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Dr.岡本のペットのがん治療最前線
-最先端がん治療(3)-
今回は最先端がん治療として高強度収束超音波治療を紹介します。《前回の記事を見る》
【高強度収束超音波治療とは】
超音波装置は医学および獣医学領域で超音波検査に使用する装置として広く普及しています。超音波の特徴は、生体に対して侵襲が極めて低いことです。また生体の深部まで到達します。この超音波の強度を高め、さらに椀状の変換器などを用いて焦点を合わせると、効率的な熱産生を誘導できます(図1)。さらに超音波はキャビテーションと呼ばれる非熱的作用も引き起こします。キャビテーションとは、液体に超音波が当たると気泡が生じる現象であり、その気泡が弾けて起こる衝撃波、あるいは微小ジェット流もがん細胞を破壊すると考えられています。
この原理を利用した治療が高強度収束超音波(High Intensity Focused Ultrasound: HIFU)治療と呼ばれるものです。人医療では、子宮筋腫、前立腺がん、乳がん、肝がん、転移性肝がん、腎がん、膵がん、軟部組織の肉腫、骨腫瘍などに対して HIFU治療が用いられており、前立腺がんの治癒率は、90%にも達しています。副作用として、皮膚の火傷の可能性が指摘されています。
いっぽう、獣医領域では世界的にもHIFUで治療したとの報告はありません。鳥取大学農学部附属動物医療センターでは、国産 HIFU治療器を開発すべく数年前より東京女子医大、東北大と共同研究を行っています。今回、犬の骨盤および大腿部に発生した軟骨肉腫および骨肉腫に対し、薬剤を併用したHIFU治療を行いましたので、その概要を紹介します。
【症例1】
犬、ミニチュア・シュナウザー、未去勢雄、13歳(図2 )。10歳8ヶ月齢時、右臀部の腫脹を主訴に、本学附属動物医療センターを紹介来院されました。生検と CT検査により、骨盤由来の軟骨肉腫と診断されました。温熱療法、腫瘍の減容積手術、凍結治療などを行い、腫瘍拡大を抑制していましたが、腫瘍は漸次腫大してきたため薬剤併用によるHIFU 治療を飼い主に提案し、実施することになりました。
図2.HIFU治療風景。
HIFU照射前日に、超音波感受性物質である薬剤を静脈内投与しました。翌日、全身麻酔下でHIFU 治療を行いました(図3)。1回目のHIFU治療翌日より跛行の軽減がみられました。血液検査所見に異常はみられず、薬剤の犬への副作用も認められませんでした。2ヶ月後、2回目の HIFU治療を行いました。現在1回目治療より6ヶ月が経過していますが、腫瘍の増大は認められず(図4)、跛行は認められていません。
図3. HIFU治療風景。※印は水袋、赤破線はがんを示しています。
図4.CT検査像。
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【症例2】
犬、ゴールデン・レトリーバー、未去勢雄、9歳(図5 )。左後肢の跛行を主訴に本学附属動物医療センターを紹介来院されました。病理診断により、非上皮性悪性腫瘍と診断されましたが、由来の特定には至らず、骨肉腫である可能性が強く示唆されました。通常、四肢に発生した骨腫瘍の治療としては、断脚術が第一選択とされます。しかし飼い主が断脚術を希望されなかったため、代替療法として凍結治療を行いました。治療後、跛行は一時的に改善しましたが、約1ヶ月後跛行が再発し、さらに痛みが悪化して非ステロイド剤ではコントロールできず、ステロイド剤の投与をしていました。図 6は治療前の患肢X線像です。
図5.症例2。
図6.治療前の患肢X 線像。黄色破線部が病変。
症例1と同様の薬剤を併用したHIFU治療を行いました。治療翌日より跛行の軽減がみられました。治療2週間後の CT検査では、腫瘍全体として大きさに変化はありませんでしたが、HIFU照射部位は、 MRI画像において低信号を示し、腫瘍組織の変性が示唆されました(図7)。治療後4ヶ月が経過し、患部は漸次腫大は見られました。しかし痛みは非ステロイド剤でコントロールできる程度に収まっている状態でした。
図7.造影MRI 検査像。黄色破線部の造影強度が減弱している。
今回の薬剤を併用したHIFU治療は、従来のHIFU 治療に比べて超音波の出力は50分の1と極めて低出力で、治療時間も短時間で実施しました。症例1では腫瘍増大抑制、症例2では一般状態の維持が確認できました。また、懸念していた皮膚の火傷も生じることはありませんでした。今後は、超音波出力と照射時間を適切な強度まで高めることにより、より効果的な抗腫瘍効果を期待ができるものと思われます。
本治療は臨床治験のため、治療前後の検査費以外の費用は大学負担で行います。興味のある方は下記のHPにお問い合わせください。
鳥取大学農学部附属動物医療センター:http://vth-tottori-u.jp/
文/岡本芳晴(おかもとよしはる)
昭和34年兵庫県生まれ。昭和58 年北海道大学獣医学部獣医学科卒業。昭和62年北海道大学大学院獣医学研究科予防治療学専攻博士後期課程中途退学(博士号学位取得)。昭和62 年より鳥取大学助手農学部。平成15年教授に就任。
◆専門:獣医外科学(小動物外科専門医)
◆主な研究テーマ:がんに対する先端的治療(がん免疫療法、光線温熱化学療法等)の開発、内視鏡下手術の獣医臨床応用、等
◆所属学会:日本獣医学会(評議員)他
◆趣味:詩吟、家庭菜園、海草採取、バイク、ワイン、読書
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