政府が導入しようとしている残業の上限規制を巡り、月100時間の残業を容認するかが焦点となっているが、最近の労働裁判では、月80時間を超える残業について「公序良俗に反する」「労働者への配慮に欠ける」との判断が相次いでいる。日本労働弁護団の棗一郎幹事長は「政府の規制案は(訴訟になった場合)裁判所に無効とされる可能性もある」と指摘する。
飲食店の店長だった男性が未払い残業代の支払いを求め、岐阜地裁で争われた訴訟。会社が月83時間の残業代に相当する月10万円の管理者手当を支払っていたことについて、地裁は2015年10月の判決で「(厚生労働省が残業上限の目安とする)月45時間の2倍に近く、相当な長時間労働を強いる根拠となり、公序良俗に違反すると言わざるを得ない。手当を残業代と認めることはできない」との判断を示し、原告の請求を認めた。
北海道のホテルで料理人として働いていた男性が未払い残業代を求めた訴訟でも、札幌高裁が12年10月、月95時間の残業代に相当する職務手当について「このような長時間の残業を義務付けることは、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反する恐れもある」と指摘。「労働者の生活と仕事を調和させようとする労働基準法36条の規定を無意味なものにする」とした。
京都地裁も10年5月、居酒屋チェーンで働き、24歳で過労死した男性の遺族が会社側に損害賠償を求めた訴訟の判決で、1カ月100時間という残業上限を「労働者に配慮していたものとは全く認められない」と判断した。この訴訟は大阪高裁を経て、最高裁が会社側の上告を退け、原告勝訴が確定している。
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