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「自宅再建に向けてモデルハウスを見に行ったこともあるけど…」 熊本県益城町の中心部・木山地区の木山仮設団地で、尾塚三夫さん(71)がつぶやいた。 【写真】地震直後の益城町=2016年5月 熊本地震で町は震度7の激震に2度見舞われ、震災関連死を含め45人が亡くなった。家屋3千棟余りが全壊。役場庁舎が損壊し、総合体育館の天井が落ちるなど町有施設48カ所が被災した。 道路を広げ、避難場所の公園を増やし、「災害に強い町」に生まれ変わる-。町や県はこうした理念を掲げ、2018年10月、土地区画整理事業が決まった。当初は8割を超える地権者が賛同した。しかし、今、不満がくすぶる。 文具店舗兼住宅が全壊した尾塚さんのところには19年4月、県職員が訪れた。「土地の一部を道路用地として提供してほしい」。元の場所での自宅再建が可能な内容だったため、受け入れるつもりだったが、8カ月後、別の場所への移転を提案された。理由を聞いても「他の住民との兼ね合いもあって…」と濁された。不信感が募った。交渉はストップし、仮住まいは5年目になった。
■ □ 「お宅の庭、道路になるらしいよ」。小嶺ひろ子さん(71)は、近所の人の話に耳を疑った。 障害がある次女(42)は地震後、施設に入居。夫(71)と話し合い、3人で暮らすため、18年夏に自宅を再建した。苦渋の決断だった。
当時、区画整理は正式決定していなかったが、住民説明会などで計画図の素案は示されており、仮に自宅を再建しても大きな影響はないことを確認していた。ところが、昨年秋、県職員から「事業に伴って、自宅の庭のほとんどが道路になる。家屋には影響ないので補償はしない」と説明された。 道路と家屋の間は1メートル程度になる。「洗濯物も干せない」と訴えたが、「壁を高くすればいいでしょう」といなされたという。小嶺さんは「説明に丁寧さがない」と憤る。話し合いは平行線のままだ。
行政側は計画変更などの際には住民説明会を開き、事業の進み具合を知らせる「区画整理だより」も定期的に発行、全戸配布しているとする。だが、防災力を高める事業の必要性を理解しながらも、交渉の仕方や説明に違和感をぬぐえない被災者がいる。 町は地震後も子育て世代への支援策を維持し、減少を続けてきた人口は昨年3月、増加に転じた。区画整理事業が進めば、住宅や店舗が増え、さらなる活気が生まれると期待する。
一方で、仮設住宅などで仮住まいを余儀なくされている96世帯のうち、尾塚さんら少なくとも6世帯は区画整理事業の用地交渉が進まず、退去のめどが立っていない。 尾塚さんは、復興のつち音を複雑な思いで聞いている。「私らはいつになったら自宅を再建できるのか」 (綾部庸介) ◇ ◇ 熊本地震から5年。被災地の復旧はほぼ終わり、仮設住宅など仮住まいを余儀なくされている被災者は3月末現在で418人とピーク時の1%を切った。では、一人一人の生活や、自治体の実情は-。「復興の音」に耳を澄ます。
益城町の土地区画整理事業
熊本地震では益城町中心部で家屋倒壊が相次ぎ、がれきで道路がふさがれ緊急車両の妨げになった。中心部約28・3ヘクタールで道路や公園、宅地462カ所を一体的に整備する。事業主体は熊本県。対象地権者は318人、総事業費140億円。正式名称は「益城中央被災市街地復興土地区画整理事業」。2028年3月の事業完了を目指す。
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