https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/post-94797.php
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1994年に着工、建設に15年かけ完成した三峡ダムだが、 不正も多く発生した(写真は2002年) GUANG NIU-REUTERS
<世界最大のダムが「決壊する!」と注目を浴びたが、今も決壊しないまま。そこで専門家に話を聞き、堤体の構造や今夏の洪水時に何が行われたかを検証した。三峡ダムは本当に大丈夫なのか。なぜ決壊しないのか>
(本記事は2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集収録の記事の前編です)
中国では今年6月半ばの梅雨入り以来、62日間にわたって大雨と集中豪雨が続き、190以上の河川が氾濫し、四川省から江蘇省まで至る所で洪水が発生した。6300万人以上が被災し、5万棟以上の家屋が倒壊する被害が出た。
ネット上では、長江沿川の町や村が冠水する様子や、世界最大の三峡ダムの放流状況が刻一刻と伝えられ、今しもダムが決壊するのではと不安視する声があふれた。
YouTubeには「三峡ダムの決壊シミュレーション」まで登場し、もし決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流を襲い、武漢、南京が水没し、上海付近の原子力発電所や軍事基地まで甚大な被害を受けるだろうと危機感をあおった。4億人が被災するとの試算もあった。
幸いにも三峡ダムは決壊しなかったが、たまたま決壊を免れただけで、いつかまた危機が訪れるのか。それともダムの構造は強固で、決壊は杞憂にすぎないのか。豪雨の季節が過ぎた9月上旬になっても、長江上流域ではまだ洪水が続いていた。
三峡ダムは70万キロワットの発電機32基を備え、総発電量は2250万キロワット。放流量を調節して下流の洪水被害を防ぐ機能も持つ、世界最大の多目的ダムだ。堤体(ダムの本体)の重さで水の力を支える構造の重力式コンクリートダムで、2009年に長江中流域の湖北省宜昌市に近い三峡地区に建設された。
いま振り返れば、三峡ダムの決壊説に沸いていたのは主として欧米や台湾の中国系メディアと日本メディア(私も記事を書いた)だけで、コメントしているのもごく限られた人物ばかりだった。あるいは科学的考察が不十分だったのではないか。日本や欧米の水利専門家はこの状況をどう捉えていたのだろうか。
そんな疑問に駆られ、改めて信頼できる専門家に話を聞き、中国ダム事情と三峡ダムについて検証した。
京都大学防災研究所水資源環境研究センターの角哲也教授は、日本の河川、特にダム工学研究の第一人者で、黄河の環境問題を扱った『生命体「黄河」の再生』の編著者の1人として中国の事情にも明るい。
角教授は「決壊説」を一蹴する。その説明に入る前に、やや遠回りになるが黄河の話から始めよう。
ビルと違って半永久的に堅牢
黄河は長江に次ぐ中国第2の河川で、水源の青海省からチベット高原、黄土高原を横切り、西安や洛陽を経て、渤海湾へ注ぐ。
その中流域にあるのが三門峡ダムだ。1960年代に中国が社会主義の兄貴と慕うソ連(当時)の設計で建設されたダムだったが、竣工直後から貯水池(ダム湖)に黄砂がたまり、20年で約40%が埋まった。
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