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下記は、2017.10.12 付の ダイヤモンド・オンライン に寄稿した、吉村克己 氏の記事です。
記
海外売上高比率は60%超世界唯一の製品を複数持つ中小企業
東京都立川市に本社を置くメトロールは、小規模ながら世界唯一の製品をいくつも持つグローバル企業である。
スマホ、パソコン、自動車、半導体、医療機器など私たちの生活を支えている工業製品の生産工程では、ほぼ全てで同社の製品が縁の下の力持ちとして働いている。
国内はもとより、世界68ヵ国、のべ3000社以上と取引し、海外売上高比率は60%を突破している。
メトロールの社名が、「measure」(計測)と「control」(制御)から由来するように、同社は精密加工に欠かせないセンサのプロ集団である。そのセンサを「精密位置決めスイッチ」という。スイッチと言っても、電気を入れたり切ったりするわけではない。工作機械などの製造装置やロボットが正確な動作をするための工業用スイッチで、工作機械の工具の先端の位置を精密に決めることで、設計図通りの加工が可能となるのだ。
従来から、こうした工業用センサは磁力や光の変化で測定する非接触の電気式が主流である。しかし機械内は熱や磁界が変化しやすく、金属を削った切粉、クーラント(冷却・潤滑用液)などが飛び散る過酷な環境で、電気式では精度が悪くなり、ミクロンレベルで測定ができず、結果的に加工不良が発生する原因の1つになっていた。
そこで、現在の松橋卓司社長(59歳)の父であり、創業者である松橋章が世界で初めて接触型の機械式精密位置決めスイッチを開発、大ヒット製品となった。機械式の精密位置決めスイッチは温度変化や切粉、クーラントなどの悪環境に強く、300万回の動作を繰り返しても、2000分の1mm単位で検出できる精度を持っている。しかも、周辺装置が不要なので、省スペースで装置に取り付けることができ、価格もリーズナブルだ。
メトロールでは世界最小の位置決めスイッチを開発するなど、機械式センサでは世界トップクラスのシェアを誇っている。中でも、CNC(コンピュータ制御)工作機械には不可欠な装置となっており、世界中で累計50万台以上のCNC工作機械に組み込まれている。
新製品の開発にも怠りなく、2015年末に販売を始めた「エアマイクロセンサ」は、空気の圧力を使って加工対象物と治具の正確な密着を確認する装置だ。従来の空圧式のギャップセンサより10倍の精度を実現した。
当時、80歳のエンジニアが開発した機械式のエアマイクロセンサは東京都ベンチャー技術大賞優秀賞を受賞した。その後、20代の若手社員が電子式にリニューアルし、精度と操作性を格段に向上させた。
また、機械式位置決めスイッチを応用したもので、旋盤の加工前の棒状材料の長さを精密に測定し、無線で機械にデータを送信する「ワイヤレス寸法判別スイッチ」も開発。コードレスなので産業用ロボットなどにも使われている。
いずれも、世界にない独自の製品で、売れ行き好調と松橋は語る。
メルマガとDMが武器世界中のエンジニアがファンに
中国やASEANを中心に順調に売上が増えており、前の2017年1月期では17億6500万円と売上も利益も過去最高となった。今期は20億円に達すると見込んでいる。松橋は嬉しそうにこう語る。
「海外での取引は、以前では企業の購買部が中心でしたが、最近では企業内のエンジニア個人から直接、メールで技術の問い合わせが入るようになりました。先日もスウェーデンの有力な設備メーカーの社員が3次元図面を送ってきて、エアマイクロセンサの使い方を相談してきたので、当社のエンジニアが丁寧にアドバイスしたところ、技術打ち合わせの段階に進むことができました。現在、サンプルを提供し、評価試験をするところです」
それだけ、メトロールの製品が技術者個人レベルで世界に浸透しているということだ。認知度の向上に役立ったのが、個人向けのメールマガジンやDMである。同社では関係各社の重要なエンジニアの名簿を購入し、製品・技術情報を定期的に送っている。メールマガジンの購読者は海外で2万2000人、国内で3万6000人もいる。
