(2015/12/24 06:00)
こんな経験はないだろうか。急に社内のWi-Fiが使えなくなったのだけど、この障害がインターネット回線の問題なのか、ルータの問題なのか、スイッチの問題なのか、無線LANアクセスポイントの問題なのか、はたまた端末の問題なのか――。高度なスキルを持った情報システム部門がある大企業ならともかく、専任のIT担当者を置く余裕のない中小規模の企業では、ネットワークに何か障害が発生した際の切り分けは容易ではない。結果、復旧までに時間がかかり、ビジネスにも影響を及ぼしてしまう。
近年、ほとんどの企業にとって、インターネットを含むネットワークは、ビジネスの重要な基盤となっている。企業やビジネスの規模の大小にかかわらず、ネットワークの障害はビジネスの停止、損失につながる時代だ。にも関わらず、中小規模の企業では社内ネットワークの管理が十分ではないというケースがほとんどである。
そこで、そうしたネットワークの課題を解決するために、「LANの見える化」を提案しているのが、ヤマハである。
「ルータのヤマハ」から「ネットワーク機器のヤマハ」へ
ヤマハが初めて市場に投入したネットワーク製品は、1995年に発売したISDNルータ「RT100i」だ。以来、多くの製品を市場に送り出し、2015年の今年はネットワーク製品発売20周年にあたる。特に、SOHOルータでは大きなシェアを獲得し、2004年から11年連続シェア1位となっている(注1)。「ルータと言えばヤマハ、ヤマハと言えばルータ」というイメージを持つ人も多いだろう。
ルータ中心の製品展開を続けてきたヤマハが、スイッチや無線LANアクセスポイントの提供を開始したのは2011年だ。SN営業部 営業推進課 担当課長の平野尚志氏は、「このままルータ中心のビジネスを続けるのか、事業ドメインの再検討を行ったのが2009年ごろのことです。お客さまが求めていることをあらためて考え、それが“端末”と“サービス”の接続性であるという結論に至りました」と当時を振り返る。
ヤマハでは当時、2008年に市場投入したVPNルータ「RTX1200」が高い評価を得ていた。「これは今でも続いていますが、“ヤマハのルータは壊れたりハングアップしたことがなく、動いて当たり前、安心して利用できます”という評価を多くのお客さまからいただいていました。WANへの接続性については、かなりの満足を得ているという実感がありました」と平野氏。しかし、まだネットワークへの課題はあるということも分かってきた。それがLANについての課題だ。
「配線の複雑化・老朽化、ケーブルの障害増加、LAN管理の大規模化・煩雑さ・困難さ、無線LANと有線LANの統合など、LANへの課題は逆に増えていることが分かりました。端末とサービスの接続性を考えた時に、経路の品質向上を図るためには、WAN側のルータだけでなく、LAN側の品質も高める必要があるのではないかということで、2009年に“ヤマハルータ”から“ヤマハネットワーク機器”へ事業ドメインを拡張したのです」と平野氏。
以降、ルータにとどまらず、スイッチや無線LANアクセスポイントなどの開発、提供が始まる。
【注1】
出典:IDC Japan, May 2015,「国内ネットワーク機器市場 2014年の分析と2015年~2019年の予測:ルーター、イーサネットスイッチ、無線LAN機器市場」
ヤマハルータを司令塔に、ネットワークを「見える化」
ヤマハが製品を開発、提供していく際にもっとも重視しているのが、顧客とのコミュニケーションだ。平野氏は、「お客さまが本当に困っていることを探して、それを解決していくというモノ作りをずっとしてきています」と話す。顧客がLANの管理に困っていることは分かった。では、解決するために何ができるのかということを考えた時に、ヤマハが出した結論が、端末とサービスをつなぐ経路を「見える化」することだ。
「ネットワークに何か障害が起きた際には、まずヤマハルータを確認して、そこから上(WAN側)の障害なのか、下(LAN側)の障害なのかを切り分けるというお話を多くのお客さまからお聞きしました。つまり、ヤマハルータが障害を切り分けるキーになっている。では、ヤマハルータからLAN機器を見える化、制御するのが良いのではないかと考えました」(平野氏)。
そこで開発されたのが「L2MS(Layer2 Management Service)」と「LANマップ」である。L2MSは、「LANの見える化」を実現するコア技術で、L2MSコントローラーからL2MSスレーブとなるレイヤ2(L2)のスイッチやアクセスポイントの制御・状態取得を行う。LANマップは、ユーザーに「LANの見える化」を提供するため、L2MSのコントローラーとなるヤマハルータ上で実現されていて、トポロジー表示、VLAN一括設定、端末検索などの操作が可能となる。
2011年の当初、「LANの見える化」は「スイッチ制御GUI」の名称で実装されたが、顧客とのコミュニケーションを通じて機能を強化、改善。2014年には「LANマップ」と名称を変え、2015年にはスイッチだけでも見える化を実現する「LANマップ Light」も提供されている。
「最初のスイッチ制御GUIは、ルータのLANポートを拡張可能にするコンセプトで、ルータから設定してLANの状態が見えることを実現してスタートしましたが、お客さまに使っていいただき、お話を伺う中で、管理・運用に困っているという実態が浮き彫りになってきました。そこで、さまざまな機能を追加、改善していき、“LANマップ”という形で皆さまにお使いいただけるようにしたのが2014年のことです。お客さまの声を取り入れながら年々進化しています」と話すのは、SN開発部 ネットワーク機器グループ 主任の新井田博之氏だ。
