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1本1万円のネギに込めた「初代葱師」の挑戦いつだって、答えは失敗の中にある
1本1万円もするネギが売れています。
料理の中では脇役のイメージがあるネギに、ここまでの価値をつけて売り出したのは、ねぎびとカンパニーの代表取締役であり、『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』の著者でもある清水寅(つよし)さんです。金融系の会社に就職し、7社もの会社の社長を歴任した清水さんは、30代から農業の世界に飛び込みました。
新しい分野で挑戦と試行錯誤を繰り返し、失敗から学び続けようとする清水さんに、1万円のネギを売り出す際の戦略や、技術へのこだわり、挑戦と失敗への向き合い方についてお話をうかがいました。
1本1万円のネギで、他の300万本のネギの単価を上げる
── 『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』というタイトルのとおり、清水さんが代表取締役を務めるねぎびとカンパニーでは「モナリザ」という限定のネギを、1本1万円で販売されていますね。モナリザはどのようにして生まれたのですか?
農作物の売値は、原価や味に関係なく、相場で決まります。ネギを作るための経費は年々上がっているけど、小売価格は昔からほとんど変わっていません。それでは農家は食べていけないから、単価を上げなければならないという思いがありました。
うちのネギは、最初にスーパーに出したときは3本98円で、翌年には3本158円、その翌年には3本198円になりました。さらに、束ねる本数だけを変えることで2本198円にまでは上げられたのですが、そこから198円の壁を超えることがなかなかできなかった。いくらおいしいネギを作るために工夫を凝らしても、それだけでは価格は上げられなかったんです。そんなときに、テレビで叶姉妹を見かけて、ふと思ったんですよ。「もし叶姉妹がネギを売ったらものすごく高いんじゃないか?」って。
── たしかに、あのゴージャスな叶姉妹からネギを売っていて、198円だったら逆にガッカリするかもしれないですね。
でしょう? そんなふうに「高級なネギを売る人」になれたら、「この人が作っているネギだったら少し高くても買ってみるか」と思ってもらえるんじゃないかと。そういう発想でできたのが、一番おいしい時期の、特別立派なネギだけを厳選して高級品として売り出す8本1万円の「真(しん)の葱」、そして1本1万円の「モナリザ」です。これを売り出してから、ようやく198円の壁を超えることができるようになりました。
── 本の中では、おいしいネギを作るためのこだわりの製法について、かなり詳しく書いていらっしゃいますよね。
本には、ネギのおいしさを追求するためにしてきた試行錯誤やおいしく作る秘訣を詳細に書きました。僕はネギの「創った」って感覚が楽しいんですよね。ほうれん草は植えたら何もしなくても「できた」っていう感じなんですけど、ネギは手間をかけて仕上げていく、「創った」っていう感じがあるんです。
周りからは「こんなに詳しく書いちゃっていいんですか?」と言われたんですが、全然問題ありません。もし真似されたとしても、それで僕のネギの価値が下がるわけではないですから。
一生懸命やるから楽しくなって、成果が上がる
── 清水さんは、高校まではスポーツに打ち込み、金融系の会社への就職を経て、7社もの会社の社長を務めてから就農する、という異色の経歴の持ち主ですね。書籍中の「100%の努力」という言葉どおり、どの時期も自分の目の前のことに全力投球されているように感じます。この力はどこから来るのでしょうか?
前提として、僕は「一生懸命やる」ということは、一つの技術だと思うんです。どんな職種や職業であっても、成功の前提には「一生懸命やる」ということがあります。一生懸命やって失敗した、一生懸命やった結果向いていないことがわかった、ということがあっても、それはそれでいいんです。
どんなことであっても、最初から一生懸命やれない人は、自分に向いていることが来たとしてもスルーしてしまうでしょう。向いているかどうかっていうのは、長くやってみないとわからないものだから、やる前から自分で判断することはできない。そういう考えを持って取り組めば、新しいことへのチャレンジはすごく楽になると思います。成功しても失敗してもいいけど、一生懸命やった方が答えにたどり着きやすいですからね。
── 「部活のような会社にしたい」という清水さんのビジョンに通ずるところがありますね。
楽しく働くことが一番生産性を上げてくれますからね。学生の頃、部活に打ち込んで無我夢中になって、本気でやっている人だけがわかる楽しさを感じていた人っていっぱいいるはずなんですよ。どうして大人になったらそれができなくなってしまうのか、僕は不思議でなりません。だったら、会社を部活みたいにしてしまえばいいじゃないかと考えて、みんなが恥ずかしがらずに一生懸命になれる環境づくりに力を入れています。
うちの社員たちは、ネギの皮むきを競技のようにとらえていて、ビデオに録って効率のよいフォームを研究しているんです。それこそ部活みたいに、一生懸命取り組む。だから成長が早いんです。
