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2020年05月01日 05:05
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© Getty Images ※画像はイメージです
うつ病治療の主体は抗うつ薬だが、患者の半数近くが効果を示さないと報告されている。薬物以外の新たな治療法の開発が求められる中、広島大学脳・こころ・感性科学研究センター特任教授の山脇成人氏らは、抗うつ薬が無効のうつ病患者を対象に、患者自身が左前頭葉の脳活動を制御する「ニューロフィードバック訓練」を実施。その結果、うつ病の症状が改善することを世界で初めて確認したと、J Affect Disord(2020年4月15日オンライン版)に発表した。
難治6例を対象に、ニューロフィードバック訓練を実施
うつ病による疾病負荷が大きくなる一方、薬物療法や精神療法では寛解を維持できないなど、治療の限界が指摘されている。そのため、新たな治療法の開発が喫緊の課題となっている。
そこで注目されているのが、機能的MRI(fMRI)などを用いて患者の脳活動を可視化し、制御するニューロフィードバックだ。脳活動をリアルタイムでモニターしながら訓練することで、低下している左前頭葉の脳活動を患者自身が活性化させるというもの。山脇氏らはこれまで、fMRIを用いた脳機能解析から①うつ病患者では左前頭葉の機能低下および楔前部の機能亢進が見られる(Neuropsychobiology 2016; 74: 69-77)②これらは認知機能の低下や反芻症状と関連する(Sci Rep 2020; 10: 3542)―ことを明らかにしている。
今回同氏らは、薬物療法で十分な回復が得られない難治性うつ病患者6例(男女各3例、平均年齢40.7歳)を対象に、ニューロフィードバック訓練の有効性を検討した。まず、fMRIで可視化した左前頭葉の脳活動値をリアルタイムで患者に提示。過去の楽しい場面を思い出すなどの方法で左前頭葉の活動を高める訓練を1日15分程度、5日間継続してもらい、訓練の前後でうつ病の重症度と反芻症状を測定し、治療効果を評価した。
うつ病の重症度と反芻症状が改善
その結果、うつ病の自己評価尺度(BDI-Ⅱ)およびハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)はいずれも、訓練実施前に比べて実施後に有意な改善が示された(それぞれP=0.026、P<0.001)。また、反芻症状の測定に用いる私的自己意識の評価尺度(RRQ-Rumination)においても、実施後に有意な改善が認められた(P=0.043)。
山脇氏らは、今回の研究について、①対照群を設けていない②脳活動の改善を維持できるかどうかについては検討していない③対象の多くが薬物治療を併用していたため、その影響を否定できない④fMRIの信号を変調しうる呼吸の影響を排除していない―といった限界点を挙げた上で「難治性うつ病患者に対するニューロフィードバック訓練が、抗うつ作用を有することを世界で初めて明らかにした」と結論。さらに「現在は症例数を増やしたランダム化比較試験を実施中だ。保険診療の承認および臨床応用への実現を目指したい」と展望している。
(比企野綾子)
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