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2018年5月31日木曜日

マインクラフトを活用した教育事例の紹介や多様な教材のワークショップなど体験型イベント──Microsoft Education Day 2018レポート

勉強の為に転載しました。

マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)のグループ「MIEE Talks@」は2018年2月24日、日本マイクロソフトと共催で教育ソリューションの体験型カンファレンス「Microsoft Education Day 2018」を開催した。
当日は、マインクラフトを活用した教育の事例紹介や、さまざまなICTソリューションやプログラミング教材を体験できるワークショップが用意され、教育関係者や一般参加者など合わせて220名が集まった。
「Microsoft Education Day 2018」では、教育版マインクラフトの新機能も展示された

プログラミング教育の本質は、変革に対する当事者意識を育てること

「Microsoft Education Day 2018」の基調講演を務めたのは、ビジュアル言語Viscuit(ビスケット)開発者の原田康徳氏だ。講演では「ビスケットが目指すプログラミングのバリアフリー」と題して、ビスケットで学ぶプログラミングの事例を紹介しつつ、原田氏が考えるプログラミング教育の方向性について語った。
ビジュアル言語Viscuit(ビスケット)の開発者・原田康徳氏
ビスケットは、手描きした絵を「メガネ」と呼ばれる円の中に配置することで、プログラムを組み立てるのが特徴だ。仕組みが簡単なうえ、スマートフォンやタブレットでも扱えることから、小学校や民間のスクールなどプログラミング教育の現場でよく使われている。2017年度は総務省が実施した「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業」にも採択され、障がいのある児童生徒を対象にしたプログラミング教育などにも取り組んでいる。
ビスケットでは、どのようなプログラミング教育を実施しているのか。原田氏は総務省の事業で取り組んだ小学校や特別支援の事例を取り上げた。
まず最初に子供たちは、「めいろゲーム」や「ゆらゆらおばけ」と名付けられた簡単な5つの題材に取り組むことから始まる。例えば「うごくもよう」という題材では、描いた図形や線が規則正しく一定方向に動くことで描かれる模様の美しさを体験する。その後、講師が子供たちにコンピュータの特性やプログラミングの考え方を説明するという。この題材で子供たちは“コンピュータは正確に繰り返す”という特性を学び、そこからコンピュータが得意なこと、人間が得意なことはなにかを考えるというのだ。
「うごくもよう」の題材。三角形が左に移動する度に緑の棒が追加され、その棒は下へ移動するプログラム。コンピュータが得意な繰り返しを使って、きれいな動く模様を作る
「うごくもよう」を体験した後に、コンピュータは正確に繰り返すという特性を学ぶ。その後、人間とコンピュータの違いについて、それぞれの得意とすることは何かを考えるという
ほかにも、「かぜがうつる」という題材では、風邪をひいた人と健康な人をつくり、両者がぶつかったら風邪がうつる、というプログラムを作る。その動きの変化を情報と物に置きかえて、情報の伝わり方をシミュレーションで学ぶ。加えて「たまごがわれたら」という題材では、単純なプログラムをいくつもつなげることでコンピュータは複雑な動きが可能になることを学ぶ、という具合だ。
このように与えられた題材の作品を作りながら、コンピュータの特性やプログラミグの考え方を学ぶのが、原田氏らが行っているプログラミング教育だ。今回の実証事業では、全国11地区で同様のプログラミング教育を実施したというが、児童らのアンケートからは好意的な意見が多く寄せられている。原田氏は「プログラミングは簡単で、自分もできるというイメージを持ってもらうことが5つの題材のねらい。この活動を通して、コンピュータは勝手に進化するのではなく、未来のコンピュータは自分たちが作っていくんだというメッセージを伝えていきたい」と想いを語る。
ビスケットでプログラミング教育を受けた児童のアンケート。実際に現地の学校に赴くのは、原田氏が指導したメンターだという
一方で、原田氏は義務教育におけるプログラミング教育について、「民間のスクールと違って10割の子供を相手にしている以上、分からない子を出してはならない」と述べた。プログラミングは早く終ることよりも、良いものを作ることの方が重要であるため、時間さえかければ、コンピュータに向いていない人はいないと付け加えた。
そして今、プログラミング教育を通して子供たちに伝えるべきことは、「この時代の変革に対して、当事者意識を持つことだ」と原田氏は強調した。先の予測が難しい今の時代、“プログラミング教育で〇〇スキルが必要”というだけでは間に合わない。子供たちの当事者意識を育てるためにも、できるだけ早い段階で子供を手放し、自分で学べる場を提供することが大切だという。「先生に教えてもらったからできたのではなく、自分でできたと思えることが重要だ」(原田氏)。ビスケットでは、そうした理念を大切にしながらプログラミング教育を行っていると締めくくった。