DMも私信の形で語りかけるように、わかりやすく簡潔に製品メリットを紹介した手紙と、サンプル、パンフレットを送っている。
「手紙の最後に『ご興味があれば、サンプルの提供や、技術打ち合わせに訪問したい』と書き入れると、意外と高い確率でアポイントが取れます」
「指示待ち社員など要らない」新人にも管理職並みの責任を
同社は上海と台湾に子会社を持っているが、主に現地の需要に応えている。それ以外の海外に対応するのが、本社にいる4人の海外営業担当だ。すべて20代の若い社員で、女性が多い。
ASEAN責任者は入社6年目の女性社員で、入社後3年半のときに主任兼ASEAN責任者に抜擢された。抜擢というより、同社では経験がなかろうと、どんなに若かろうと、躊躇なく大企業の管理職レベルの仕事でも任せるのが松橋の方針だ。
自分の頭で考え、判断し、行動する自立した人しか新卒でも採用しないという考え方で、入社後も初年度から製品開発や販売エリアを全て任される。上司の指示など待ってる人は通用しない。
ASEAN責任者の社員も、入社4ヵ月後に会社名義のゴールドクレジットカードを渡され、「自由に行ってこい」と送り出された。
海外担当は全員がゴールカードを持ち、よほどの高額でなければ取引先との会食や出張の飛行機代、ホテル代など自由に使える。海外出張が必要ならば、いちいち上司の決裁などいらず、勝手に飛行機のチケットを予約して飛んでいく。
「新入社員だろうと、私は全く不安に感じません。日本のような社会規範を守る国では、へたに知識や経験のある人は、先を読みすぎてチャレンジしない。でも、海外ビジネスは現地に行って、人に会ったり、現場を見たりしないとわからないことが多いんですよ。
だから、注文が1個でも、面白そうな案件なら、現地に飛んで人に会いに行くように言っています。中には1個から1万個の取引に拡大することもあるんですよ。ビジネスはチャンスと創造。氷山の下には大きな氷が隠れている。リスクを恐れず、血の通った商売をすることが大切です」
「親会社や国に縛られるのは嫌だ」大企業にもサヨナラを言える自由を
メトロールを創業した松橋章は、東京大学工学部を卒業後、光学機械メーカーに就職し、胃カメラの開発という当時の最先端技術の設計に携わった。しかし、技術開発よりも社内政治が優先される大企業病に悩まされながら、測定機メーカーに転職。その後、部下たちに請われてそれまでの技術を試すべく、1976年、52歳でメトロールを起業した。
当初は一品ものの設計開発を請け負っていたが、利益が出ず、身売りも考えた。そんな中で、工作機械メーカーから工具の位置決めに困っていると相談を受け、機械式の位置決めスイッチを開発。1983年から工作機械業界向けに発売を開始した。
これが爆発的ヒットとなったが、翌年にある大手電機メーカーが模倣品を発売。クレームも無視され、同社の創業者に直訴して窮地を脱するということもあった。
創業当時から、章には「世界に通用するブランド製品を持つ」夢があった。メトロールという横文字の社名にしたのも世界を舞台にするためであったという。
長男の卓司はそんな父を見ていながらも会社を継ぐつもりもなく、製品に関心もなかった。農学部を出て大手食品メーカーに就職、営業としてトップセールスに輝いたり、新規事業に関わったりするなど活躍するものの、大会社の体質にだんだん嫌気が差し、退職すべきかどうか章に相談したことがきっかけで、98年、メトロールに入社した。大会社が性に合わないのは親子ならではのようだ。
入社当時のメトロールの売上は5億円程度で、海外取引は韓国と台湾の工作機械メーカーに多少輸出している程度だった。卓司は海外展開を最初から考えており、当時普及が始まったばかりのインターネットを使って英語のダイレクト販売サイトを立ち上げた。部品メーカーとしては非常に早い取り組みだった。
