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半田工場長 清水氏「いつの日かスバル製の完成機を飛ばすのが夢」
- 笠原一輝
2016年11月2日 15:02
- 2016年10月28日 報道公開
スバル(富士重工業)は、同社が愛知県半田市に所有している半田工場を報道陣に公開した。同社半田工場は、同社の航空宇宙カンパニーの工場となっており、半田市の臨海部に設置され、航空機の大型部品の生産を行なっている。
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スバル、ボーイング「777」「787」「777X」の中央翼を生産する半田工場を公開
半田工場長 清水氏「いつの日かスバル製の完成機を飛ばすのが夢」
- 笠原一輝
2016年11月2日 15:02
- 2016年10月28日 報道公開
スバル(富士重工業)は、同社が愛知県半田市に所有している半田工場を報道陣に公開した。同社半田工場は、同社の航空宇宙カンパニーの工場となっており、半田市の臨海部に設置され、航空機の大型部品の生産を行なっている。
具体的には、米国ボーイング社の主力機であるボーイング 777型機とボーイング 787型機向けの中央翼を生産中で、今後はボーイング 777の更新版となるボーイング 777X型機での中央翼を生産する予定になっており、今回報道陣にその3つの工場の様子が公開された。なお、半田工場は撮影禁止だったため、工場内観や外観写真は富士重工業から提供されたものであることをお断りしておく。
取材会のなかで、富士重工業 半田工場 工場長 清水龍平氏は報道陣の質問に対して「完成機をやりたいという夢は持っており、いずれは我々も取り組みたい。しかし、飛行機の完成機のビジネスはそんなに簡単なことではなく、まず現在取り組んでいるヘリコプターでどのようなビジネスができるのかを見ながら、少しずつ近づいていきたい」と述べ、スバルの航空宇宙事業の究極の目標は完成機であり、それに向けて現実的なアプローチで一歩一歩技術の蓄積を行なっていると説明した。
今後の成長が期待できるスバルの宇宙航空カンパニーの事業
今回の取材会では、清水氏によるスバルの航空宇宙カンパニーの事業概要の説明から始まった。清水氏は「日本の航空産業は米国の22.1兆円に比べると、小さく1.7兆円。日本の自動車産業が53.3兆円のビジネスになるので、それに比べると3%に過ぎない。しかし、自動車産業がほぼ横ばいであるのに対して、現在航空機産業は伸びており、政府としても日本の第2の柱にしたいと考えて投資を行なっている産業になる」と述べ、日本にとっても、スバルにとっても航空機産業が次の成長の柱となる可能性があるした。
また、「航空機の技術は他の産業への波及効果が大きい。かつ、世界の旅客の需要予測でも年率5%で成長していくと考えられており、今後代替需要、新規需要などの多くの航空機の需要が発生すると予想されている」と、長期的に渡り成長が望める事業であるとした。
清水氏によれば、航空宇宙事業は、スバル全体のなかでは5%を占めており、日本全体での3%に比べると高い比率になっているとする。売り上げ高も、営業利益も順調に増えていっているという。自動車事業とのシナジーに関しては、自動車事業の手法を航空機の生産にも応用してコストを削減したり、調達管理をオンタイムで行なうなどがあるという。
そうしたスバルの航空宇宙事業だが、今後は新しいプロジェクトも控えているという。現在ボーイングが開発を進めているボーイング 777X、さらには防衛省が計画している次期国産ヘリコプター「UH-X」などの開発が行なわれており、今後生産が開始される機種などのプロジェクトに関しても、準備が進んでいるとのこと。
清水氏は「航空宇宙事業では、長期間の投資が必要になる。2005年にP-1/C-1/787などの投資をして、しばらくは収益が低下した。その後に回復し拡大した。現在は2015年から777XやUH-Xへの投資を始めており、やはり収益は数年間低下する見通しで、2018年頃から回復・拡大していく」と航空宇宙産業のビジネスを説明した。
ボーイング 777X用の建屋は建設完了し、2017年11月の初号出荷に向けた準備を進めている
スバルの半田工場は、半田工場のほかに、半田西工場と呼ばれる別の工場の2つから構成されている。半田西工場では、後述するボーイング 787型機の炭素繊維複合材(CFRP)製外板パネルを製造している。
清水氏によれば、半田工場ではボーイング 777、ボーイング 787、そして今後生産が開始されるボーイング 777X、そして自衛隊向けの「P-1」「C-2」の中央翼と呼ばれる部分を製造しているという。中央翼とは、飛行機の機体の中央に位置しており、左右の主翼がつながり主翼の一部として動作し、揚力による翼の変形や、胴体にかかる加重にも耐えるという非常に重要な部位。上部は客室の床面、下部は胴体中央の下面、内部は燃料タンクになっているという。また、ボーイング 777型機、787型機、777X型機に関しては川崎重工業が製造する主脚格納部を統合して出荷するという仕組みになっている。
清水氏は「中央翼は燃料を入れることになるため、与圧やシール技術などは高度で、かつ大きな加重もある。また、787に関しては炭素複合素材の主翼になっているため、炭素複合素材と相性がよいチタンも利用する」と述べ、中央翼の製造が非常に複雑で簡単に作れるようなものではないことを強調した。
また、製造上の要点としては、絶対にエラーがあってはならない航空機向けとして品質保証、そして各工程ごとに記録・検査・確認という完全なトレーサビリティが求められているとのこと。実際、これまでボーイング 777型機、787型機向けの中央翼の製造においては歩留まり100%、つまりは不具合品は1度も出荷したことがないと清水氏は説明した。
