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わずか3分、白内障の革新的手術<上>放置すれば失明…“新兵器”が救う
加齢に伴って多くの人が発症する白内障。手術すれば治る病気だが、世界的には失明原因の第1位だという。三井記念病院眼科部長の赤星隆幸医師は、その白内障をわずか3~4分で手術する方法を考案し、世界に普及させようとしている。赤星医師はこのほどBS日テレ「深層NEWS」に出演し、患者に負担をかけずに短時間で行う独自の手術方法について説明した。
(構成 読売新聞専門委員 東一眞)
◆年間1万件の手術実績
私は1日に60件程度の手術を行います。去年は1年間で、1万398件の手術を行いました。なぜ、3~4分の短時間で手術を終えることにこだわるかというと、手術に時間がかかると、角膜が傷んで回復に時間がかかる、あるいは感染症を起こすリスクが高くなってくるからです。ですから、小さい傷口で目に負担をかけずに、いかに安全に、効率よく、質の高い手術を行っていくかというのが、私のずっと考えていた白内障の手術なのです。この方法では、すぐに視力を回復するし、治療の期間も短くすることができます。
白内障の手術は一般的には15分から20分、大学病院だと30分かかるケースもあります。ただ、決して時間を競っているわけではありません。普通の白内障ですと3分とか4分で終わりますけれども、なかには非常にこじれた大変な白内障もあり、それにはそれなりの時間がかかるわけです。
◆白内障とは
眼球のなかには水晶体というレンズが入っています。水晶のように透明できれいなレンズなのですが、だんだん年を取ってくると濁ってくる。病気というよりは老化現象、白髪と同じように年とともに濁ってくるのが白内障なのです。
日本では年間100万件以上の手術が行われているのですが、手術をして治してあげられる病気なのです。ただ、世界的に見ると、手術が受けられないために、失明原因のナンバー1になっている。白内障も放置しておけば、濁りが強くなって失明してしまうのです。
瞳を広げて観察すると上の写真のように見えるのですが、いろんな種類の白内障があります。端のほうから濁ってくる「皮質白内障」は真ん中に来るまで症状が出ません。真ん中が硬くなってくる「核白内障」は、色の見え方が変わったり、あるいはメガネの度が年々厚くなってきたりする。近眼が進んでくるのが特徴的です。アトピーの方、糖尿病の方がなるのが「後嚢下(こうのうか)白内障」で、これはレンズを包んでいる後ろの部分が擦りガラス状に濁ってくる。進行の速度の速い白内障です。
いずれの白内障も放っておくと、真っ白になってしまって、目の前に手が動くのがやっと分かる、あるいは光がやっと分かるくらいまで視力が落ちて、さらに放置しておけば完全に失明してしまいます。長い時間を経て進行していくので、なかなか患者さん自身が気づかないことが多いのです。
◆具体的な手術方法
簡単に言えば目の中の濁っている水晶体を取り除いて、同じ場所に人工的な眼内レンズを移植してあげるのが白内障の手術なのです。まず、ダイヤモンドのメスで角膜を切開します。角膜は血管がない組織なので、切っても出血が起こりません。
目の中に角膜を保護するため粘弾性物質――ドロドロしたノリのようなもの――を入れまして、角膜を保護します。水晶体というのは薄いセロファンのようなカプセルという膜に包まれています。この膜の前のほうに丸い穴を開けて、この膜を破らずに、中身だけを取り除くことをします。ハイドロダイセクションといいますが、水の力を使って、カプセルと中身を分離します。
そして、私のオリジナルな技術で、プレチョップといいますが、特殊なプレチョッパーという器具を使って、水晶体をあらかじめ四つ、あるいは六つに分割します。
この後、超音波乳化吸引装置、これは金属のチップから超音波が発振されるものですが、これで水晶体を砕いて吸い取ります。昔はこれ、片端からずっと削っていたのですが、水晶体をあらかじめ細かく分割することによって、超音波をかけている時間を非常に短くできる。たったの5秒。それから目の中を還流した液体も11cc、12ccとほんのわずかな液体の量で水晶体を吸引します。そして、残っている皮質というレンズのやわらかい部分をI/Aチップで、きれいに吸い取ります。
そうするとレンズを包んでいた透明な袋が目の中に残ります。グジャッと袋がつぶれていますので、また粘弾性物質を入れて、袋を膨らませて、この中に直径6ミリのレンズを入れます。
傷口は1.8ミリですけれども、レンズを折りたたんで中に入れます。なかでゆっくりレンズが広がって行って、この後、粘弾性物質を吸い取ってしまいます。普通のレンズは方向がありませんので、粘弾性物質を吸い取って、これで手術が終わりです。
一方、乱視を矯正するトーリックレンズは方向性があります。レンズを包んでいる袋をきれいにして、レンズの方向をアジャストします。単焦点レンズであろうが、多焦点レンズであろうが手技としてはまったく同じですけれど、レンズの方向をあらかじめ角膜につけた印の方向に合わせて、3分ちょっとで手術を終えることができる。
傷口を縫うことはしません。ダイヤモンドの非常にシャープな傷口なので、圧を上げるだけで、傷口が着いてしまう。麻酔は点眼麻酔ですので、患者さんは手術が終わった段階で、ものを見ることができるのです。
◆時間短縮のカギ、プレチョップ法
手術を3分でやるためには、いろんな工夫があります。水晶体をあらかじめ分割するプレチョップ法が、独自の手術の核心部分です。プレチョップを開発したのが1992年ですが、専用の器具はありませんでした。だれでもが簡単にできるようにと、プレチョッパーという器具を後に私がつくったのです。
材質はチタンあるいはステンレスです。手術の器具を普及させるために特許はとっていません。このため、世界中のいろんなメーカーが、プレチョッパーをつくっています。この器具を水晶体に打ち込んでキュッと開くと、先端が開くのです。これを使って水晶体をあらかじめ細かく分けておきます。これによって、後に行う乳化吸引の時間を格段に短くすることができ、手術を安全に短時間に行うことができるようになったのです。
昔は水晶を削っていたのです。縦方向に溝を掘って、また回して溝を掘って、超音波のエネルギーもたくさん必要だし、還流液も多くなって角膜が傷んだり、深く掘りすぎて突き抜けて膜が破けてレンズが落っこちたりと、いろんな合併症があったのです。
けれども、細かくプレチョップすることで、乳化吸引を簡単に行うことができるようになった。傷口もそれにしたがって小さくすることができました。昔は3ミリ以上の傷口だったところを、今は1.8ミリです。
これが、私が2004年に開発したインジェクターという器具なのですけれども、レンズをこのカートリッジの中にセットしてトコロテンを押し出すようにレンズを押し出します。これがなければ、6ミリのレンズを、1.8ミリの傷口から入れることはできません。はじめてこれを発表したときは、コンピューターグラフィックス(で作った映像)だろう、と野次(やじ)が飛んだくらい、みんな驚きました。
これを見せてくれということで世界中66か国から呼ばれています。世界中で公開手術をしたり、講演をしたりして、この方法を広めてきたのです。この間の連休は16日間で世界を1周してきました。来週はルーマニアに1週間行ってきます。
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※6月15日放送のBS日テレ「深層NEWS」(月~金曜日の22時~23時放送)を再構成しました。
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