2016年08月06日小長 洋子
患部から痛みを直接除くだけでなく、同時に中枢神経にも働きかける持続性の高い鎮痛薬の開発を進めているメドレックス。その創業者でもある松村眞良社長に、これまでの同社の歩みと今後の方針について聞いた。
ーーメドレックスの開発戦略は経皮吸収製剤に集中しています。なぜ経皮なのですか?
以前いた会社(帝國製薬)で、パップ剤(水分を含んだ医薬品をシートに塗った製剤)の開発をずっとやっていました。日本には、昔から布に練り薬を塗って患部に貼る湿布という治療法がありました。これをあらかじめ布に塗って製剤とし、医薬品としての認可も取りました。
まつむら・まさよし●1944年香川県生まれ。68年京都薬科大学卒業。薬剤師として安井病院(京都)に勤務後71年帝國製薬入社。73年取締役、75年常務。88年子会社社長等を経て2000年副社長。02年1月メドレックスを設立し現職。(撮影:梅谷秀司)
帝國製薬に在籍中はずっとパップ剤の開発に関わっていました。が、メドレックスを創業した当初は特にこだわりはなく、既存薬の新しい剤形の開発をしていました。ただ残念ながら、大きなビジネスにならなかった。そうこうするうちに、「やはりまったく新しい薬を作りたい」という気持ちが強くなり、方針転換しました。パップ剤は帝國製薬でやりましたから、別の経皮製剤を、と考えました。
近年、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)の開発が盛んですが、経皮製剤(TTS)は最初のDDSです。DDSの名付け親であるカンサス大学の(故)タケル・ヒグチ先生と、一緒に事業を興そうとしたことがあるんです。1980年代中盤、ミュンヘンでの第1回DDS学会でお目にかかって、私たちの作ったパップ剤を見てもらったところ、「このデバイスはいいぞ」といって下さり、実際にアメリカに会社を作りました。
ところが残念なことに、しばらくしてヒグチ先生が亡くなってしまい、一緒に仕事をすることはできませんでした。メドレックスという社名は、薬を商っていたというメディチ(中世イタリアの貴族)や、ヒグチ先生と作った会社の社名「IPRx」などを組み合わせたものです。ヒグチ先生に続く経皮吸収製剤の会社を作りたいと思ったのです。
ーー経皮吸収製剤にはどんなメリットかあるのですか。
経口薬は肝臓を必ず通りますが、薬効成分の8割以上が肝臓で代謝されてしまいます。たくさん投与してもへたをすると10%程度しか患部に届かない。そのうえ代謝を含めて患部に届くのに時間もかかる。ところが経皮では、痛みのもとである患部と中枢神経の両方に短時間で届きます。たばこは口腔粘膜を通じて10秒で脳にニコチンの作用が届きますが、そんなイメージですね。
実際に販売されているニトロの狭心症治療薬は、もとは舌下錠でしたが、これは発作を起こした時に飲む薬でしたので、大きな市場にはなりませんでした。しかも発作を起こす時間帯は朝方の3時4時が多い。睡眠中の発作で、薬を飲むこともできずに亡くなる人が多かった。ところが、これを貼り薬にしたところ、急激にマーケットが拡大しました。
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