あとは、ひとりひとりを良く見て、最初から、向き不向きを判断して采配するようにしています。本人が自分の適性を判断することは難しいんだけど、仕事を熟知している僕の目線から見たら、向き不向きがわかることが多いんです。向いていないところで頑張るのは辛いですからね。
自分にしか作れないものへの誇り
── 最近では農業のイメージアップをしようという話題もありますが、清水さんは農業は「汚い」「臭い」「きつい」と言った上で、それでもかっこいいと言っているところが印象的です。
農業は、汚いし、臭いし、きついこともあります。でも、それを承知の上で、頑張っている姿ってかっこよくないですか? 嫌なことを嫌っていうのは一般社員の目線で、嫌なことを喜んでやれるのが経営者の目線だと思います。汚いことは汚いって認めた上で、それをかっこよく見せるのがプロフェッショナルなんです。
── 清水さんにとっての農業のかっこよさを教えてください。
僕の思う農業のかっこよさは、自分にしか作れないものがあるということ。このネギは僕にしか作れない。誰にも作れないものを僕らが作っている。どの農家にも、自分にしか作れない味があって、それを誇りに思っています。畑という場で、自分の技術を披露しているんです。
いつでも新しい挑戦を探している
── 清水さんは新しいことを始めるために、それまで一生懸命やってきたことをやめてもいますよね。これまで打ち込んできたことをやめることには、勇気がいるのではないでしょうか。
自分としてはやめるという感覚よりも、始めるという感覚の方が強いですね。ひとつひとつのことに本気で取り組んでいるからこそ、やり切ったら飽きてしまうのかもしれません。でも、ネギづくりが飽きないのは、失敗ばかりしているからなんですよ。やっていると、まだできていなこと、こうしなければいけないと思うことがどんどん見えてくるので、いつも新しいことに取り組んでいます。やりたいことがつきないので、やっていたらあっという間に100年くらい経っていそうな気がします。
── 挑戦と試行錯誤を繰り返していらっしゃるんですね。かなり失敗もされているそうですが、どうやってリスクを管理しているんですか?
僕は農家の人からは成功していると思われているところがあるんですが、本当は失敗ばっかりなんですよ。自分のしてきた失敗について伝えるというのもこの本を書いた目的の一つです。でも、じつは僕は根幹の商品であるネギについては大きな冒険をしたりはせずに、リスクをとるのは枝葉の部分なんです。たとえば、ほうれん草には「キスよりあまい ほうれん草」なんてけっこう遊んだ名前をつけているけど、ネギの方は「寅(とら)ちゃんねぎ」で普通でしょう?
僕は失敗しないとダメなタイプなんですよ。自然界には、イルカみたいに脳が半分ずつ寝て泳ぎ続ける動物もいれば、ナマケモノみたいに動くのがすごくゆっくりな動物もいて、それぞれいろんな特性がありますよね。人間も自分がどんな動物なのかを知るというのは大事なことだと思っています。僕は失敗から学ぶことが必要な動物。失敗から常に自己分析をして、自分の性質を客観的に考えるようにしています。
自分を客観視し、失敗から学び続ける
── フライヤーでは「知的筋力」を鍛えるための「ビジネスワークアウト」を日々の習慣として取り入れることを推奨しています。清水さんが日々考える力をアップさせるために行っている「ビジネスワークアウト」があったら教えてください。
もう、頭の筋肉はずっと使っていますね。ずっと考えているので。大事にしているのは、自分を客観視することです。原因はいつでも他の人ではなく、自分の中にあります。多くの場合は失敗から、徹底的に自己分析をします。そこから自分の好き嫌いが見えてくることもありますし、いつも同じ原因で失敗しているということが見えてくることもあります。
失敗を否定だと思ったり、人から褒められたいと思っているうちはうまくいかないと思うんですよ。褒められてもそこに新しい発見はないから、僕は「ダメなところを言ってくれ」「否定してくれ」って相手にお願いすることが多いです。言ってもらわないとわからないことが多いですからね。
── 失敗からの自己分析が習慣化されているんですね。今日はありがとうございました。
清水寅(しみず つよし)
1980年、長崎県生まれ。長崎県内の高校を卒業後、金融系の会社に就職。20代で7社の社長を歴任。その後、親戚からの勧めもあり脱サラ、2011年より山形県天童市にてネギ農家を始める。2014年にねぎびとカンパニー株式会社を設立。同社代表。「 初代葱師」を名乗り、様々な苦難を乗り越え、2015年に糖度19.5度、2017年には21.6度のねぎを作り上げる。現在は、「真の葱」「寅ちゃんねぎ」「キスよりあまい ほうれん草」などブランド野菜を農地10haにて栽培。2019年より、300万本に10本しかとれない奇跡のねぎ「モナリザ」の栽培に挑戦。同年山形県ベストアグリ賞受賞。2020年からは全国のホームセンターにてねぎ苗、玉ねぎ苗の販売も開始。日本の農業に一石を投じたいという夢を持ち、美味しさを徹底追求しながら世界で戦える農業経営を目指している。
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