人工「喉頭」により、咽喉がん患者の発話や呼吸が長期的に改善された症例がフランスで報告された。患者はアルザス在住の56歳男性。2015年に人工喉頭を埋め込んでから16カ月以上にわたり問題なく生活しており、失われていた嗅覚にも完全な回復が認められたという。この研究は、人工喉頭を製造したフランスの企業Protip Medical社のNihal Engin Vrana氏らにより実施された。
喉頭の機能は主に2つある。1つは声帯による発話であり、もう1つは喉頭蓋と呼ばれる弁が、食物を飲み込む際の気管への侵入を防いでいる。米国がん協会(ACS)によると、喉頭がんの治療では喉頭を摘出するのが一般的だという。米国では年間1万3,430件の喉頭がんの新規症例がみられる。
人工喉頭は硬質のチタン/シリコン構造をもち、喉頭蓋の機能を模した取り外し可能なチタン製キャップが付いていると、Vrana氏は説明する。米マウント・サイナイ・ヘルスシステム(ニューヨーク市)のMark Courey 氏は、「これは全く新しいものだ」と述べている。
研究グループは2012年に初めて人工喉頭の埋め込みを実施したが、今回の最新の症例は最も成功した例であるという。Vrana氏によると、患者はがん治療で喉頭を摘出し、放射線療法と化学療法を受けた。唯一未解決の問題点は喉頭蓋として機能するキャップであり、時折食物が気管に入り咳が生じるが、16カ月の使用で肺炎、感染症、分泌物、呼吸困難、閉塞などは認められていないという。
喉頭全摘出術を受けた患者は人工喉頭の使用に適格とされるが、嚥下機能を保つために術後に舌底が残っている必要がある。米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのRandal Weber氏によると、喉頭を摘出した患者の発話を回復する現行の治療法は、気管から食道へ空気を通過させる一方向弁を挿入するという方法だ。「食道壁が振動音を生じ、舌により言葉を発する」と、同氏は説明している。
しかし、Courey氏とWeber氏はいずれも人工喉頭の長期的な有効性については懸念を示している。肺や鼻からの粘液や分泌物がチタン製キャップ上で乾燥して固まり、閉塞を引き起こす可能性があるほか、特に放射線療法や化学療法を受けるがん患者は拒絶反応のリスクが高く、患者の快適さの面でも疑問があるという。Vrana氏らは、今回の症例は喉頭を人工器官に置き換える治療の実現可能性を示すものであり、今後はさらに改良が必要であると認めている。
この報告は「New England Journal of Medicine」1月5日号に掲載された。(HealthDay News 2017年1月4日)
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