって、アジアは最重要地域なのは間違いない。ただし、国内外の環境は以前と変化している。

現地に工場などの拠点を置くことは、市場に近く、納期やコスト面でも利点はあるが、アジア諸国には政情不安などによるカントリーリスクがあるのは否定できず、また最近ではアジア地域にテロが飛び火する可能性や、高騰する賃金も、企業としては悩ましい点だろう。安定した電力供給への不安や技術流出などの危険性も考えなければならない。

そこで鮮明に浮かび上がってきたのが、「沖縄」という場所に企業が拠点を置くことの様々なメリットである。国内のため、政治・社会環境の変化や電力への不安などはもちろん少なく、製品の品質管理もしやすい。そして、比較的盲点とされていたのが、その地理的な優位性だ。

沖縄からは日本は北海道、近隣諸国の都市では台北やソウル、上海はもちろん、北京、香港、マニラ、ハノイなどに、飛行機で4時間以内にアクセスできる。まさに東アジアの中心だ。そしてこのエリアには、中国13億人、日本1.3億人、ASEAN諸国に6億人という巨大な市場がある。約20億人のマーケットに4時間でリーチできる、圧倒的なリードポイントがあるのだ。

日本とアジアと結ぶ24時間高速物流は
企業に何をもたらすのか

この立地の利を生かし、沖縄県ではすでに国際物流拠点の形成を進めている。その基点になっているのが那覇空港だ。意外に知られていないが、同空港は羽田空港や関西国際空港と並び、24時間運用されている高機能な空港である。

そして、那覇空港の中でも物流の中核を担うのが、2009年よりスタートしたANA沖縄貨物ハブだ。ほぼサッカーコート4面分に相当する2万7700㎡の施設に最大9機もの航空機を駐機できるスペースが隣接。ANAの貨物事業会社であるANA Cargoにとっても重要なベースになっており、「沖縄に来ない理由はない」といわれるほど、現地に立地する製造業などの企業にとって多くの利益をもたらしているという。


 
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沖縄貨物ハブ



ANA Cargoは旅客機と貨物専用機、合計248機(2016年7月29日現在)を駆使し、世界40都市と国内52都市をつなぐ航空貨物ネットワークを誇る。沖縄貨物ハブでは、貨物専用機をアジアの主要都市に深夜に就航するなどし、深夜発・翌朝到着という、驚くべきスピーディーなダイヤを実現している。

たとえば農林水産品では北海道から出荷されると、香港のレストランや食料品店に翌日昼には着いている。このスキームに着目したヤマト運輸はANA Cargoと連携し、日本各地の農水産品をアジアへ1個口から輸送できる「国際クール宅急便」を2013年に商品化。沖縄貨物ハブ内にはヤマト運輸専用の仕分けエリアも備え、日本の農水産品などを今までに数百品目輸出している。このような高速物流の仕組みは、製造業による小口輸送にも応用できるだろう。

さらに特筆すべきは、スムーズな輸出を実現するために沖縄貨物ハブの施設内に税関検査エリアがあること。深夜にも検査に対応し、24時間の通関体制を実現しており、国内の空港では非常にレアなケース。沖縄の国際物流拠点化は、県のみならず政府が支持するプロジェクトであることが背景にある。

那覇空港の国際貨物取扱量は2015年、2008年に比べて約100倍、約17万4千トンになり、成田、関空、羽田に次ぐ国内第4位となった。この国際物流拠点を活用するために沖縄に立地した企業がある。詳しく話を聞くと、製造業企業にとっての「沖縄」の利点が明らかになった。

「沖縄に来ない理由がない」
現地立地企業が力説する

株式会社ナノシステムソリューションズ
執行役副社長・管理本部長 赤星 治

2015年4月に本社と製造拠点を東京から沖縄に移したナノシステムソリューションズ。光学関連機器や画像解析装置、半導体製造装置のメーカーであり、出願中を含み国内外43件の特許を持つ。日本でも最高クラスの技術者集団がなぜ沖縄に移転したのか、同社の赤星治副社長に話をうかがった。

