Pages - Menu

Pages - Menu

Pages

2016年4月22日金曜日

燃料なしで宇宙船を半永久的に航行させる常識破りの推進装置「EMドライブ」と、謎だった原理を解明する新しい理論とは?





従来のロケットのように推進用の燃料を必要とせず、太陽光などで発電した電気をもとにした マイクロ波で推力を得る推進装置「 EMドライブ」は、未来の宇宙開発を飛躍的に進化させるテクノロジーとして注目を集めています。その原理については不明な部分が多く、物理学の常識を覆すほどの謎とされてきたEMドライブですが、発表から10年以上を経た2016年になってようやく解明に向けた手がかりが見つかりかけており、実用化に向けた研究が加速しそうな状況が訪れています。

The Curious Link Between the Fly-By Anomaly and the “Impossible” EmDrive Thruster 
https://www.technologyreview.com/s/601299/the-curious-link-between-the-fly-by-anomaly-and-the-impossible-emdrive-thruster/ 

人類を月よりも遠い火星や、さらに遠い宇宙空間にまで到達させるための技術の研究が進められているのですが、その最も大きな課題の一つとされているのが燃料の問題です。遠い宇宙まで十分に速く飛行するには極めて大量の燃料が必要となるため、どのようにして確保するのか、またどのように地上から打ち上げるのかなど、クリアしなければならない問題が多く残されていると言われています。 

そんな問題を解消できる可能性を秘めている推進装置が、イギリスの航空宇宙技術者であるロジャー・ショーヤー(Roger Shawyer)氏によって考案されて2001年に発表された「EMドライブ」です。この装置は、密閉された円錐状のコーンの中でマイクロ波を反射させる だけで推進力が得られるという特徴を持っており、従来のように推進剤を噴射させた反作用で推力を得るロケットエンジンとはまったく異なる仕組みを持つエンジン(推進装置)になる可能性を秘めています。 


しかし、その原理をめぐって研究者の間では賛否が分かれており、活発な議論が交わされている状態とのこと。EMドライブの最大の謎とされてきたのが、「なぜ推進力が生まれるのか」というポイントです。現在主流であるロケットエンジンのように推進剤を外部に噴射することなく、密閉された容器の中でマイクロ波を反射させるだけで自らは何も失うことなく物体に加速度を与えるエネルギーがなぜ生まれるのかについて、考案者のShawyer氏を含めてこれまで満足な説明がなされることはありませんでした。 

最大の論点となっているのが、 運動量保存の法則を無視した現象をどのように説明するのか、という点です。物体に加速度を与えて移動させるためには外部から何らかのエネルギーを与える必要がある、というのが運動量保存の法則から導かれる鉄則とされていますが、EMドライブは前述のように閉ざされた空間の中でマイクロ波を反射させるだけという仕組みのため、反作用によるエネルギーを受けることができません。そのため、科学者の間からは「箱の中に立って一方の壁を押しているようなものだ」という批判的な声もあがり、インチキ同然と捉える者もいたほど。 

しかし、どのような反論があっても、EMドライブは実際に推力を生みだしているという事実が存在していました。2012年には中国の研究チームがEMドライブで推力を得ることに成功しているほか、2014年にはアメリカ人研究者がEMドライブを自作し、NASAに実際の試験を実施するように働きかけるなど、世界中で実機を使った検証が行われてきました。一部ではマイクロ波が発生させた熱の対流によって推力が生まれていたとする見方もありましたが、NASAが真空装置の中で実験を実施したところ、推力が発生することが確認されたため、この説は否定されるに至っています。 


EMドライブを発表したSatellite Propulsion Research社のサイトでは、実際のテストの様子が公開されており、ムービーで確認することができます。 

Emdrive - Development - Dynamic Tests 
http://emdrive.com/dynamictests.html 

サイトではムービーファイルがそのまま置かれている状態ですが、別のユーザーがYouTubeにアップロードしたムービーを以下から見ることも可能です。 

EmDrive - YouTube 
また、YouTubeで「EM Drive」と検索すると、EMドライブを自作して実験している様子のムービーも見つかります。以下のように、実際に推力の発生を観測成功した猛者の様子も。 

EmDrive Test No.03 Success, I have thrust !!! - YouTube 
EMドライブの原理は謎だったわけですが、イギリス・プリマス大学のマイク・マカロック(Mike McCulloch)氏の研究から、ついにその秘密を明らかにする答えに近いものが見つかっています。マカロック氏の説は、物体が極めて小さな加速度で移動する際の仕組みに関する驚くべき予測をもたらす可能性のある、「慣性」にまつわる新しい理論に基づいているとのこと。 

この世に存在する物体には、動いているものは動き続ける、そして止まっているものは止まり続けようとする 慣性の法則が働いています。しかし、なぜこの慣性が働くのかについては、満足できる説明がなされていませんでした。 

マカロック氏は、この慣性が ウンルー効果によってもたらされるものであるという説を唱えています。ウンルー効果とは、加速する物体は 黒体放射を観測するという予測であり、別の言葉で言い換えると「あなたが移動すると、宇宙が加熱される」ということを意味します。 

マカロック氏は、ウンルー効果による放射が物体に圧力を加えることで慣性が発生するという説を唱えています。この現象は地球上で観測することが非常に難しいとされているのですが、重力による影響をほとんど受けない宇宙空間で、ウンルー輻射の波長が長くなるほど興味深い現象が現れるとのこと。 

ウンルー効果と慣性を結びつける現象の一つが、人工衛星などが天体の近くを通過する(フライバイ)時に引力を利用して加速や軌道変更を行う「スイングバイ」の際に、理論値と実際の結果に誤差が生じる「 フライバイ・アノマリー(フライバイ異常)」と呼ばれる現象です。なぜフライバイ・アノマリーが生じるのかについては諸説が存在していますが、マカロック氏はウンルー効果によって物体の慣性が影響を受けるために、軌道に誤差が生じると論じています。 

そして、EMドライブに推力を与えているのも、このウンルー効果による作用であると考えられています。もし、光子が慣性質量を持っているとすれば、何かに反射する際に慣性力を発生させます。つまり、EMドライブの場合においてはマイクロ波が慣性質量を持っており、円錐状のコーンの中で反射を行うことで慣性力が発生し、結果として一方方向への推力が発生するというわけです。マカロック氏はこの理論を実際の実験で検証し、その結果がほぼ正確であることを確認しているとのこと。 


これまで、EMドライブの実際の現象と、それを裏付ける理論の間には大きな隔たりが存在していました。マカロック氏の理論はこれをつなげるものとして期待されている一方で、「光子に慣性質量が存在する」「波長が変化する事で光の速さが変化する」という2点の前提条件が現代の物理学の常識と相いれないために、現時点では決定的な理論に至っていないという状況です。 

マカロック氏の理論を「決定打」とするには時期尚早であると言えるわけですが、それでもなおEMドライブが実際に推力を発生させるという事実が存在している中で、マカロック氏の理論に替わるものが存在しないという点において、ウンルー効果による推力発生のメカニズムは有力な考え方ということになるのかもしれません。 

EMドライブの詳細については、Satellite Propulsion Research社のサイトでも詳しく解説されています。 

Emdrive - Home 
http://emdrive.com/ 

サイトではEMドライブに関する論文も公開されているので、関心を抱いた人は目を通してみると良さそうです。

A Theory of Microwave Propulsion for Spacecraft - theorypaper9-4.pdf 
(PDF)http://www.emdrive.com/theorypaper9-4.pdf

0 件のコメント:

コメントを投稿