By:MEDTEC Japan編集部
iPS細胞など人工的に培養した細胞は非常にデリケートなため、輸送する際には揺れや温度管理など注意すべき点が多い。これまで凍結して輸送する方法が用いられてきたが、輸送後に解凍処理が必要なため利用までに時間がかかる、細胞の壊死などのため利用できる細胞が減少してしまう、といった問題があった。また、常温輸送のために培養した会社や研究機関のスタッフが手持ちで移動すると人的コストが負担になる。
2012年からタンパク質結晶を常温で輸送する専用車「シバックスクリスタルライン」の提供を行っている柴又運輸株式会社(本社:江戸川区)では、この10月からバイオベンチャーの株式会社リプロセルと共同で、培養した細胞を常温で“生”の状態のまま輸送する「ライブセルトランスサービス」を本格稼働した。
東大阪にも拠点をもつ柴又運輸がタンパク質結晶輸送に乗り出したきっかけは、2010年の大阪のある展示会だった。そこで、大阪大学発ベンチャーでタンパク質や医薬候補化合物の結晶化を事業とする株式会社創晶から、タンパク質結晶を生のまま輸送できないかという相談を受けた。
創晶とともに試行錯誤を経て、専用車を開発し、温度一定・振動制限の輸送法を開発した。それが、防振台を置き、その上にインキュベーターを2台設置する専用車「シバックスクリスタルルライン」だ。
その後、製薬会社や研究機関向けに培養細胞を提供するリプロセルを紹介され、iPS細胞の常温輸送にも応用できないか検討をはじめる。
防振については、防振サスペンションのメーカーの協力を得て開発を行った。2014年に行ったリプロセルとのテスト輸送では、未分化のiPS細胞を輸送し、輸送後も未分化性が保たれることを確認した。
「未分化のiPS細胞は非常にデリケートで、作業者によって何に分化するかが変わるなど、分化を促進するファクターが分かっていない部分が多いです。揺れによって分化が進んでしまう可能性がありますから、未分化性を保ったまま輸送できたのは大きいです」と自身も細胞培養の研究経験をもつ同社担当の楠野直之氏。
その後、iPS細胞の常温輸送サービスを試験的に開始。タンパク質結晶も含め注文が増えてきたことを受け、2015年に車内の室温管理を改善した専用車2号機となる「シバックスメディカルライン」(下写真)を導入した。
シバックスメディカルライン | 車内 |
今年9月までの実績では、タンパク質結晶・医薬低分子(23件)、iPS細胞(生・凍結)(26件)ともに搬送成功率は100%。運転手は専任とし、大阪・東京の2台体制としている。
今後の課題はより厳格な温度管理と滅菌だという。輸送中の温度や振動は記録を取っているが、インキュベーターの扉の開け閉めなどで温度が変わってしまうことがある。
「細胞培養は進化しており、今後、再生医療も実験レベルから、臨床研究、さらには実際の治療に使われるレベルに進んでいくことが予想されます。輸送サービスも、顧客のニーズに合わせて最適な輸送方法を追求していかなくてはなりません」と楠野氏。
例えば細胞培養では、単細胞や平面的な細胞の集合から、立体(3次元)構造をもった細胞塊や組織を構成するようになっている。凍結方法も進化しているが、立体構造だと十分な凍結はより困難になる。輸送にもより一層デリケートな方法が求められるかもしれない。今後、業界のニーズを先取りして企業や大学と共同研究を進めていく予定だ。
また、案件を増やし、専用車の稼働を上げて効率のよい運用を行いたいと楠野氏。生きた培養細胞でテストをしたいという測定機器メーカーからの依頼や、製薬メーカーの治験の受託を受けたCROから相談を受けることも。医療機器メーカーを含め、隠れたニーズを探っていきたいという。
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