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2021年01月20日 16:51
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東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授の中西真らの研究グループは、肥満性糖尿病や動脈硬化症などの加齢関連疾患モデルマウスに対し老化細胞を選択的に除去するグルタミナーゼ(GLS)1阻害薬を投与、症状が改善したことをScience(2021; 371: 265-270)に発表した。老化細胞の代謝特異性を標的とした新たな抗加齢療法につながるという。
老化細胞の生存にGLS1が関与
加齢に伴い、体内には不可逆的に増殖を停止した老化細胞が蓄積する。老齢マウスから老化細胞を除去すると、加齢関連疾患の改善や健康寿命の延伸を示すことが知られてるが、組織および臓器により多様性を有する老化細胞を、広範に除去する薬剤の開発や標的の同定はなされていなかった。
研究グループはまず、純化老化細胞の作製法を構築した。がん抑制などに関わるp53遺伝子を細胞周期のG2期に活性化させるもので、効率的に細胞老化が誘導でき、他の誘導系で作製した老化細胞と同様の性質を持つという。この純化老化細胞をスクリーニングした結果、老化細胞の生存に必須となる有力な遺伝子候補としてグルタミン代謝に関わるGLS1を同定した。続いて老化細胞におけるGLS1の発現変化を解析したところ、細胞の種類や老化誘導要因にかかわらず、GLS1のアイソフォームの1つであるKGAの発現が顕著に増加していた。なお、ヒトの皮膚を用いた検討においても、GLS1の発現量と年齢には正の相関があると分かった(図1)。
図.1 老化細胞で高発現するGLS1
上図・左下図:新たな純培養法により、純化した老化細胞を用いて生存に必須な遺伝子をスクリーニングした結果、GLS1を同定。右下図:ヒトの皮膚においても、加齢に伴いGLS1の発現量が増加
また、老化細胞の動態を解析した結果、さまざまな遺伝子の過剰発現により蛋白質凝集体が形成され、ライソゾーム膜が損傷して細胞内pHが低下することも明らかとなった。さらに、老化細胞のGLS1を阻害すると細胞死が誘導されるが、GLS1がグルタミンを代謝する際に産生されるアンモニアの添加により細胞死が抑制された。このことから、老化細胞では細胞内pHの低下に伴いGLS1の発現量が増加してアンモニアを過剰に生成することで、細胞内pHを調節し生存を維持していると示唆された。
がんなどの治療薬開発につながる可能性
そこで、研究グループは老齢マウスにGLS1阻害薬を投与し、加齢現象に対する有効性を検討した。すると、腎臓の糸球体硬化、肺の線維化、肝臓の炎症細胞浸潤などの加齢性変化だけでなく、肥満性糖尿病、動脈硬化、非アルコール性脂肪肝(NASH)の症状が緩和されたという(図2)。
図2. GLS1阻害薬の有効性
左下図:GLS1阻害薬を投与した老齢マウスでは、非投与マウスに比べ加齢に伴って生じる腎臓の糸球体硬化(上)、肺の線維化(中)、肝臓の炎症細胞浸潤(下)が改善された。右図:各種臓器および生理機能、動脈硬化なども改善された
(図1、2とも日本医療開発機構プレスリリースより引用)
研究グループは「既ににGLS1阻害薬はがん治療薬としての研究が進められているが、GLS1阻害薬を用いて老化細胞を除去することで、がんを含めた加齢性疾患の予防や治療法の開発につながる可能性がある」と期待を示している。
(須藤陽子)
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