【ボツリヌス 菌ショック】 蜂蜜を 乳児に 与えないで リンゴに バナナ… 要注意食材は ほかにも まず気を つけることは…
蜂蜜を原因とする乳児ボツリヌス症で東京都の生後6カ月の男児が亡くなり、子育て世代に衝撃が広がった。蜂蜜以外にも1歳未満の乳児に離乳食として与える場合には慎重な対応が必要な食材があり、国などは改めて注意を呼び掛けている。(社会部 高橋裕子)
殺菌するには120度で4分以上加熱
都によると、男児の家族は1月中旬ごろから、市販のジュースに蜂蜜を混ぜ、毎日男児に与えていた。男児は2月20日にけいれんや呼吸不全などの症状で救急搬送され、3月30日に死亡。男児の便や自宅の蜂蜜からボツリヌス菌が検出され、それが原因の乳児ボツリヌス症と断定された。
食品安全委員会などによると、蜂蜜は離乳後の幼児や大人が食べても問題ないが、1歳未満の乳児は腸が未成熟なことなどからボツリヌス菌の定着と増殖が起こりやすい。微量でも菌が含まれていれば腸内で増殖して毒素を出すため、「与える量や期間に関わらず、乳児に対するリスクは高い」と同委員会の担当者は説明する。
7カ月の次男を育てる都内の女性会社員(43)は、「区の離乳食冊子などにも書いてあるし、蜂蜜を与えないことは浸透していると思っていた」と驚いたが、「ダメな理由や、すぐに症状が出るわけではないことは今回初めて知った」と話していた。
ボツリヌス菌は土壌、海や河川に広く存在しており、殺菌するには120度で4分以上加熱しなければならない。
家庭の調理では難しく、これまでには自家製の野菜スープや井戸水が原因とみられる例もある。厚生労働省や都は乳児に蜂蜜を与えないことを改めて呼び掛ける。また、都の担当者は、食材をよく洗うことや台所や調理器具の消毒など、「一般的な食中毒対策を今一度徹底してほしい」と訴えている。
親がアレルギー体質の場合は子供も注意
一方、蜂蜜以外にも離乳食を与える際に注意が必要な食材がある。乳幼児の食事に詳しい京都女子大学の中山玲子教授(食生活学)は、蜂蜜と同様に加熱殺菌処理が難しい黒糖やきな粉について、「これまでに乳児ボツリヌス症との因果関係を示すデータはないが、可能性は排除できない」として、1歳未満の乳児は控えることを勧める。ただ、「ボツリヌス菌は自然界に広く存在しており、気にし始めたら何も食べられない。1歳までは注意するに越したことはないということだ」と話す。
このほか、アレルギー物質を含む食材も注意が必要だ。よく知られている卵や乳だけでなく、乳幼児が好むバナナやリンゴ、イチゴなども、口の中がピリピリするように感じたり、唇が腫れたりする「口腔(こうくう)アレルギー」を起こすことがある。重い場合は血圧低下など命に関わるアナフィラキシーショック(発症後、短時間で全身にアレルギー症状が出る反応)を引き起こす可能性もあり、初めて与えるときには留意したい。
中山氏によると、食物アレルギーの中で6%ほどが口腔アレルギーに当たり、近年増加傾向。口腔アレルギー患者は、花粉症やラテックスアレルギーでもある場合が多く、両親または片方の親がアレルギー体質の場合は、子供にも注意が必要だという。
見かけは大きくても未熟な乳児
注意すべき食材は、食物アレルギー症状が重いことなどから、食品表示法に基づき加工食品への原材料表示が義務づけられているエビ▽カニ▽小麦▽そば▽卵▽乳▽落花生-の7品目。これらに準ずるものとして消費者庁通知で表示が推奨されているオレンジ▽バナナ▽モモ▽リンゴ▽大豆-など20品目がある。
厚労省では、「授乳・離乳の支援ガイド」の中で、こうした食材は離乳初期には避け、新しい食品を与えるときには一さじ与えて時間をおき、様子を見ながら量を増やすことなど、注意を促す。中山氏は、果物は7~8カ月以降になめる程度から始めることを勧める。その上で、「乳児は見かけは大きくても消化吸収が未熟な場合があり、個人差も大きい。離乳食は成長、発達段階を見ながらゆっくり進めてほしい」と訴えている。
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ボツリヌス菌=自然界で最強といわれる毒素を持ち、土壌や河川など自然界に広く存在する。食品の中で増殖するときに毒素を出し、それを摂取すると吐き気や視力障害、言語障害などの神経症状が出て、死亡することもある。殺菌して予防するには、80度の場合で30分の加熱、120度の場合で4分以上加熱するなど高温調理が必要となる。
乳児ボツリヌス症=1歳未満の乳児がボツリヌス菌芽胞を口から摂取することで発症し、蜂蜜を原因とする場合が多い。便秘や哺乳力の低下、泣き声が小さくなるといった症状が出る。死亡に至るケースはまれ。1976年に米国で初めての症例が報告され、日本では86年に発生した。食品に含まれる毒素そのもので発症する一般的なボツリヌス食中毒とは異なる。
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