2017年4月3日月曜日

ビッグデータはどのようにがん治療で活用できるのか?




By KamiPhuc

2015年に製薬会社のRocheが10億ドル(約1111億円)以上を費やし、自社の半分ほどの規模の企業であるFoundation Medicineを買収しました。Foundation Medicineは3万5000人以上のがん患者の腫瘍のDNA配列データを持っており、買収によってRocheはFoundation Medicineのデータベースにアクセスできるようになりました。データベースにはどの薬剤がどの種類のがんを治癒したか、どの薬剤がどれくらいの効果を収めたか、などの情報が含まれており、Rocheはビッグデータを活用したがんの新薬開発を目指したわけです。そんな「ビッグデータをがん治療に活用する」という実例を示した2015年のブログ記事が、Nautilusに再掲載されています。

Cancer on Nautilus: How Big Data Can Help Fight Cancer
http://cancer.nautil.us/article/167/how-big-data-can-help-fight-cancer


がんの診断は乏しい情報を積み上げて行われることが多く、例として、まず不調を来している体の部位を特定し、顕微鏡下で見える細胞の状態はどうか、どれくらいの腫瘍が増殖しているかなどが調べられます。その結果を見て、「大腸がんのステージ2」という風に診断が下されるとのこと。この過程は年々洗練されていますが、同じ部位でも、さらに細かく分類するべきがんの種類の多くが、ひとまとめにされているそうです。

がん治療においてがんの正確な分類は大きな課題となります。2015年当時の抗がん剤では、適正な腫瘍に対するもので治癒率は22%程度であり、正確に腫瘍の種類を特定できなければ、抗がん剤の治癒率の低下につながります。2015年当時、抗がん剤に費やされる年間500億ドル(約5兆5590億円)という費用のうち、396億ドル(約4兆4020億円)が無駄になっているというデータもありました。抗がん剤は時に「試行錯誤の薬」と呼ばれることもあったほどです。

そんな現状を改善できる可能性を秘めているのが、がん腫瘍に対するDNAシークエンシングです。DNA配列を調べることで、ひとえに「腎臓がん」「肺がん」といっても、それらは突然変異のパターンや分子レベルの異常が異なる、数千、数万の疾患に分類できるようになります。2014年の腎臓がんの研究では、2人の患者からまったく同じ遺伝子の異常や、同じ突然変異の腫瘍が見つかることはなかったことがわかっています。別の乳がんの研究では、腫瘍をDNAシークエンシングにかけた結果、1つの腫瘍から同一の細胞は2つと見つからなかったそうです。

しかし、個々のがん細胞が持つ突然変異を特定することで、それぞれの対処法を確立することができるため、製薬会社は特定されたがん細胞に対する分子標的治療薬を開発できるようになります。DNAシークエンシングで特定済みのがん細胞に対する抗がん剤は、従来の抗がん剤よりも高い効果をあげると考えられています。乳がんの分野では、がん遺伝子のHER2遺伝子を見つけることが標準的な治療となっていますが、この検査ではほかの突然変異を検出できません。そのため、包括的に突然変異を検索することが、より良いアプローチとして機能することになります。

By Polygon Medical Animation

Foundation Medicineががん患者から集めていたデータはまさにその類いのもので、患者から受け取ったサンプルは、乳房・骨・肺など、どの部位に由来するがんであるかに関わらず、約300の突然変異をスキャンしていたとのこと。このデータから、特定のがんに対して効果のある既存の抗がん剤を選出したり、より効果のある新薬を開発したりできるようになるわけです。

このようにビッグデータをがん治療に活用するのは簡単なことではないのですが、Foundation Medicineのデータベースからすでに成功例も出ています。3万5000人のデータベースの1人であるCorey Woodさんは、骨と目にステージ5の非小細胞肺がん(NSCLC)が転移していると診断されましたが、投薬治療によって完治しています。一般的に非小細胞肺がんで使われる抗がん剤の治癒率はおよそ20%しかないのですが、データベースを分析したことで、従来の治療では使われない、別の抗がん剤を使用したことが功を奏したそうです。

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