2017年7月25日火曜日

「稼げる子」に育てたいなら会計を学ばせよう


最初は簡単なことから始めるといいでしょう(写真:freeangle / PIXTA)
ビジネス誌の特集や新刊書籍で、「会計」をテーマにした出版物が話題になっている。経営者や経理担当だけでなく、一般社員も会計の知識を得てそれを使いこなすことが必須という風潮だ。
「大人になってからでは遅すぎる。子どものうちから会計の視点は大事だ」と説くのは、『年収1000万円「稼げる子」の育て方』の著者、林總氏。なぜ、子育てに会計の視点が必要なのか。どうやって子どもに授けるのか。林氏が解説する。

会計を学ぶと「視野」が変わる

そもそも管理会計とは何か。管理会計は、「マネジメントアカウンティング」の和訳で、経営者が適切な経営判断をするための会計のことです。管理とは目標を設定し、統制すること。会計とは、活動を貨幣価値に置き換え、見えないものを見えるようにするツールです。
会計を学んだ人とそうでない人のいちばんの違いは何でしょうか。それは、判断力です。なぜなら、会計を学ぶと、
・長期的に見ることができる(人より長い時間軸を持つ)
・俯瞰(ふかん)できる(より広い視点で現状把握できる)
という「会計の眼鏡」を手に入れられます。この「よく見える眼鏡」で物事をとらえ、そのうえで判断を下すため、精度の高い判断になります。
「会計の視点による精度の高い判断力」の一例を挙げましょう。20世紀の初め、アメリカのゼネラルモーターズ(GM)が、過大投資による倒産の危機に直面したとき、社長に就任したアルフレッド・スローンは巨大な会社をシボレー、ビュイック、オールズモビル、オークランド、キャデラックの事業部に分け、それぞれが企業内企業して独立性を保ちながら業績を追求し、最終的には社長がすべてを統制する組織を作り上げました。
ここで用いられたのが、投資したおカネでいくら利益を上げたかを示すROI(投下資本利益率)という経営指標を使った会計手法でした。
ROIとは「利益÷投資金額×100」という式で割り出します。
会社経営で大切なことは、どれだけ投資して利益を稼いだかということです。たとえば、キャデラック部門という高級車を作る事業と、シボレー部門という大衆車を作る事業を比較する場合、生産台数や従業員数ではどちらが儲かっているかはわかりません。
また利益額そのものを単純に比較しても、どちらが儲かっているかはちゃんと把握できません。それがROIを使えば、すぐにわかります。
キャデラック部門の利益が50億円、シボレー部門が60億円だったとします。対して投資金額はキャデラックが1000億円、シボレーが2000億円。ROIはそれぞれ下記のようになります。数字は実際のものではなく、あくまで仮定です。
キャデラック部門ROI:50億÷1000億×100=5%
シボレー部門ROI:60億÷2000億×100=3%
絶対的な利益の金額でシボレーのほうが大きくても、投資金額に対するリターンが大きいのはキャデラック部門ということになります。
会計の目をもたないと、生産台数や利益の絶対額にばかり目がいってしまい、的確な経営判断ができません。実際、会計の素養がなく利益を増やしたいあまり、無節操ともいえる莫大な投資を進めて資金繰りが行き詰まる例はゴマンとあります。スローンが就任する前のGMがそうでした。
スローンは会社全体を事業部に分けて、利益金額ではなく、投資に対する利益を求めました。これにより、GMの財務は強化され、しかも市場の異なる事業部が切磋琢磨(せっさたくま)してマーケティング力をつけた。会計の力により巨大企業を効率的に束ねることに成功しました。
会計を使った経営は1929年の大恐慌でも大いに役立ちました。アメリカの年間自動車販売台数が5分の1に激減するなか、GMの売り上げも190万台から53万台に落ちたのですが、本社が事業部の販売と財務の状況を把握していたため、素早い対応により危機を乗り切れました。

おカネは賢く使ってこそ成果が上がる

私たちはついつい多くおカネがあれば競争に勝てると思いがちですが、現実は違います。持っているおカネを賢く使ってこそ成果が上がるのです。
賢くおカネを使うためには、目標と行動計画、そして現状をおカネに置き換えることが大切です。これは企業や家計はもとより、一人ひとりが人生を生きるために幼い頃から身に付けておくに越したことはない常識ともいえます。
拙著『年収1000万円「稼げる子」の育て方』では、3つの幸福条件を定義しています。
① マネープレッシャーのない暮らしができる
② 好きな仕事ができる
③ 教養が身に付いている
会計の知識は、①の「マネープレッシャーのない暮らしができる」という条件に大きく関係してきます。いつも日々の支払いに追われ、おカネの不安を抱えて汲々(きゅうきゅう)としていることです。 おカネがないのは、本当につらいものです。私が中小企業のコンサルタントをしていた経験からいえば、経営が行き詰まっている会社は、例外なく社内の雰囲気が殺伐としていました。倒産の恐怖にかられ、心に余裕がないのだから、当然の成り行きといえます。
当たり前ではありますが、
支出より収入がつねに上回っている=黒字状態
であれば、マネープレッシャーとは無縁となります。「お金持ちになる」のではなく、「死ぬまで黒字でいる」という意識がまず大事です。子どもにも「黒字」意識をつける教育が大事。そのために会計の視点や知識を子どもに授けるのが、望ましいのです。
実際にはどうしたらいいでしょうか。損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書という「財務3表」の読み方を教えたらいいでしょうか。それとも一緒に複式簿記の勉強をしたらいいでしょうか。
私は、普段の会話の中で事象を数字でとらえることから始めてみるといい、と考えています。
たとえば、「新幹線が将来的に時速400キロメートルの運転を目指す」というニュースを耳にしたら、一緒に「なぜか」を考えてみるといいでしょう。
「同じ車両で2往復するほうが多くの乗客が運べるから売り上げが増えるし、コストはあまり変わらないからだね」
「じゃあ、運転士はこれまでの倍の運転をすることになるけど、給料も倍増するの?」
「1日に働く時間が同じだと思うから、給料はそのままかもね」
「時速400キロメートルなんて怖いから危険手当も欲しいよ」
「すぐ着いちゃうから車内販売はなくなるね」
「弁当屋さんは打撃かもしれない」
など、さまざまな方向に思考を広げていくことで、確実に子どもの視点が変わってきます。

教育費を会計と親の愛で読み解く

たとえば大学の学費について、日本では親が出すのが当たり前のような風潮がありますが、会計の視点で考えてみましょう。
おカネが動けば、その背後には必ず理由があります。会計ではこれを仕訳で表現します。親が子どもの学費を支払えば、それは、
(1)子どもに対しての貸し付けであるか
(2)貸し付けた返済を免除する贈与であるか
上記のどちらかです。

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子どもから見れば、(1)は借り入れ、(2)は受贈です。
子どもに学費を出すのが親の当然の義務と考えたり、子どもが学費を出してもらうのを何とも思わなかったりするのが、当然とは言い切れません。甘えかもしれません。
実は私自身が会計を学び、子どもを持つまでこのことに気づきませんでした。親が子どもの学費を払うのは、子どもには稼ぐ力がないために代わりに支払っているにすぎません。つまり子どもに学費を貸し付けているわけです。とはいえ、そこには親の愛情が働きますから、貸付金の返済はあえて求めない。そのような視点で会計を学ぶことは大変意義深いのです。
(林 總:公認会計士、明治大学特任教授)

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