「最たる理由は、やはり立地です。移転前より弊社は自社製品のターゲットのひとつに台湾の大手半導体メーカーを想定しており、沖縄は台湾に最も近い場所のひとつです。輸出に当たりコスト削減の恩恵は大きい。そして、もうひとつの決め手が、ANA沖縄貨物ハブがあったことです」。

同社の製品は数千万円以上する高額なものがほとんどで、輸送する際に破損しないことが何より大切。ANA Cargoは半導体装置の輸送のパイオニアとして、運ぶ技術の高さから世界的に信頼されているブランドである。

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工場内の作業風景

「夕方までにハブに持ち込めば翌日の午前中には納品できるスピードも重要です。トラブル対応のサポートも迅速に行えます。また、弊社が工場を賃貸している中城湾港新港地区は物流特区のために様々な優遇措置があり、ハブまで約30kmと近く、県の研究センターも集積。さらにサンゴ礁の堆積による埋め立て地のため地盤が固く、安定したクリーンルームが不可欠な弊社の事業にとっても万全な環境です。半導体で求められる環境温度の23℃はここ10年の沖縄の平均気温と同様で、更に1日の気温差も東京に比べて格段に少ないため、光学製品製造に求められる±0.1℃以内の厳しい恒温環境を維持するための電気代も約3割削減できるなど、メリットは多く、大きい。沖縄に来ない理由がありませんでした」。

今後、同社では新しい事業として、海外からのオーダーによる受託製造を計画中。自社の露光装置を使い、たとえばフラットディスプレーや有機ELの金型など、超精密加工品を製作する。その際には、特区内で海外から調達した材料を加工などしても関税などがかからない支援制度、保税制度を活用する予定だ。

さらに、赤星副社長が「沖縄だけ」と強く力説したメリットがある。

国内唯一の税制支援制度
明確なビジョンで可能性は無限大

それが、特区内での国税の支援制度。沖縄県には日本で唯一の国際物流特区がある。条件を満たす企業について新設後10年間、法人課税所得の40%が控除される「所得控除制度」、機械や装置、建物、設備などに投資した場合、一定割合が法人税額から控除される「投資税額控除」、同様に機械などに投資した場合に認められる「特別償却」という、3つのうち1つを選択できる珍しい制度だ。

さらに支援制度は多岐にわたる。特区内(うるま地区)で製造した製品について、県外や海外からの資材調達や県外出荷にかかる輸送費の補助金。県の条例に基づく、工場や倉庫などを建設するための経費などや初期投資軽減のための補助金。ナノシステムソリューションズも入居している特区内の工場のリーズナブルな賃貸(今後も増設予定)。設置した事業所で35歳未満の人を3人以上雇い入れるなどの条件を満たすと支援される沖縄若年者雇用促進奨励金などもある。

アフターフォローも繊細である。県の海外事務所が北京や上海、香港、台湾、シンガポールにあり、現地市場の情報を提供。県が海外の企業連携機関との橋渡しを行って現地のパートナーを紹介してくれたり、海外での展示会における渡航費などの支援や、広告などのプロモーションのサポートもしてくれたりなど多彩だ。2015年11月は世界各国のバイヤーと日本全国の食品サプライヤーが沖縄に集結する商談会「沖縄大交易会」を実施するなど、ビジネスマッチングの機会を豊富に設けている。

そして2020年3月末には那覇空港第2滑走路が完成予定。これにより約1.4倍、便数が増えると予測されている。「ネットワークを整備して物流などの拠点を形成し、沖縄が日本とアジアをつなぐ架け橋になる」、という姿は、2009年に県民からのアンケートを基に県として初めて策定した長期構想「沖縄21世紀ビジョン」にも明確に描かれている将来像だ。

沖縄はこれから企業とともに成長していく自治体であり、アジア、ひいては世界にとっても魅力的な場所になるはずだ。


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