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HIVウイルスは治療が困難で完治は不可能だと言われており、HIV陽性者はエイズが発症しないよう、一生投薬し続ける必要があります。長い間HIVは不治の病と言われ続けていましたが、近年では急速な治療法の発展により、驚いたことにある男性のHIV治療が成功。7千万人のうちの1人という数字はかなり悲惨な確率に見えますが、0ではないという事実は人類にとって計り知れないほどの朗報です。HIV根絶に向けて、研究者は日夜努力を続けています。(TED-Ed2015 より)
- スピーカー
- 分子生物学者 Janet Iwasa(ジャネット・イワサ) 氏
HIVの治療に成功した人が現れた
ジャネット・イワサ 2008年、信じられないことが起こりました。ある男性がHIVの治療に成功したのです。そして現段階では、それが最初で最後の出来事となっています。なぜ治療に成功したのかは、我々にもまだ理解できていません。マラリアやC型肝炎といった病気は治療可能なのにもかかわらず、なぜHIVは完治不可能なのでしょうか。まずは、HIVが人に感染し、エイズに発展する過程を説明しましょう。HIVは体液の交換によって拡散します。無防備なセックスや、注射器による体内への混入などがおもな感染原因です。幸運なことに、空気、水、またはカジュアルなコミュニケーションでは感染しません。年齢、性的趣向、性別、人種に関わらず感染する可能性があります。HIVは免疫システムの一部の細胞に感染します。バクテリアや真菌感染から体を守る役割のあるヘルパーT細胞を特に攻撃します。HIVはレトロウイルスです。感染した細胞のゲノムに独自の遺伝情報を書き込むことができ、それらを複製させる働きがあります。HIV感染の初期段階では、ヘルパーT細胞内で複製され、その過程で多くの細胞を破壊していきます。この時点では、感染者はインフルエンザのような症状を経験しますが、特に致命的というわけではありません。数ヶ月〜数年の間、感染者は問題なく健康には見えますが、ウイルスは複製され続け、T細胞は破壊され続けます。T細胞の数が著しく減少すると、通常の免疫システムにとっては何の問題もない感染症にも感染する危険な状態になります。その状態がエイズです。
HIV陽性者は一生投薬し続けなければならない
ここで安心していただきたいのですが、薬でHIVウイルスはコントロールでき、エイズの状態に至らないためにT細胞の減少を防ぐことは可能だということです。抗レトロウイルス治療によって、ほとんどのHIV陽性者は長く健康的な生活を送れます。他人に感染することもほとんどありません。しかしながら、大きなネックが2つあります。1つ目は、HIV陽性者は一生投薬し続けなければならないことです。そうしなければウイルスがまた復活してしまうのです。最も多く処方されている薬は、汚染されたゲノムが複製されるのを防ぎ、核となるDNAに取り込まれてしまうのを防ぎます。また別の薬は、ウイルスの発展を妨害し、新たな細胞への攻撃を防ぐというものです。しかしHIVは薬の効果が及ばない部分に隠れている場合があります。それは健康的なT細胞のDNAの中です。ほとんどのT細胞は、HIVか感染した直後に死滅します。しかしごく稀に、HIVウイルスの構成活動が休止している場合があります。それは何年にも及ぶ場合もあります。なので、感染者の体内からHIVウイルスを全て排出したとしても、隠れていたT細胞が起動して、またウイルスを拡散させてしまうのです。2つめのネック。それは、世界の全ての人達に治療のチャンスがあるわけではないということです。HIV感染者の70%はサブサハラアフリカに集中しているのですが、2012年の時点では、感染者の3分の1しか抗ウイルス治療が行き届いていません。この問題の解決は一筋縄ではいきません。政治的、経済的、文化的なバリアが、有効な防止策と治療を妨げています。アメリカ国内ですら、毎年1万人がHIVによって命を落としています。しかしながら、希望はおおいにあります。研究者達は、いままでにないほど完全治療に近づいています。ある研究では、HIVの遺伝情報を含む全ての細胞に働きかけるという試みがあり、汚染された細胞を破壊するだけでなく、現存する薬が効くレベルにまでHIVウイルスを誘導するというものです。また、細胞とゲノムからHIVのDNAを切り取るための遺伝ツールを用いるという方法も試みています。7千万人の中の1人という数字が悲惨な確率に見える一方で、0ではないという事実というのは計り知れないほどの朗報なのです。完治可能という事実には変わりはないのです。HIVを克服するためにはどうすればいいのかというヒントがそこにはあるのです。
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