2011年当初、L2MSは「スイッチ制御機能」という名前だったが、アクセスポイントの管理や端末情報の収集など、LAN関連の管理機能が拡充されていく中で、LAN関連の管理機能を総称するよりふさわしい名称として、「L2MS」が設定された。
「見える化」に加えて、監視の機能も提供する「LANマップ」
LANマップは、分かりやすくいえば、LANの見える化を実現するWebアプリケーションだ。ヤマハルータ(RTX1210)にヤマハのスイッチ、無線LANアクセスポイントを接続すれば、端末まで含めたLANのネットワーク構成や各機器の情報をWeb GUI上で確認することができる。従来のスイッチ制御GUIでは、トポロジーの表示までにとどまっていたが、LANマップでは接続されている端末まで見られるように拡張されている。ネットワーク機器だけでなく、その配下のPC、プリンタ、ネットワークカメラ、スマートデバイスなども表示可能だ。さらに、LAN全体の俯瞰(ふかん)や、報告書作成のニーズに応えるために、ネットワークの一覧表示や一覧印刷が可能な「一覧マップ」機能も追加されている。
「LANマップは洗練された画面になり、ユーザビリティが向上していることがスイッチ制御GUIとの分かりやすい違いですが、本質的にはLANを常時監視・管理できるようになっている点が、これまでと大きく異なります。お客さまから、『スイッチ制御GUIは便利だけど、24時間GUIを開いているのは大変だ』という声をいただきまして、裏で動き続けて、GUIを開いていなくても、何かあった時には通知できるように拡張しました」と新井田氏は話す。
LANマップに搭載されているスナップショット機能は、LANマップで保存されたネットワークの状態から変化が発生した際に、その差分を分かりやすく表示する機能だ。当初は表示する機能のみが提供されていたが、変化が発生した際にメールで管理者に通知する機能も追加されている。
例えば、未登録の端末が接続されたり、登録されていた端末が外れたりした際には、LANマップを立ち上げていなくても、それを通知してくれる。つまり、スイッチ制御GUIが情報を取りにいった時に受け取ることができる“プル型”だったとすれば、LANマップは“プッシュ型”となったのだ。この変化によるメリットは非常に大きい。
「ネットワークが使えなくなった時に、『この部分に問題があるので直せば解決します』という切り分けが素早くできるようになったのはもちろん、利用しているユーザーが気付く前に異変を認識して、先手を打ったり、あらかじめ情報提供を行ったり、ということも可能になります」と新井田氏。
またLANマップでは、タグVLANを使いやすくする機能もスイッチ制御GUIからさらに向上している。LANマップ画面でL2MSコントローラーとL2MSスレーブのVLAN設定がまとめて行えるのに加えて、ルータのVLAN間フィルタリングやDHCPの設定も行えるのだ。
お客さまの声を聞きながら、ラインアップを拡充
ヤマハが現在提供しているスイッチは、3シリーズ8製品。2011年に提供を開始したスマートL2スイッチ「SWX2200シリーズ」に加え、2015年6月にシンプルL2スイッチ「SWX2100シリーズ」、2015年9月にインテリジェントL2スイッチ「SWX2300シリーズ」が発売された。
「お客さまとのコミュニケーションで、“普通のスイッチが欲しい”というお話を多くいただきました。そこで、従来提供していたスマートL2スイッチの上と下を加える、つまり、ラインアップを拡充したという形になります。これでようやく、業界標準の機能を網羅し、お客さまのニーズにも幅広く対応できるようになりました」と平野氏。
SWX2300シリーズは、業界での標準機能を搭載したインテリジェントL2スイッチで、SWX2200シリーズの上位機種にあたる。L2MSスレーブとしてLANマップに表示させることもできる上に、SWX2300シリーズ自体をL2MSコントローラーとして動作させることもでき「LANマップ Light」機能が搭載されているため、上位に接続するルータがヤマハ製品以外でも、配下のヤマハスイッチや端末の接続状況を、SWX2300単独で“見える化”できる。
「SWX2300シリーズは、サーバー室に設置し、建屋や階をまたがるLANの一元管理を実現するといった利用が想定されますので、SFPスロットを備えた多ポートのモデルとなっています」と平野氏。
SWX2100シリーズは、SWX2200シリーズの設計思想を踏襲しつつ、基本機能に特化したコストメリットの高いシンプルスイッチ。L2MSスレーブとして動作させることができるため、ヤマハルータと接続することで、LANマップ上に表示が可能だ。シンプルなスイッチであるため、低コストで提供されているものの、L2MSでの管理にきちんと対応しているのは、大きなメリットといえるだろう。
「多くのお客さまのニーズに応えることのできるラインアップがそろいましたが、まだ十分ではありません。お客さまの声を聞きながら拡充していく予定です。特に、SWX2300シリーズに搭載されているLANマップ Light機能に関しては、スイッチに求められる機能を見極めて機能拡張していきたいと考えています」と平野氏は今後の展望を語った。ちなみに、ヤマハネットワークエンジニア会で提供されている遠隔検証システムでは、RTX1210のLANマップとSWX2300シリーズのLANマップLightが体験できるようになっているので、意見を書き込んでみるのも良いだろう。
顧客とのコミュニケーションを重視し、課題を解決するための製品・機能を開発、提供し続けるヤマハ。この真摯な姿勢こそが、ルータで大きな市場を獲得した原動力となっており、これからも進化と複雑化を続けるネットワークの世界で、顧客の課題を解決する大きな力となってくれるに違いない。
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