はじめに・・・・・・肥満と癌
肥満は成人病だけでなく、様々な癌の危険性を増加させることが解っています。「肥満を現代社会から追放できれば癌が3割減る」という報告もあります(これはタバコ並みの危険因子です!)。そして癌の中で、特に肥満との関係が深いのが大腸癌です。
なぜ、肥満が癌を引き起こすのか?複数のメカニズムがあるのですが最も重視されているのは「肥満 ⇒ 慢性炎症 ⇒ 発癌」という流れです。
「肥満が炎症を起こす?」と疑問に思う方が多いでしょう。この炎症とは自覚に乏しい慢性的な炎症で血液検査で解るような「軽度の持続的な炎症」です。
解り易い例は「肝臓」です。肥満により肝臓に脂肪が沈着すると(脂肪肝)、脂肪細胞の分泌する炎症物質により慢性的な炎症が起き(慢性肝炎)その炎症の結果として肝硬変,肝臓癌に発展します。
しかし大腸は肝臓のように脂肪沈着や脂肪による炎症は起きません。なぜ、肥満が大腸癌を引き起こすのでしょう?
実は、このメカニズムは完全には解明されていません。
現時点で解っていることは大腸癌の発生に脂肪組織が分泌するホルモン、全身の慢性炎症、中性脂肪、血液凝固異常などが関与しているということです。これらは「動脈硬化」の原因です。つまり大腸癌と動脈硬化は同じスペクトラムの病態であると言えます。
アスピリンによる大腸癌予防
「動脈硬化の予防薬」として最もポピュラーなのはアスピリンです。値段が安く、歴史が古いため副作用が十分に解明されており国民的規模で投与する薬として理想的なのです。そして大腸癌の予防薬としてもアスピリンが非常に有望視されてきました。
国立がんセンター、京都府立医大と日本を代表する大腸内視鏡の専門医達によって達成された大規模臨床試験の結果が、最近、発表されました。
結果は非常に魅力的なもので「副作用の危険がほとんど無い低容量アスピリン(1日100mg)で大腸腺腫の発生を40%減少させた」というものです。
投与されたアスピリンは1日100mgで、これは「子供の解熱剤」として使う量であり成人なら、まず副作用の心配の無い量です。また保険適応ではありませんが値段が安い(1日当たり5円前後)ので問題ではありません。
大雑把に言って40%抑制という数字は大腸内視鏡の「約半分の効果」と言えます。1日5円でこの効果が得られるという意義は大きいです。(観察が雑な医師に検査を受けるよりはアスピリンを服用する方が確実と言っていいと思いますし、たとえ名人の内視鏡でも「死角」がありますからポリープ多発症の方は内視鏡検診にアスピリンを併用することは意義があります)
高血圧、高脂血症など「メタボ」で通院中の方で大腸癌が心配な方は、血栓症(脳梗塞、心筋梗塞)予防も兼ねてアスピリンを開始していいと思います。かかりつけの先生と相談してみてください。今回の報告を受けて、生活習慣病の専門の先生も前向きな検討をするはずです。
では「メタボ」ではなく血栓症のリスクが全く無い方で大腸癌が心配な方はどうすべきでしょう?
欧米では昔からアスピリンの癌予防効果の研究が盛んで最近は胃癌、食道癌、肺癌、乳癌なども予防されると報告されています。しかし欧米でもアスピリンを癌予防に幅広く投与するということは普及していません。
何故か?それは「アスピリンには出血が止まり難くなる副作用がある。特に脳出血の場合は致命的にもなる」という危惧があるからです。
1日100mgのアスピリンの危険性はメリットに比較して十分に小さいと予測されるのですが・・・・残念ながら、この部分の最終的な結論は出ていません。
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