「私は会社を経営するならば、特定の企業や国に縛られるのは嫌だと思っていたんです。限定的な取引先しかなければ、一方的な値引きを要求され、下請け的にならざるを得ないからです。条件が合わなくなったとき、どんな大企業とも『サヨナラ』できる自由がほしかったのです。だから、真似はされても決して真似しない独自の製品を持ち、ちゃんと利益の出せる会社にしたいとずっと考えてきました」
15年後には1000億円企業へ国や地域で変えるアプローチの妙
まだまだ、ネットで商売ができるほどの時代ではなかったが、1通のメールが海外進出の展望を開いてくれた。
「中国の小さな工作機械メーカーから問い合わせのメールがあったのです。商売になるかどうかわかりませんでしたが、そのメーカーの女性社長に会いに行ったり、交流を深めたりするうちに、あれよあれよという間に成長し、15年後には1000億円企業になったのです。それと一緒に当社も成長しました」
海外向けのダイレクト販売は年を追うごとに売上が増え、現在は年間で2億円を売るようになった。クレジットカードで決済し、国際宅配便で1週間以内に届ける。小口取引だが、代金回収の手間もないし、ダイレクト販売から大口取引につながることも多く、同社の重要な販売窓口となっている。
2003年からは海外展示会にも積極的に出展し、現在では欧米やアジアなど年間25回も参加している。アジアは最初からよい反応があったが、欧米では苦労している。
「欧米の展示会ではキーマンになるようなエンジニアが来場しないんですよ。何度出展しても効果がないので、2年前くらいから欧米についてはDMを中心とした開拓に切り替えました」
出展にかかる費用は安くないだけに、成果が得られないときは苦しかったようだ。
これまで、海外取引でクレームや代金回収事故もほとんどなかったが、ときには無茶な使い方をされて、製品が壊れたことはあった。耐久性に優れていることがセールスポイントのため、現地調査を行うことも少なくない。それもノウハウになる。
いずれも横着せずに現地に行くというのが、メトロールの海外進出の基本のようだ。
「国や地域によってアプローチが違うので、固定観念に囚われないことが大切です。あきらめずにアプローチしていると、狙ってもいなかった思わぬ企業から引き合いが来ることもあり、飛行機代など考えず色々なユーザーと先入観なく会うことが肝心ですね」
親子二人三脚で世界を席巻した「位置決めスイッチ」の潜在顧客
現在、メトロールのホームページは英語、中国語、台湾語、ドイツ語、韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語など9ヵ国語に対応している。簡体字の中国と、昔ながらの繁体字を使う台湾を分けているのが同社らしい。卓司はインターネットこそ海外への窓口だったと語る。
「多国籍の言語で工夫して伝えれば、世界中のお客さんと関係をつくることができるなんて夢のような時代です。インターネットが世界に窓を開けたんです。毎日、どんな技術問い合わせがあり、お客様の問題解決からどんなビジネスに広がるのか楽しみで、ワクワクします」
父が生み出した位置決めスイッチを息子の卓司が世界に広めた。会社も入社時から4倍の売上になった。まだまだ、メトロールの製品を待っている顧客は世界にいるはずだ。
(本文敬称略)
株式会社メトロール
事業内容:工場の自動化に貢献する、高精度工業用センサの開発・製造・販売従業員数:128名(うち正社員51名)所在地:東京都立川市高松町1-100 立飛リアルエステート 25号棟 5階電話:042-527-3278売上高:17億6500万円(2016年度)URL:http:// www.met rol.co. jp/
(ルポライター 吉村克己)
