2017年3月29日水曜日

人工の血液を無限に作り出す可能性を持つ「不死の細胞」が誕生



By Mariusz Szczepanik 

人間を含む動物は血液がなくては生きていけず、いまこうしている瞬間にもけがや病気などで輸血を必要としている人が世界中に存在しています。現在の技術では、輸血に使う血液は健康な提供者からの献血に頼るしかないのが現状であり、特に珍しい血液型の人にとって血液の不足は非常に重要な問題なのですが、イギリスの研究チームは血液の幹細胞から無限に血液(赤血球)を作り出すことができる「不死の血液細胞」を作り出すことに成功しています。 

March: red blood cells | News | University of Bristol 
http://www.bristol.ac.uk/news/2017/march/blood-cells.html 

Scientists have created 'immortal' cells that could allow them to make artificial blood - Business Insider 
http://www.businessinsider.com/scientists-have-created-immortal-cells-that-could-allow-them-to-make-artificial-blood-2017-3 

Mass-produced artificial blood is now a real possibility 
https://www.engadget.com/2017/03/27/mass-produced-artificial-blood-breakthrough/

この研究を行っていたのは、イギリス・ブリストル大学の Jan Frayne生化学博士を中心とした研究チームです。これまでにも血液を作る幹細胞から赤血球を培養する手法は存在したのですが、効率が極めて低いというのが問題点でした。過去の方法だと、1個の幹細胞が死んでしまう前に培養できる赤血球の数は約5万個だったのですが、この数は一般的な輸血バッグ1つあたりに含まれる赤血球の数が 約1兆個であることを考えるとまさに取るに足らない量であり、とても実用的とは言えないものだったとのこと。 

By Wellcome Images 

この問題に立ち向かうために、研究チームは全く異なったアプローチを進めます。ここで用いられたのが、成熟した幹細胞をもとに細胞の「不死化」を行い、連続的な細胞分裂能力を備えた「赤血球生成幹細胞」を作るというもの。この幹細胞を使うと、もととなる幹細胞は基本的に死んでしまうことがなく、いつまでも新たな赤血球を作り出し続けることが可能になるそうです。細胞の不死化を行うために、研究チームは幹細胞を効果的に細胞分裂の初期段階に「閉じ込める」という手法を用いているとのこと。研究チームはこの幹細胞を「Bristol Erythroid Line Adult」または「 BEL-A 」と名付けています。 

Frayne博士は「これまでの赤血球を人工的に作り出す手法は、一生の間で極めて限られた数の細胞しか作り出せなかった幹細胞に依存していました。私たちの研究では、医療に使うことが可能な量の血液を継続的に作り出すことができる手法を実現しており、すでに何リットルにもおよぶ血液を生成しています」と語っています。 

ヒト由来の不死化された細胞としては、1950年代に細胞株として確立され、ポリオやガン細胞の研究に役立てられた HeLa細胞が存在しています。この細胞株はヒト子宮頸癌を由来とする細胞で、原患者だったヘンリエッタ・ラックス氏からその名前がとられているのですが、ラックス氏は自身の細胞をもとに細胞株が作られたことを知らされていなかったとのこと。一方、今回のBEL-A細胞は匿名のドナーの承諾を得た上で作り出されたものだそうです。 

病気などで多くの血液を必要としている人に希望が広がる今回の研究結果ですが、同チームでは輸血全般にこの技術を用いることは当面考えておらず、まずは特に珍しい血液型を持つ人の血液不足を解消するために活用することを検討しています。これまでの研究結果を踏まえた安全な人工血液の生産は2017年後半にも開始されるとみられています。 

研究チームによる論文は以下のリンクから閲覧することが可能です。 

An immortalized adult human erythroid line facilitates sustainable and scalable generation of functional red cells : Nature Communications 
http://www.nature.com/articles/ncomms14750

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