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2011年06月06日
「ブタの臓器を、人間に移植する」
ゲゲッと引いてしまうような文言。
トン(豚)でもない話である。
「iPS細胞」という、何にでも変身できる「万能な細胞」がある。
この「iPS細胞」を使えば、自分の細胞を培養して「臓器」を作ることも、理論的には可能である。
しかし、現在の技術では、人工的に「臓器」を作ることは極めて困難。
そこで、人間の細胞を、ブタの「受精卵」に入れて、ブタの胎児の成長とともに、人間の臓器を作ってもらおうとなった。この場合の臓器は「すい臓」である。
そのために、すでに「すい臓」のないブタが作られている。
この「すい臓」のないブタの受精卵に、人間の「すい臓」になる「iPS細胞」を入れる。
そうすれば、人間の「すい臓」を持ったブタができあがる、というわけである。
そして、ブタに作ってもらった「すい臓」を人間に移植する。
「すい臓」の異種間による移植は、成功例がある。
「ネズミ」と「ラット」で、成功している。
「ラット」の「すい臓の元」を、「ネズミ」の受精卵に入れて、「ネズミ」に「ラット」の「すい臓」を作らせたのである。
「ネズミとラット」は、同じ仲間だから成功したのではないか?
ところが、ネズミとラットの関係は、意外と「遠く」、ブタと人間の関係のほうが、ずっと「近い」のだそうだ。
つまり、ブタと人間で移植を成功させるよりも、ネズミとラットで成功させるほうが、「難しい」というのである。
「異種移植」の歴史は、1960年代から実験が始まっている。
最初は、「チンパンジー」や「ヒヒ」の臓器を、人間に移植しようと試みられた。
しかし、患者は全て死亡。強烈な拒絶反応の結果であった。
1980年代になると、拒絶反応を和らげる「免疫抑制剤」の開発が進み、臓器移植(人間同士)の成功例は、飛躍的に向上。
臓器不足の問題解消のため、異種移植の研究が活発化する。
そこで登場したのが、「ブタ」である。
ブタは人間にとって、好都合な動物であった。
第一に、人間の臓器と「サイズ」、「生理的機能」が似ている。
第二に、「病原体」のないブタ(SPFブタ)が作れる。もともと、豚は、微生物汚染の最も少ない家畜だという。
第三に、ブタは食べきれないほど飼育されている。世界に10億近いブタがいるという。供給量に関しては、まず問題がない。
第四に、「ペット」でない。一部にペットとして飼う人もいるが、あまり一般的ではない。犬・猫レベルのペットとなると、「心情的」に受け入れられないのだそうだ(とはいえ、ブタも十分に怪しいが)。
ブタの臓器を人間に移植するときの最大の問題は、「血液」が固まってしまうということであった。
その血液凝固の問題を回避するために、「遺伝子組み換え」の技術が注目される。
そして、現在、「iPS細胞」の技術が活用されようとしている。
まさか、人間を救おうとしているのが「ブタ」だったとは‥‥。
「心臓弁」などは、ブタのものが、すでに使われているそうだが‥‥。
当然、倫理的な問題は、大きく立ちはだかる。
トンでもない話だけに、ブーブー言う人たちは大勢いる。
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出典・参考:異種移植の課題と展望
サイエンスZERO 「iPS細胞 治療への道はひらけるか」
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