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2016年2月15日月曜日

自動車業界にとって5Gとは何か(前編)

EE Times Japan


Junko Yoshida,[EE Times]

 「Mobile World Congress(MWC) 2016」が、2016年2月22日〜25日にスペイン バルセロナで開催される。通信業界は現在、5G(第5世代移動通信)の実現に向け、あらゆる人々とモノ(自動車を含め)をつなげるため、精力的な活動を展開していることだろう。

 通信業界は、5G規格について、ミッションクリティカルな用途向けに、2ミリ秒を下回る遅延(レイテンシ)を実現できるとして推進している。このことから、スマートフォンだけでなく、自動車を含むIoE(Internet of Everything:全てのインターネット)にもネットワーク接続を拡大していきたいとする、業界全体の大きな期待がかけられていることが分かる。

自動車業界側の準備は、まだ整っていない

 しかし、自動車メーカーが実際に、5Gを採用する準備を整えているかどうかは、まったく別の問題だ。

 さらに重要なのは、業界観測筋が、「通信業界が、自動車にも使えるものとして5G規格の策定を推進しているのは、道路上の安全性を高めるためというよりも、もっと多くの帯域を確保したいという通信業界側のニーズがあるからだ」と指摘している点である。

 つまり携帯電話事業者は、無線LANとIEEE 802.11pベースのDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信)だけでなく、この他に確保できる帯域も全て使用したいと考えているのだ。将来的に、無線ストリーミングの需要に対応できるかどうかを懸念しているのであって、既存の無線LANや台頭しているDSRCが今後どうなるのかについては特に心配してはいないのである。

 DSRCは、自動車専用として開発された無線通信チャネルをベースとしていて、米国議会が1999年に確保した、5.9GHz帯を使用する。この5.9GHz帯は、アンライセンス周波数帯(免許不要の周波数帯)であり、無線LANにも使われている。

 通信事業者(キャリア)が権力を掌握しようとしているのではないかとする見方もあるが、これについては誰もが同意しているわけではない。米国の市場調査会社であるStrategy Analyticsのグローバルオートモーティブ部門でアソシエートディレクターを務めるRoger Lanctot氏は、「問題の核心は、現在、自動車メーカーとキャリアとの間で対立が進んでいるという点にあるのではないだろうか。コネクテッドカー/スマートカーを推進するコミュニティーは、キャリアを下に見る傾向にある。自動車メーカーは今後もコネクテッドカーをめぐり、主にその必要性について対立していくだろう。一方でキャリアは、直接的な収益を見込むことができないデバイス間/車両間通信に対して、なんとか盛り上がりをみせようと四苦八苦している」と指摘する。

 IHS Automotive Technologyのリサーチ担当ディレクターであり、主席アナリストを務めるEgil Juliussen氏は、「自動車業界では、5Gに対する準備がまだできていない。自動車メーカーはつい最近、4Gの導入に向けて真剣に取り組み始めたばかりだ」と主張する。

 Connected Vehicle Trade Association(CVTA)のプレジデントであるScott McCormick氏によると、V2X(Vehicle-to-everything)通信として自動車向けに利用可能な無線通信では、遅延の要件は約1ミリ秒だという。一方で4Gの遅延は約20ミリ秒だ。

5Gは、変革をもたらすのか

 McCormick氏は、「5Gは、大変革をもたらすかもしれない。初期解析の結果、5Gは、遅延が2ミリ秒を下回ったことから、DSRCの代替となる可能性がある。ただし、通信事業者に対して5Gデータプランの支払いをいとわないのであればの話だ」と述べている。

 これは、無視できない問題だ。Juliussen氏が指摘するように、「キャリアは、独自に利用できるDSRCの周波数枠を確保して、利益を上げたいと考えている。だが、DSRCは人命を守るための技術であり、利用者が無線通信の代金を支払うかどうかによって利用の可否が決められるべきではない」ものなのである。

 NXP Semiconductorsで革新的技術/V2Xプログラムを率いるAndrew Turley氏も、Juliussen氏に同意している。Turley氏は、「携帯電話事業者は、5G規格を1から全て作り直すよりも、5G規格の中にIEEE 802.11p規格とWi-Fiを取り入れる方が賢明だ」と述べている。

 5Gのミッションクリティカルな低遅延性能は、自動運転車に最適である。こうした要素によって、5Gは、より革新的で魅力的な次世代規格と見なされている。

 だが、新しい標準規格には課題がつきものであり、5Gも例外ではない。異なる業界のビジネスモデルに適応させる場合には特にそうだ。

 IHS Automotive TechnologyのJuliussen氏は、「自動車メーカーは5Gに何を求めているか」という質問に対し、「自動車メーカーはまだ、5Gに対応できる段階に達していない」と答えた。

 Juliussen氏は、「2020年までに5Gが展開されるとは考えにくいが、たとえ2020年までに展開されたとしても、自動車メーカーが採用するのはそれよりさらに3〜5年後になるとみられる。自動車メーカーは、“広い地域を網羅する実証された技術”と“手頃な価格”の両方を望んでいるため、採用時期は量産開始から数年遅れると予想されるからだ」と語った。

 こうした理由から、IHS Automotive Technologyは「当面(恐らく7〜10年後まで)は、自動車には2種類のワイヤレス接続機能が搭載されると」と予想している。

2種類のワイヤレス通信

 「1つは、車載制御システム用組み込みモデムで、もう1つは、スマートフォンを使って車載インフォテインメントやクラウドコンテンツに接続する方法だ」とJuliussen氏は説明する。

 「モデムの通信コストは主に自動車メーカーが負担する。現行はもちろん、今後搭載されるであろうアプリケーションでも4Gほどの通信速度は必要ない。2つ目の、スマートフォンを使う場合の通信コストはドライバーが負担することになる。さらに、こちらの方がモデムよりも速い通信速度を求められるだろう」(同氏)。さらに、「従って、5Gスマートフォンは、5Gが組み込まれるよりかなり早い時期に、自動車に採用される可能性が高い」と付け加えた。

V2V通信にはDRSCを

 これに対し、CVTAでプレジデントを務めるMcCormick氏は、DSRCの遅延が約1ミリ秒であるのに対し、4Gは約20ミリ秒である点を指摘する。

 同氏は、「両技術の遅延差を考慮すると、前後に数台の車が近接して走行するV2V(Vehicle-to-Vehicle:車車間)通信にはDRSCを採用すべきだ。DRSCは情報を、ドライバーではなく自動車に伝える。道路の凍結や路上の障害物に対して、自動車そのものの方が、人間よりもはるかに迅速に対応できるからだ」と説明している。

 ただし、これは、4G(LTE)がV2X通信では出番がないということを意味しているわけではない。「もしも自動車が、(事故現場や凍結エリアなど)問題があるエリアから十分に離れている場合であれば、遅延が20ミリ秒だとしても何ら問題はないだろう」と、McCormick氏は述べている。

 要するに同氏は、現時点ではDSRCとLTEを組み合わせることが妥当だとみているのだ。

出典:U.S Department of Transportation(米国運輸省)

(後編に続く)

【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】

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