慶應義塾大学は、血中乳酸値の上昇に対して、酸素濃度センサー分子のプロリン水酸化酵素PHD2を不活性化させることで、肝細胞がより多くの乳酸を血中から取り込み、血中乳酸値を低下させるというメカニズムを解明したと発表した。
慶應義塾大学は2015年9月9日、同大医学部の南嶋洋司特任講師らの研究グループが、血中乳酸値の制御メカニズムを解明したと発表した。乳酸アシドーシスにつながる血中乳酸値の上昇に対して、プロリン水酸化酵素PHD2を不活性化させることで肝細胞がより多くの乳酸を血中から取り込み、血中乳酸値を低下させるという。
乳酸アシドーシスは、心不全・敗血症などの重篤なショック状態により、血中乳酸値が上昇することで引き起こされる。従来、細胞の酸素濃度センサー分子であるPHD2が抑制されると、低酸素応答が活性化し、大量の乳酸が細胞から血中に放出されるといわれていた。しかし、マウスの全身の細胞でPHD2を破壊して低酸素応答を活性化させたところ、血中乳酸値が野性型マウスより低値だったという。そこで同研究グループでは、血中の乳酸を分解する反応が活発な肝臓に着目。PHD2遺伝子を肝臓でのみ破壊することで、肝臓でのみ低酸素応答を活性化したマウスを作製し、肝臓の低酸素応答が全身の乳酸の代謝に与える影響を観察した。
その結果、同マウスでは、運動負荷を加えて高乳酸血症を誘導しても、野生型マウスに比べて血中乳酸値は低値で、野生型マウスより長時間走ることができた。また、致死量の乳酸を腹腔内に投与しても、血中乳酸値は野生型マウスより低値で、生存率も改善した。
さらに、同研究グループは、致死量の大腸菌毒素(LPS)を投与した敗血症モデルマウスに、PHD2の阻害剤を経口投与した。同マウスは、野生型マウスに比べて血中乳酸値が上昇せず、生存率も改善したという。経口投与した薬剤は、消化管から吸収され、門脈を経由してまず肝臓に作用するため、この結果は肝臓における低酸素応答をPHD2阻害剤などで活性化すると、血中乳酸値を低下させられることを意味している。
同成果により、肝細胞における低酸素応答は、乳酸の放出を高進させるのではなく、逆に乳酸の取り込みを活性化させるという、新たな事実が証明された。同研究は、肝臓におけるPHD2を介した低酸素応答を標的とする、乳酸アシドーシスや敗血症などの新たな治療法開発につながることが期待できるとしている。
なお、同研究成果は、2015年8月31日に米科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン速報版で公開された。
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