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2015年11月4日水曜日

「その6億円、税金ゼロで息子さんに…」 節税ブーム



拡大する100グラムごとに小分けされた純金。贈与税などの節税目的で加工する人が多い=7月、東京都中央区、内田光撮影
 「タワマン節税」(会社方式)のしくみ 相続資産は増え続ける
 純金の小分けにタワーマンション、孫との養子縁組。相続増税を機に富裕層などの間で「節税ブーム」が起きている。格差の固定化にもつながりかねない。
■純金を100グラムに小分け
 東京の三越日本橋本店で7月、純金製品を展示即売する「大黄金展」が開かれた。金の像や小判、仏具などがきらびやかに並び、品定めをする客でにぎわっていた。
 会場の一角には、別の目的の人たちが集まっていた。1キロの純金の地金を、小さな100グラムのバー10本に分割加工するサービスを受け付けるブースだ。期間中60人が計100キロの加工を申し込んだ。加工には4週間ほどかかり、手数料は1キロ当たり税込み21万6千円。1キロの地金を何個か持参した都内の80代男性はこう語った。「小さなバーにしておけば贈与の場合も売る場合も便利。そりゃ(税金を)意識しています。税務署とは仲良くしないといけませんから」
 金を小分けする人々の主な目的は、子や配偶者に資産を受け渡す際にかかる相続税や贈与税の節税だ。
 例えば1キロの地金(時価500万円)を成人した子に贈与すると、年110万円の基礎控除(非課税分)を差し引いた390万円に対し、48万5千円の贈与税が子にかかる。これを100グラムのバー10本に小分けすれば、1本の時価は50万円になり基礎控除額を下回る。このバーを子1人につき年1~2本ずつ渡していけば、税金を払わずに資産の受け渡しができ、手数料以上の節税効果がある。
 金を売るときの節税にも「小分け」は役立つ。
 金を売って得たお金は「譲渡所得」として扱われ、年50万円の特別控除(非課税分)を超えると所得税がかかる。ほかの所得と合算した課税所得が大きくなれば、累進課税で税率も高くなる。ここでも、1キロ単位で売るよりも、売却額が特別控除の枠内でおさまるよう、100グラム単位で売った方が所得税の節税になる。
 金価格は2000年ごろの1グラム900円台を底値にじわじわ上がり、今は5千円近い。譲ってよし、売ってよしの小分けサービスの人気は高まっている。(高谷秀男)
■タワマン、時価と評価額の落差を「活用」
 「その6億円、税金ゼロで息子さんに譲る方法がありますよ」。関西の60代男性は3年前、税理士の一言に耳を疑った。親の代から続く食品メーカーを同業者に売り、手元に10億円の現金があった。そのうち6億円を40代の息子に譲ろうと考えた。だが、現金で譲れば3億円以上の贈与税がかかると銀行から聞かされ、贈与をあきらめていた。
 税理士のプランは、贈与したい6億円を元手に株式会社をつくり、その会社が人気の超高層タワーマンション(タワマン)物件をいくつか買うというものだ。
 男性は6億円で株式会社をつくり、銀行から4億円借りて計10億円を用意。そのお金で、東京の六本木や赤坂などのタワマン物件を5戸購入した。息子には、その物件を所有する会社の株式を贈与した。贈与税は「0円」。息子は時価10億円の不動産を持つ会社のオーナーになり、実質的に父の財産を受け継いだ。
 父から息子へ、なぜ無税で財産を渡せたのか。担当した税理士は「不動産は、贈与税や相続税を計算する際の評価額が時価を大きく下回る。その仕組みを応用した」と明かす。
 現金10億円を贈与すれば贈与財産としての評価額も10億円だが、時価10億円の不動産では評価額が大きく下がる。不動産は価格が変動しやすいことなどを踏まえた措置だ。建物だと評価額は時価の4~6割、土地だと時価の8割になる。
 そこでタワマンの「うまみ」が生じる。マンションの底地を数百もの戸数で分け合うため、1戸ごとの土地の持ち分はごくわずかになり、土地の評価額が小さくなる。さらに人気の高層階ほど時価と評価額の差は大きくなる。加えて物件を賃貸に回すと、評価額をさらに下げることができる。
 この父子のケースでは、時価10億円の物件を、贈与財産の評価額としては2億円まで圧縮できた。その2億円にも税金がかからないようにする仕掛けが、株式で資産を渡すやり方だ。
 物件を持つ会社は銀行から4億円借りた。評価額(2億円)より借入金(4億円)の方が多いと、その会社の株式は、贈与財産としての評価額ではゼロになる。その株式が親から子に贈与されても、贈与税はかからないというわけだ。
 息子はそのまま不動産オーナーでいてもいいし、時価の10億円で売れれば、銀行にお金を返しても6億円近い現金を手にできる。物件価格が下がるリスクはあるものの、父親は「まるで錬金術。親も子も救われました」と振り返る。
■孫を養子に
 遺産をもらった家族らにかかる相続税を節税する動きも盛んだ。
 都内の30代の男性は3年前、他界した祖父の遺産5億円を一人ですべて相続した。通常ならば孫は法定相続人になれないが、祖父の強い意向で「養子」になっていたのだ。
 祖父の法定相続人は配偶者の祖母と、実子の娘2人だったが、全員の同意のもとであえて孫に遺産を集中させた。家を継げる男性が孫以外にいなかったこともあるが、相続税を減らす狙いもあった。
 祖母や娘を経由して孫に遺産が相続されると、相続税も複数回納めなくてはならないが、祖父から養子への相続なら1回の納税で済む。「孫養子」と呼ばれる手法で、この男性のケースでは約1億3千万円の節税が見込まれるという。孫養子は土地長者が増えたバブル期に増えたとされるが、税理士らによると、今年の相続増税を機に再び広がっているという。
 だが、このやり方にはリスクもある。親族間の同意がないまま孫養子に遺産相続が集中すれば、別の遺族の遺産の取り分が減り、トラブルに発展しかねないからだ。税理士の紹介会社ビスカスの八木美代子代表は「99%の相続が『争続』になる。過去の負の記憶を持ち出したり、配偶者が横やりを入れたりして、感情のもつれが解消しないことが要因」といい、時間をかけた対策を勧める。
■格差固定化のおそれ
 相続税が今年から増税された。相続財産の基礎控除(非課税分)が減り、課税の対象者が増えた。政府が消費税率を8%に上げる増税を決めた際、併せて裕福な人への増税も必要だと判断したからだ。
 相続税や贈与税には、一部のお金持ちに富が集中するのを抑え、「格差」が世代を超えて引き継がれていくのを防ぐ目的がある。格差が固定化すると、親がお金持ちかどうかで子の人生が決まり、貧しい家に生まれたというだけで貧困から抜け出せなくなる不公平な世の中になってしまう。
 相続増税は、こうした本来の目的とは裏腹に「節税ブーム」を巻き起こしている。銀行や証券会社が開く相続税関連のセミナーには連日大勢の人が詰めかけている。野村資本市場研究所の宮本佐知子・主任研究員の推計では全国の相続資産の規模は2030年にかけて年間60兆円に達し、総額1千兆円規模の資産が動き出すという。金融機関などは「巨大な市場」とみて節税指南に力を入れる。
 少しでも税金を減らし、より多くの財産を子に残したいというのは親としては自然な思いかもしれない。だが、税制の裏をかくような行き過ぎた節税が広がれば、公平な社会に必要な「富の再分配」の機能が骨抜きになってしまう。(本田靖明)

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