また、半田工場の歴史についても説明し、1988年2月に土地を取得し、まず1991年から工場の建設が開始され、1992年に最初の51棟が完成しボーイング 777用中央翼の組み立てが開始、1993年に最初の製品が出荷されたという。その後2006年にボーイング 787用の中央翼を製造する52棟が建設され、翌2007年にボーイング 787用の中央翼の生産が開始されたという。
現在はボーイング 777X用の53棟が建設済みで、機器などのインストールが行なわれ、2017年11月に予定されているボーイング 777X用初号出荷に向けて準備が進められている段階だという。
アルミ素材のボーイング 777用の中央翼を製造している、半田工場の51棟
半田工場の51棟で生産されているのが、アルミ素材のボーイング 777の中央翼だ。ただし、胴体のフェアリングのさらに内側にあるので、飛行機の外装からは直接確認することはできないという。10月24日現在の時点で1472号機分が半田工場から出荷済みで、現在受注残は151機だと清水氏は説明した。
なお、ボーイング 777はすでに新型機のボーイング 777Xにシフトすることが決まっており、旅客機はそちらに移行する見通しだが、777Xには貨物機が現在のところ計画がないということで、貨物機としてはボーイング 777の生産は続行される見通しとのこと。
清水氏によればこのボーイング 777は、ボーイングが初めて国際共同開発を初めたモデルで、例えば胴体を川崎重工業と三菱重工業が、そして中央翼をスバルの半田工場が、そして主脚扉と前方翼胴フェアリングをスバルの宇都宮工場が担当しているという。
中央翼は、ボックスのような形状になっており、左右に主翼との接合部がある。上部はシートの台座を固定する金具になっており、ボーイング 777の中央翼あたりのシート下のカーペットをはがすとちょうどこの中央翼になっているシートの取り付け金具になっているのだという。
製造過程に関しては、まず下部面に横のパネルを取り付け、内部の仕切り板を取り付け、上面を接合していってボックスの形状にする。いずれの作業も手作業の部分が多く、ロボットによる作業はかなり少ないのだという。
ボーイング 787の中央翼を製造しているのが52棟、-10の初号機向けは出荷済み
そして、炭素繊維複合材で製造されるボーイング 787の中央翼を製造しているのが52棟になる。10月24日時点でボーイング 787用の中央翼は537機分が出荷済みだが、現在までに受注機数が1161機(オプション契約分も含めると1453機)で、現在694機が受注残となっているという。つまり、世界中で売れ筋の飛行機だという。
このため、ボーイングも製造を急いでおり、半田工場も中央翼の生産ラインを3つにして、2日に1度出荷をしているという。ボーイング 787にはバリエーションとして最初のモデルとなったボーイング「787-8」、-8の胴体を延長したボーイング「787-9」があるが、さらにボーイング「787-10」と呼ばれる胴体をさらに延長したモデルが今年の6月に発表されており、既にその初号機用の中央翼が半田工場から出荷済みだという。
筆者が工場を訪れたときには、そのボーイング 787-10の2号機用の中央翼が製造中で、実際ラインで組み立てられていた。
ボーイング 787も国際共同開発になっており、三菱重工業が主翼ボックスを、川崎重工業が前胴部位、主脚格納部、主翼固定後縁などを担当しており、スバルは中央翼、そして川崎重工業から納品されてくる主脚格納部と中央翼の結合、さらには中央翼と主脚格納部への艤装品取り付けを行なっているという。
777用は船で海上輸送、787用はセントレアからドリームリフターを使った航空輸送
完成した中央翼は梱包されてコンテナに入れて出荷される。ボーイング 777用と、ボーイング 787用では出荷方法が異なっている。ボーイング 777用は隣接する亀崎港まで、コンテナごとトレーラーで陸送される。その後、コンテナごと船に積み込まれて、ボーイングの工場がある米国ワシントン州のエバレットまで船で海上輸送される。
ボーイング 787用は、亀崎港までコンテナごと陸送されるまでは同じだが、行き先はエバレットではなく、まずセントレア(中部国際空港)へと運ばれる。そこで、ボーイングがボーイング 787用の部材を航空貨物として輸送するために飛ばしている「ドリームリフター(Dream Lifter)」に積み込まれて、1度ボーイング 787用の工場兼部材置き場となっているサウスカロライナ州チャールストンへと輸送される。そこから必要があればエバレットへ送られる、そうした仕組みになっていると清水氏は説明した。
なお、取材の前に筆者がセントレアの展望デッキで飛行機の写真を撮っていたところ、そのドリームリフターがちょうど飛来してきたので、その着陸時の写真を添付しておく。ドリームリフターはボーイング 747を改造したもので、ボーイング 747の中央部の高さ方向を膨らませた形になっており、三菱重工業が製造した主翼なども格納できるようになっている。後部が折れ曲がるような形で開くようになっており、大型の部品も楽々入れられるようになっているのが最大の特徴となる。
清水氏によれば、三菱重工業が製造する主翼と、川崎重工業とスバルが製造する部分は交互に運ばれるということで、ある日は三菱分が、翌日は川崎+スバル分がと輸送されるとのこと。実質的には毎日ドリームリフターが何らかの部品を米国に運んでいるということになる。それだけボーイングとしてもボーイング 787の製造を急いでいるということだろう。
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