2017年3月5日日曜日

あのジャストシステムが大変貌を遂げていた 今や収益柱は「一太郎」「ATOK」ではない


2017年03月05日
「一太郎」はパソコン販売が低迷の影響を受けている(記者撮影)

「漢字苦手だなぁ」

「そこの少年。そんなことより、勉強で大事なのは書いて覚えること」

俳優の藤木直人さんと小学生のやり取りが印象的なテレビCM。専用タブレット端末を使った小学生対象のクラウド型オンライン通信教育「スマイルゼミ」の広告だ。このスマイルゼミを2012年11月から運営しているのが、文書ソフト「一太郎」や日本語表記ソフト「ATOK」などで知られるソフトウエア会社、ジャストシステムだ。

20年近いノウハウの蓄積が強み

「スマイルゼミ」で使用されているタブレット

同社は、全国の小学校の8割、1万7000校への導入実績がある学習・授業支援ソフト「ジャストスマイル」も販売している。最初にこのソフトを発売したのは1999年。パソコン(PC)を利用して授業を行える教師が少なく、環境も整っていなかった当時から学校教育の現場に教育ソフトを提供し続けてきた。「スマイルゼミ」には、このような教育機関向け学習ソフトのノウハウが反映されている。

2013年11月からは「スマイルゼミ 中学生コース」を開始。さらに、進学校を目指すコースや英語プレミアムコースなど新コースも順次投入している。通信教育の正確な会員数や業績については開示していないものの、2013年11月時点では「小学校向け、中学校向けを合わせて10万人という数字が見えてきた」と事業担当者が発言している。足元でも、「コースを拡充している効果もあり、会員数は着実に増えている」(関灘恭太郎社長)という。

一方、同社の創業時からの柱である、「一太郎」、「ATOK」などPC向けソフトウエア市場を取り巻く環境は厳しい。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、PCの国内出荷台数(デスクトップ、ノート型の合計)は、2014年度、2015年度とも前年比2割以上減少。2016年度は下げ止まりの傾向にあるとはいえ、前年度比横ばいで推移している。「一太郎」や「ATOK」も、このような厳しい市場環境の影響を受けている。

しかし、ジャストシステムが「新規事業」と位置づける前述の小中学生向け通信教育事業や企業向けデータ分析ソフトなどが牽引し、同社の業績は好調だ。2010年度以降、5期連続で増収増益。2010年度に13.8%だった営業利益率は、2015年度に27.5%まで上昇した。

とはいえ、好業績を謳歌する現在に至るまでは数々の苦難があった。まず1990年代後半には、当時圧倒的なシェアを握っていた「一太郎」が、米マイクロソフト社の文書ソフト「Word」との激しい競争に巻き込まれた。

そして、2000年代半ば以降は多額の研究開発資金を投入したXML文書の作成・編集技術「xfy」が普及せず、海外事業が不振に陥ったこともあり、資金繰りに苦しんで財務制限条項に抵触するまでに追い込まれた。

キーエンスが救済出資してから大きく変化

そこに救いの手を差し伸べたのが、FA(ファクトリーオートメーション)センサーなど計測制御機器大手のキーエンスだった。2009年4月にジャストシステムの約45億円の第三者割当増資を引き受け、44%出資の筆頭株主に浮上。過半数の取締役を送り込み、不採算事業からの撤退など、抜本的なリストラ策に取り組んだ。

リストラと同時に新規事業の立ち上げも行った。好調な業績を担う小中学生向け通信教育事業も、キーエンス出資後に立ち上げた新規事業だ。2010年度以降に増収増益を続けてきているのは、ジャストシステムが創業時から培ってきた技術力に加えて、このような「キーエンス流改革」があったからにほかならない。

「世の中の定石や固定観念にとらわれることなく、常に変化を意識することが、成長を継続させることに繋がる」

2016年3月に38歳にして経営トップに就任したキーエンス出身の関灘社長は、自社ホームページ上でこのような経営理念を語る。キーエンスが出資した2009年に取締役として送り込まれた関灘社長。当時、同じタイミングで新社長に就任したジャストシステムの生え抜きである福良伴昭氏の下で、経営改革の一翼を担ってきた。

関灘社長の言葉のとおり、ジャストシステムは文書ソフトやオンライン通信教育にとどまらず、毎年のように既存技術を展開した新製品を積極的に投入している。2016年には営業支援のクラウド型サービスを開始。2017年秋には、電子カルテや複数の部署のデータを統合し「全文検索」や「データ分析」が可能な、医療機関向けのデータマネジメントシステムを投入する予定だ。2月に発売した「ATOK」の新製品でもディープラーニングを取り入れた新変換エンジンを採用するなど、技術革新に余念がない。

しかし、名簿流出問題で因縁のあるベネッセコーポレーションがタブレット型の小学生向け通信教育「チャレンジタッチ」に力を入れてきていることなど、これまでの好調な業績を牽引してきた「スマイルゼミ」を取り巻く競争環境は激化している。ジャストシステムは、「キーエンス流経営」で高い成長を継続することができるのか。今後も関灘社長の手腕が問われることになる。

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