https:/ /www.ms n.com/j a-jp/ne ws/mone y/%e7%a b%8b%e5 %b7%9d% e3%81%a 7%e7%94 %9f%e7% 94%a3%e 3%81%95 %e3%82% 8c%e3%8 2%8b%e3 %80%8c% e7%b2%b e%e5%af %86%e4% bd%8d%e 7%bd%ae %e6%b1% ba%e3%8 2%81%e3 %82%b9% e3%82%a 4%e3%83 %83%e3% 83%81%e 3%80%8d %e3%81% ab%e4%b 8%96%e7 %95%8c% e3%81%8 b%e3%82 %89%e6% b3%a8%e 6%96%87 %e3%81% 8c%e6%a e%ba%e5 %88%b0% e3%81%9 9%e3%82 %8b%e7% 90%86%e 7%94%b1 /ar-AAt jjcm#pa ge=2
記
海外売上高比率は60%超世界唯一の製品を複数持つ中小企業
東京都立川市に本社を置くメトロールは、小規模ながら世界唯一の製品をいくつも持つグローバル企業である。
スマホ、パソコン、自動車、半導体、医療機器など私たちの生活を支えている工業製品の生産工程では、ほぼ全てで同社の製品が縁の下の力持ちとして働いている。
国内はもとより、世界68ヵ国、のべ3000社以上と取引し、海外売上高比率は60%を突破している。
メトロールの社名が、「measure」(計測)と「control」(制御)から由来するように、同社は精密加工に欠かせないセンサのプロ集団である。そのセンサを「精密位置決めスイッチ」という。スイッチと言っても、電気を入れたり切ったりするわけではない。工作機械などの製造装置やロボットが正確な動作をするための工業用スイッチで、工作機械の工具の先端の位置を精密に決めることで、設計図通りの加工が可能となるのだ。
従来から、こうした工業用センサは磁力や光の変化で測定する非接触の電気式が主流である。しかし機械内は熱や磁界が変化しやすく、金属を削った切粉、クーラント(冷却・潤滑用液)などが飛び散る過酷な環境で、電気式では精度が悪くなり、ミクロンレベルで測定ができず、結果的に加工不良が発生する原因の1つになっていた。
そこで、現在の松橋卓司社長(59歳)の父であり、創業者である松橋章が世界で初めて接触型の機械式精密位置決めスイッチを開発、大ヒット製品となった。機械式の精密位置決めスイッチは温度変化や切粉、クーラントなどの悪環境に強く、300万回の動作を繰り返しても、2000分の1mm単位で検出できる精度を持っている。しかも、周辺装置が不要なので、省スペースで装置に取り付けることができ、価格もリーズナブルだ。
メトロールでは世界最小の位置決めスイッチを開発するなど、機械式センサでは世界トップクラスのシェアを誇っている。中でも、CNC(コンピュータ制御)工作機械には不可欠な装置となっており、世界中で累計50万台以上のCNC工作機械に組み込まれている。
新製品の開発にも怠りなく、2015年末に販売を始めた「エアマイクロセンサ」は、空気の圧力を使って加工対象物と治具の正確な密着を確認する装置だ。従来の空圧式のギャップセンサより10倍の精度を実現した。
当時、80歳のエンジニアが開発した機械式のエアマイクロセンサは東京都ベンチャー技術大賞優秀賞を受賞した。その後、20代の若手社員が電子式にリニューアルし、精度と操作性を格段に向上させた。
また、機械式位置決めスイッチを応用したもので、旋盤の加工前の棒状材料の長さを精密に測定し、無線で機械にデータを送信する「ワイヤレス寸法判別スイッチ」も開発。コードレスなので産業用ロボットなどにも使われている。
いずれも、世界にない独自の製品で、売れ行き好調と松橋は語る。
メルマガとDMが武器世界中のエンジニアがファンに
中国やASEANを中心に順調に売上が増えており、前の2017年1月期では17億6500万円と売上も利益も過去最高となった。今期は20億円に達すると見込んでいる。松橋は嬉しそうにこう語る。
「海外での取引は、以前では企業の購買部が中心でしたが、最近では企業内のエンジニア個人から直接、メールで技術の問い合わせが入るようになりました。先日もスウェーデンの有力な設備メーカーの社員が3次元図面を送ってきて、エアマイクロセンサの使い方を相談してきたので、当社のエンジニアが丁寧にアドバイスしたところ、技術打ち合わせの段階に進むことができました。現在、サンプルを提供し、評価試験をするところです」