教育現場におけるマインクラフトの活用事例を紹介!

続いては、マイクロソフト認定教育イノベーターによる実践発表が設けられた。登壇者のひとりである西町インターナショナルスクールの堀井清毅教諭は、「Minecraft:Education Edition」を活用した言語学習の事例を発表した。
同教諭は、日本語が第2言語となる子供たちに対して、マインクラフトを使いながら楽しく日本語を学ぶ学習を実践している。具体的には、「学校のPRビデオをつくろう」という課題解決型学習の一部でマインクラフトを活用し、よりリアルな文脈の中で、子供たちが日本語を発するよう促しているというのだ。
「学校のPRビデオをつくろう」という学習で、子供たちが作成中の校舎。ひとつのワールドに同時に複数人がアクセスして、ひとつの建造物を作る
堀井教諭は、「言葉の学習は形式的で、教師が言ったことを繰り返す授業になりがち。ところがマインクラフトを活用すると、子供たち同士でリアルな文脈が生まれるのが良い」と語る。子供たちはマインクラフトで何かを作りたい一心で、友達とコミュニケーションを取りあう。当然のことながら、そこで繰り広げられる会話は、教科書で学ぶ日本語とは明らかに異なる。こうした生きた言葉が飛び交う環境を提供できることがマインクラフトのメリットであり、学びの質を高めると同教諭は語った。
そのほか、那須町教育委員会の星野尚氏は今後取り組むプロジェクトとして、マインクラフトを活用した同町の再現ワールドの内容を説明した。また東京都武蔵村山市立第八小学校の川上尚司教諭は、通級学級に通う子供たちがプログラミングの考え方を用いて、自身の行動を振り返る事例を紹介。千葉大学教育学部附属小学校の小池翔太教諭は、初めての担任で受け持った3年生のプログラミング授業について発表した。
西町インターナショナルスクールの堀井清毅教諭。プライベートでもマインクラフトを用いたオンラインの日本語クラスを運営している
栃木県那須町教育委員会の星野尚氏は、「マインクラフトを活用した那須町歴史探訪の学習」を発表。ジュニア学芸員と一緒に那須町の失われた風景をマイクラで再現するという
東京都武蔵村山市立第八小学校の川上尚司教諭は、通級学級での事例を紹介。生活のある場面を4コマ漫画にまとめて、フローチャートを活用しながら上手く行かなかった原因などを客観視する活動を取り入れている
千葉大学教育学部附属小学校の小池翔太教諭は、小学3年生で実施したプログラミング教育の事例を紹介。Hour of Codeやmicro:bitなどを活用した1年間の取り組みを述べた

