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2020年07月14日 11:06 朝日新聞デジタル
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限定公開( 110 )
写真 倉庫に積み上げられた1991年発売のPC-9801DA。全盛期のハードでタマ数も多い |
昭和から平成の始まりにかけて国内市場を席巻し、「キューハチ」と呼ばれ親しまれたNECの名パソコン「PC-98」シリーズ。リモートワーク隆盛のいまも、根強いニーズがあるという。トラブルに困ったユーザーが駆け込むという専門店を訪ね、いまだ現役の老ハードを取り巻く状況を探った。
PC-98は、NECが1980年代から販売していた16/32ビット機。当時としては高精細なグラフィックや優れた日本語処理を武器に、ピーク時の国内シェアは少なくともビジネス向けで8割、個人向けで5割以上あったとされる。
しかし、90年代中ごろからは、米マイクロソフトのウィンドウズOSに対応した世界共通規格の「PC/AT互換機」が台頭。PC-98は、国内向けに特化した独自のソフトや規格が足かせとなりシェアが急落し、2000年の「PC-9821Nr300/S8TB」が最終モデルとなった。
ところが、今でもオークションサイトには数千件の出品があり、工場の生産ラインやインフラ管理の現場では、いまだ現役で稼働し続けている。東京の臨海部を走る新交通「ゆりかもめ」の公式ツイッターは今月2日、長らく業務に用いていたノート型のPC-98の引退を報告。1995年の開業から25年間、設備メンテナンスで使い続けていたといい、その長寿ぶりにフォロワーからは多くの反響が寄せられた。
■「キューハチでないと駄目」
そんな隠れたニーズに応え続ける専門業者の一つが、「PC-98のミシマ」(静岡県伊豆の国市)だ。約1000台をストックして整備・販売するほか、修理や買い替えの相談にも応じている。代表の井口智晴さん(38)が15年ほど前、すでに他店でPC-98の扱いが大きく減っていたのに気づき、古いマシンに特化した事業を思い立ったという。
ミシマでは、1日当たり数件ほどの販売・相談がコンスタントにある。壊れたマシンを抱え「生産ラインが止まった」と飛び込んでくる新規の客は後を絶たない。バブル経済期に設備投資された工場では、設計時点でPC-98をシステムに組み込むことが多く、設備を丸ごと入れ替えない限りPC-98を使い続けざるを得ない。長年ノートラブルだったシステムが突然動かなくなり、「分かる人間がもう社内にいない」と、お手上げ状態で相談してくる現場責任者も増えているという。
工場以外でも、社内の経理システムで使い続ける経営者や、楽曲制作の機器として愛用し続けるミュージシャンなど、「キューハチでないと駄目」とこだわる得意客が少なくない。井口さんは「仕方なく使い続けるというよりも、『このパソコンでないと良い仕事ができない』と、愛着を抱く人が意外と多い」と印象を語る。
井口さんによると、今よりも高価だった当時のパソコンは本体ケースや基板が頑丈で、配線や部品の組み付けも丁寧だったため耐久性に優れ、消耗部品の交換といったメンテナンスを続ければ比較的長持ちするという。ただ、内蔵型ハードディスクドライブや拡張ボードなど、PC-98専用の機器や補修部品の流通量はどんどん減っていて、在庫の確保が難しくなっている。
そのためミシマでは近年、最新のウィンドウズPC向け機器を加工・流用した代替品の開発に力を入れる。井口さんは「工場の担当者にはパソコンに不慣れな若い人も多い。現代ならではのニーズに沿った提案をしていきたい」と話している。(北林慎也)
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