それだけ、メトロールの製品が技術者個人レベルで世界に浸透しているということだ。認知度の向上に役立ったのが、個人向けのメールマガジンやDMである。同社では関係各社の重要なエンジニアの名簿を購入し、製品・技術情報を定期的に送っている。メールマガジンの購読者は海外で2万2000人、国内で3万6000人もいる。
DMも私信の形で語りかけるように、わかりやすく簡潔に製品メリットを紹介した手紙と、サンプル、パンフレットを送っている。
「手紙の最後に『ご興味があれば、サンプルの提供や、技術打ち合わせに訪問したい』と書き入れると、意外と高い確率でアポイントが取れます」
「指示待ち社員など要らない」新人にも管理職並みの責任を
同社は上海と台湾に子会社を持っているが、主に現地の需要に応えている。それ以外の海外に対応するのが、本社にいる4人の海外営業担当だ。すべて20代の若い社員で、女性が多い。
ASEAN責任者は入社6年目の女性社員で、入社後3年半のときに主任兼ASEAN責任者に抜擢された。抜擢というより、同社では経験がなかろうと、どんなに若かろうと、躊躇なく大企業の管理職レベルの仕事でも任せるのが松橋の方針だ。
自分の頭で考え、判断し、行動する自立した人しか新卒でも採用しないという考え方で、入社後も初年度から製品開発や販売エリアを全て任される。上司の指示など待ってる人は通用しない。
ASEAN責任者の社員も、入社4ヵ月後に会社名義のゴールドクレジットカードを渡され、「自由に行ってこい」と送り出された。
海外担当は全員がゴールカードを持ち、よほどの高額でなければ取引先との会食や出張の飛行機代、ホテル代など自由に使える。海外出張が必要ならば、いちいち上司の決裁などいらず、勝手に飛行機のチケットを予約して飛んでいく。
「新入社員だろうと、私は全く不安に感じません。日本のような社会規範を守る国では、へたに知識や経験のある人は、先を読みすぎてチャレンジしない。でも、海外ビジネスは現地に行って、人に会ったり、現場を見たりしないとわからないことが多いんですよ。
だから、注文が1個でも、面白そうな案件なら、現地に飛んで人に会いに行くように言っています。中には1個から1万個の取引に拡大することもあるんですよ。ビジネスはチャンスと創造。氷山の下には大きな氷が隠れている。リスクを恐れず、血の通った商売をすることが大切です」
「親会社や国に縛られるのは嫌だ」大企業にもサヨナラを言える自由を
メトロールを創業した松橋章は、東京大学工学部を卒業後、光学機械メーカーに就職し、胃カメラの開発という当時の最先端技術の設計に携わった。しかし、技術開発よりも社内政治が優先される大企業病に悩まされながら、測定機メーカーに転職。その後、部下たちに請われてそれまでの技術を試すべく、1976年、52歳でメトロールを起業した。
当初は一品ものの設計開発を請け負っていたが、利益が出ず、身売りも考えた。そんな中で、工作機械メーカーから工具の位置決めに困っていると相談を受け、機械式の位置決めスイッチを開発。1983年から工作機械業界向けに発売を開始した。
これが爆発的ヒットとなったが、翌年にある大手電機メーカーが模倣品を発売。クレームも無視され、同社の創業者に直訴して窮地を脱するということもあった。
創業当時から、章には「世界に通用するブランド製品を持つ」夢があった。メトロールという横文字の社名にしたのも世界を舞台にするためであったという。
長男の卓司はそんな父を見ていながらも会社を継ぐつもりもなく、製品に関心もなかった。農学部を出て大手食品メーカーに就職、営業としてトップセールスに輝いたり、新規事業に関わったりするなど活躍するものの、大会社の体質にだんだん嫌気が差し、退職すべきかどうか章に相談したことがきっかけで、98年、メトロールに入社した。大会社が性に合わないのは親子ならではのようだ。
