通常画像診断に用いられる「核磁気共鳴画像診断装置(MRIスキャナー)」を用いた、新しい発想の画期的ながん治療法が開発された。
磁力をかつてない目的で利用するものだ。
診断のみならず
英国シェフィールド大学を中心とした国際研究グループが、有力科学誌ネイチャーの姉妹誌でオンライン専門科学誌のネイチャー・コミュニケーションズ誌で2015年8月18日に報告した。
「核磁気共鳴画像診断装置(MRIスキャナー)」は、1980年代から体内のさまざまな臓器の病気を調べるための画像診断に用いられてきている。
今回研究グループは、「MRIは診断だけのもの」という発想を超え、新しいがん治療への応用に成功した。
磁力で「操縦」
この治療法では、まず「マクロファージ」という免疫細胞を体から取り出す。マクロファージは、がんに抵抗する免疫の仕組みを活性化する能力を持っている。
取り出したマクロファージをシャーレの中で増殖させる。次に、がん細胞を殺すウイルスを「感染」という形で「装備」させる。続いて「SPIO」という名の、鉄を含むナノ粒子を取り込ませる。これによりマクロファージはMRIの磁気で操縦できるようになる。
こうして細工したマクロファージを体内に戻す。MRIで体外から操縦し、がんのある場所までマクロファージを導いて、がんの組織に強制的に集める。がんのその場で免疫力を高めて、ウイルスががん細胞を殺し、転移や浸潤が阻止できる。こういう仕組みだ。
転移したがんも殺した
研究グループは、この方法でネズミの前立腺がんにマクロファージを誘導。肺に転移したがんにもマクロファージを集められると確認した。
マクロファージに装備させたウイルスの働きで、がんの組織は実際に縮小した。転移や浸潤を防ぐ効果も確認できた。
リアルタイムで確認
注射するだけではがんに到達するのが不可能だった免疫細胞を、磁気で操縦してがん組織に効率よく集められる。
今回はウイルスで試したが、同じ方法で抗がん剤を細胞に運ばせて、副作用の軽減にもつなげられる。
体に戻した治療用の細胞が、がん組織に向かっていく様子をリアルタイム画像で確認できるところも大きな特徴だ。
型破りな発想から画期的な治療は生まれる。
文献情報
MRI scanners can steer tumor-busting viruses to specific target sites within the body
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