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2015年10月31日土曜日

腫瘍細胞における薬剤耐性メカニズムを解明したという、ガン治療のややこしい 発見



 2015年10月31日加来 秀一 TECHNOLOGY 医療, 研究
MIT-Cancer-Drug-Resistance-press
(c)Jose-Luis Olivares/MIT (p53 illustration by Richard Wheeler/Wikimedia Commons)
 

細胞の修復機能が却ってガンの治療薬の効果を妨げているという、ややこしい話がMITから発表された。

我々の体には、細胞がガン化することを防いでくれている遺伝子が存在する。それが『P53』と呼ばれる遺伝子だ。

『P53』遺伝子のPはタンパク質(protein)を示し、53は分子量が53,000であることを示しているという。

この『P53』遺伝子は、凄い働きを持っている。それは、細胞内のDNAに損傷があると修復してくれるのだ。

それだけではない、もっと凄いのは、細胞がガン化すると、その異常を来した細胞が自殺するように仕向けるのだ。この、細胞が自殺する機能を『アポトーシス(apoptosis)』と呼ぶ。

つまり、『P53』は我々の細胞がガン化することを防いでくれる働きを持っているのだ。

細胞のガン化を防ぐシステムのバックアップシステムが仇になる

ところが、現実にはガン化が防げず腫瘍ができてしまう場合がある。このようなときは、『P53』が不足していることが分かっていた。

つまり、『P53』の不足によって、ガン化が防げていないのだ。しかし、我々の体はさらに『P53』不足に対するバックアップシステムを持っていた。

ところがやっかいなことに、このバックアップシステムが、ガンに対する化学療法薬の邪魔をしていたことがわかったのだ。つまり、化学療法薬に対する耐性を引き起こしていた。

『P53』が不足しているところで細胞のDNAが損傷しても、それを修復するバックアップシステムが修復を引き継ぐ仕組みがあり、その仕組みで重要な働きをしているのが『hnRNPA0』と呼ばれているRNA結合タンパク質だという。

ところがこの『hnRNPA0』は、『P53』とは致命的な違いがあった。『P53』は修復できずにガン化してしまった細胞を、自殺へと誘導する機能(『アポトーシス』)をもっていた。

しかし『hnRNPA0』は、ガン化してしまった細胞を分裂させ続けてしまうのだ。

しかもやっかいなことに、この『hnRNPA0』が働き出すと、化学療法薬で細胞が殺されないように耐性をもたらしてしまう。

どおりで化学療法薬が効かないわけだ、と科学者達は気付いたことになる。

そうすると、次にやるべきことは、このバックアップシステムを停止させることではないか。

化学療法が効果的な患者を見分ける方法

medicine, health care, people and prostate cancer concept - male doctor with clipboard and patient meeting and talking at hospital
source:https://pixta.jp/
 

そしてバックアップシステムを遮断することで、化学療法薬が効果的になる『P53』欠損腫瘍に変えることができるとわかった。

実はこのバックアップシステムの存在は、2013年には発見されていた。そして新たな研究では『hnRNPA0 RNA結合タンパク質』を活性化させているのがMK2タンパク質であることが分かったのだ。

しかし、『hnRNPA0 RNA結合タンパク質』の分子レベルでの機能の詳細がまだ分かっていないらしい。

どうやら『hnRNPA0』は細胞分裂プロセスにおいて2つのチェックポイントを持っているらしく、細胞が健康なときはこれらのチェックが停止しているようだ。

そのうちの1つは、例の『P53』によって起動する。

ところが『P53』が無いときは、『Gadd45』と呼ばれるタンパク質によって制御されることがわかった。その結果、『P27』と呼ばれるタンパク質のために『mRNA(messenger RNA)』を安定させる働きがあるという。

 

と、ややこしい話しが続いたが、結局出された結論は、『Gadd45』と『P27』の『mRNA』の濃度を測定することで、その患者に化学療法が効果的かどうかが予測できるようになる、ということだった。

こういうややこしい研究の地道な積み重ねによって、ガン治療は進歩している。

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