教育版マインクラフトの新機能。化学が学べるリソースパック

「Microsoft Education Day 2018」では、米マイクロソフトが2018年1月22日(現地時間)に発表した、Minecraft:Education Editionの新機能「Chemistry Resource Pack」も展示された。
同機能は、マインクラフトの世界で楽しく化学が学べるよう、水素や酸素などさまざまな物質のブロックを使って化学化合物を作れるのが特徴だ。これにより、例えばヘリウム風船をブタにつないで空に飛ばしたり、TNT爆弾を一から作ることもできる。オリジナルのマインクラフトにある作業台と同じ感覚で使える「元素構成器」や「化合物作成器」、「実験テーブル」などが用意され、マインクラフトの世界の中で化学実験が楽しめる。
Minecraft:Education Editionの新機能「Chemistry Resource Pack」が展示された。写真はヘリウム風船をブタにつないで空に飛ばす実験
「Chemistry Resource Pack」で使える元素ブロックの一覧
「元素構成器」のテーブル。陽子・中性子・電子を操作して118元素学べる
「化合物作成器」のテーブル。試しに「Na(ナトリウム)」と「Cl(塩素)」を合成してみると「NaCl(塩)」ができた
さまざまな物質を組み合わせた化学実験ができる「実験テーブル」
風船をつくる時は、今までのマインクラフトと同じで「作業台」を使う。化合物作成器で作ったゴム(ラテックス)と赤い染料、首ひも、ヘリウムを組み合わせれば赤い風船ができる

ICTソリューションや教材を体験できるワークショップ

イベントでは、ほかにもさまざまなICTソリューションが展示された。
しくみデザインは、PCを触ることなく、手の動きだけで直感的に演奏できるAR楽器「KAGURA for education」を展示した。PC画面上にある音アイコンに触れると、あらかじめ設定した音が奏でられる仕組みで、テンポに合わせてアイコンをタッチすれば楽曲制作ができる。同製品のワークショップに参加した来場者に話を聞くと、「音楽と親和性が高いプログラミング教育に活用できる」「特別支援の子供たちに対して音楽表現のツールとして活用できる」など好意的な意見が多かった。
AR楽器「KAGURA for education」。あらかじめ設定した音アイコンに触れるだけで音楽を奏でることができる。教職員/教育機関向けのライセンスが用意されている
東京書籍は自分で作成できるARアプリケーション「マチアルキ」を展示した。撮影した写真や動画など、さまざまなコンテンツを専用アプリに登録するだけで、誰でも簡単にARを作って発信することができるという。例えば、地域の名店、観光地の案内掲示板、地図、子供の作品など、ARで新しい情報を発信することができる。
ほかにもイベントでは、教育関係者の関心が高い「micro:bit」(スイッチエデュケーション)や、木のボディを組み立てる、サーボモータ搭載の本格的4足歩行プログラミングロボットキット「FAB WALKER」、コンピュータを使わずにプログラミング学習ができる電子回路モジュール「PIECE」(イーケイジャパン)など、多くの企業が出展した。
ARアプリケーション「マチアルキ」(東京書籍)
「micro:bit」(スイッチエデュケーション)
木のボディを組み立てる、サーボモータ搭載の本格的4足歩行プログラミングロボットキット「FAB WALKER」
コンピュータを使わずにプログラミング学習ができる電子回路モジュール「PIECE」(イーケイジャパン)
また、さまざまなプログラミング教材やICTソリューションを体験できるワークショップも実施された。なかでも来場者の関心が最も集めたのは、「micro:bit」を用いたワークショップだ。micro:bitと車のパーツを組み合わせて、ライントレースカーを作るというものだが、安価で汎用性が高いmicro:bitは教育現場で扱いやすいのか、多くの教育者が集まり、手を動かしながら学んでいた。
micro:bitを使ったライントレースカーのワークショップは来場者の関心も高く、多くの人が集まった
このように丸一日をかけて開催された「Microsoft Education Day 2018」には、多くの来場者が集まり、終始楽しい雰囲気で進められた。子供たちのために教育者が研鑽する場であることは変わりないが、まずは自分が楽しもうと教育者同士が交流していたのが印象的だった。楽しい学びを子供たちに還元するためにも、教育者たちがワイワイ言いながらカジュアルに楽しめる、こうした機会は貴重だといえるだろう。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。

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