人口減と食生活の変化により、米は余っていると認識している人が多いと思われるが、昨今の酒造業界においては、原料米の山田錦が足りず、酒造メーカーは造りたくても造れない状況に陥っている。山田錦が足りない理由は、政府の農業政策のもと、主食用米の価格維持を図るための「生産数量目標」の中に、酒造好適米が含まれており、その生産量が制限されているからである。
長年、政府が示す「生産数量目標」より多く作ってはいけないという減反政策による需給調整が行われており、「生産数量目標」より多く作っても保証金が支給されないので農家は作らないからである。よって、純米酒系の日本酒の生産量が増え、海外輸出数量が急伸して山田錦の需要が多くなっても、供給が追いつかないという状況が起きている。しかし、よく考えて見れば、酒造りにしか使用できない酒造好適米が、なぜ主食用米と同じ扱いで「生産数量目標」に含まれているのか?という疑問が湧いてくる。この疑問について、所轄官庁である農水省は、「生産数量目標は、主食用米と酒造好適米の合計で決められているので、主食用米と酒造好適米を別扱いにすれば、生産数量目標は、その分だけ少なくなり、酒造好適米を生産していない農家には不公平になる」と説明しているが、消費者に対しては説得力が弱く、言い訳にしか聞こえない。
つまり、酒造好適米を「生産数量目標」から外すと、①「都道府県別の需要量に関する情報から酒造好適米の数量分を除外することになり、農家ごとの生産数量目標も減少する」②「経営所得安定対策の対象から外れる(保証金が貰えなくなる)」③「酒造好適米のみを生産する農家には、生産調整数量の割当がない」という三つのデメリットが想定される。逆に、メリットとして、①「酒造用米として、酒造好適米と加工用米が一本化され、制度的に分かりやすくなる」②「実需との契約が増加した場合、生産拡大が容易になる」という二つが考えられる。
但し、こうしたメリットやデメリットは、主食用米と酒造好適米が同じ「生産数量目標」の内数であることを前提とした理由である。農水省の説明によれば、そうした前提になったのは「農家側が望んだから」だという。2004年、減反面積の配分から生産数量目標の配分へと制度変更が行われた際に、「主食用米に酒造好適米が合わされば、コメの生産数量目標の全体量が増えることから、その枠内で需要に合せて主食用米と酒造好適米の生産配分を決めた方がメリットありとして、農家側が酒造好適米を内数にすることを選んだのだという。結果的に「主食用米と酒造好適米が同じ扱い」になったのは、10年前の農家側の判断だった訳だが、今年度の生産数量821万トンのうち、酒造好適米は約7万トンで、全体の1%にも満たない数量である。両者を合算すればメリットがあると判断したのは、保証金問題が絡む農家の利益を優先させたものと考えられるが、両者が同じ扱いを受けるのは、どう考えてもおかしい。
見方を変えれば、酒造好適米は、主食用米の「価格維持政策」の矛盾に巻き込まれた被害者と言える。ところが、ここにきて、農水省は、酒造好適米の需要増大を背景に、酒造好適米を「生産数量目標」から外すことを検討すると発表している。今後の酒造好適米の増産に向けて一歩前進したことは酒造業界にとっては、明るいニュースであり、来年には、酒造好適米不足は解消されると思われる。
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