入社当時のメトロールの売上は5億円程度で、海外取引は韓国と台湾の工作機械メーカーに多少輸出している程度だった。卓司は海外展開を最初から考えており、当時普及が始まったばかりのインターネットを使って英語のダイレクト販売サイトを立ち上げた。部品メーカーとしては非常に早い取り組みだった。
「私は会社を経営するならば、特定の企業や国に縛られるのは嫌だと思っていたんです。限定的な取引先しかなければ、一方的な値引きを要求され、下請け的にならざるを得ないからです。条件が合わなくなったとき、どんな大企業とも『サヨナラ』できる自由がほしかったのです。だから、真似はされても決して真似しない独自の製品を持ち、ちゃんと利益の出せる会社にしたいとずっと考えてきました」
15年後には1000億円企業へ国や地域で変えるアプローチの妙
まだまだ、ネットで商売ができるほどの時代ではなかったが、1通のメールが海外進出の展望を開いてくれた。
「中国の小さな工作機械メーカーから問い合わせのメールがあったのです。商売になるかどうかわかりませんでしたが、そのメーカーの女性社長に会いに行ったり、交流を深めたりするうちに、あれよあれよという間に成長し、15年後には1000億円企業になったのです。それと一緒に当社も成長しました」
海外向けのダイレクト販売は年を追うごとに売上が増え、現在は年間で2億円を売るようになった。クレジットカードで決済し、国際宅配便で1週間以内に届ける。小口取引だが、代金回収の手間もないし、ダイレクト販売から大口取引につながることも多く、同社の重要な販売窓口となっている。
2003年からは海外展示会にも積極的に出展し、現在では欧米やアジアなど年間25回も参加している。アジアは最初からよい反応があったが、欧米では苦労している。
「欧米の展示会ではキーマンになるようなエンジニアが来場しないんですよ。何度出展しても効果がないので、2年前くらいから欧米についてはDMを中心とした開拓に切り替えました」
出展にかかる費用は安くないだけに、成果が得られないときは苦しかったようだ。
これまで、海外取引でクレームや代金回収事故もほとんどなかったが、ときには無茶な使い方をされて、製品が壊れたことはあった。耐久性に優れていることがセールスポイントのため、現地調査を行うことも少なくない。それもノウハウになる。
いずれも横着せずに現地に行くというのが、メトロールの海外進出の基本のようだ。
「国や地域によってアプローチが違うので、固定観念に囚われないことが大切です。あきらめずにアプローチしていると、狙ってもいなかった思わぬ企業から引き合いが来ることもあり、飛行機代など考えず色々なユーザーと先入観なく会うことが肝心ですね」
親子二人三脚で世界を席巻した「位置決めスイッチ」の潜在顧客
現在、メトロールのホームページは英語、中国語、台湾語、ドイツ語、韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語など9ヵ国語に対応している。簡体字の中国と、昔ながらの繁体字を使う台湾を分けているのが同社らしい。卓司はインターネットこそ海外への窓口だったと語る。
「多国籍の言語で工夫して伝えれば、世界中のお客さんと関係をつくることができるなんて夢のような時代です。インターネットが世界に窓を開けたんです。毎日、どんな技術問い合わせがあり、お客様の問題解決からどんなビジネスに広がるのか楽しみで、ワクワクします」
父が生み出した位置決めスイッチを息子の卓司が世界に広めた。会社も入社時から4倍の売上になった。まだまだ、メトロールの製品を待っている顧客は世界にいるはずだ。
(本文敬称略)
株式会社メトロール
事業内容:工場の自動化に貢献する、高精度工業用センサの開発・製造・販売従業員数:128名(うち正社員51名)所在地:東京都立川市高松町1-100 立飛リアルエステート 25号棟 5階電話:042-527-3278売上高:17億6500万円(2016年度)URL:http://
(ルポライター 吉村克己)
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