http://www.gizmodo.jp/2016/04/modifiedgene_hiv_3.html
病気を治すためじゃなく、能力をプラスする遺伝子編集。
1年ほど前、中国の研究チームが人間の受精卵のDNAを編集するという歴史的な研究を発表しました。そして今、その歴史がさらに一歩進んだようです。これまた中国の別の研究チームが、遺伝子編集ツール「CRISPR/Cas9」を使い、HIVに感染しない特性を受精卵に埋め込んだんです。
去年物議をかもした中国の実験では、遺伝子編集の対象となったのは致死性の血液疾患に対応する遺伝子でした。その受精卵は実験後すぐに廃棄され、遺伝子編集されたヒトはまだ生まれてはいません。それでも、ヒトの受精卵の遺伝子が書き換えられたこと自体がバイオテクノロジーの大きな転換点となり、またCRISPRのポテンシャルが広く知られるきっかけにもなりました。このテクノロジーが臨床段階に到達すれば、あらゆる遺伝性疾患をなくすためだけでなく、人間にまったく新しい能力を身に着けさせるためにも利用できるのです。
Nature Newsによれば、広州医科大学のYong Fan氏のチームは、CRISPRを使ってCCR5という免疫細胞の遺伝子を無力化させました。というのは、普通の人はCCR5があることでHIVが免疫細胞に侵入して感染してしまうのですが、CCR5に異常を持つ人はHIVに接触しても感染しないんです。つまり、CCR5にわざと異常を起こすことで、HIVへの抵抗力を付けさせたんです。
この研究には、不妊治療のために体外受精をしたものの子宮に戻すのに適さないと判断された受精卵213個が使われました。なので一応、この実験のためにムダになった受精卵はない、ということのようです。また実験の3日後には、受精卵はすべて廃棄されました。
実験対象となった26個の受精卵のうち、編集に成功したのは4個だけでした。つまり残りは編集できなかったり、意図しない部分が編集されてしまったりだったのです。CRISPRでは遺伝子編集が「効率的」にできるといわれますが、まだとても百発百中とはいかないようです。
人間の受精卵を操作することに関しては、その受精卵を子宮に戻して妊娠・出産に至らせるつもりでなくても、まだまだ批判があります。人間の胚で「遊ぶ」べきではないという批判もあり、他の霊長類で代替しても事足りるといわれています。また将来的に、生殖系に対して行なった変異は次の世代に遺伝子、未知の結果を生み出すのではないかという懸念もあります。そしてもちろん、「不老長寿」とか「やたら頭が良い」「身体能力高すぎ」といった都合の良い性質ばかりを持つ「デザイナーベビー」を作ろうとすることへの危惧もあります。
特に今回のHIVへの免疫力を埋め込むという実験に関しては、遺伝子疾患の治療が目的ではありません。HIVというウイルスへの免疫力を付け加えるということは、ある意味予防接種のようなものであり、それが遺伝子レベルで行なわれたということです。またこの免疫力は、理論上は次世代へも遺伝しうるものです。ヒトへの遺伝子編集が「あり」だとするなら、治療ならOKなのか、予防接種や特殊能力追加はNGなのか、何が治療で何が予防接種なのか…と、いろいろ考えさせられます。
また、CRISPRでHIVを退治…といえば、先日はすでにHIVに感染した免疫細胞からそれを削除するという研究が発表されました。つまりHIV対策として受精卵をいじる必要はないという話になり、今回の実験への批判材料のひとつになるかもしれません。
とはいえ、ヒトの遺伝子編集はもうタブーではなくなりつつあります。去年、アメリカのヒト遺伝子編集サミットでは、受胎させなければ人間の遺伝子操作もOKという方針が出され、詳しいガイドラインは今年中に発表予定です。同様にイギリスでも、ヒト遺伝子の編集にゴーサインが出ています。
我々はデザイナー・ベビーの誕生に少しずつ近づいているんでしょうか? 一方で人間はサイボーグ化しつつもあるし、ロボットが人間の代わりになる場合もあります。10年後、20年後、50年後の「人間」のあり方は、今とはだいぶ違うものになっていそうです。
source: Nature News
George Dvorsky-Gizmodo US[原文]
(miho)
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