KDDIは、光通信に用いる機器の構成を変更した新たな回線網の本運用を開始した。従来の回線網と比較して電力使用量を約40%削減できるようになった。さらに設置スペースや伝送容量の拡張に伴うコストの削減も見込めるという。
2021年から試験的に運用を始めており、2023年10月1日に本運用を開始した。これに伴い機器を提供するシスコシステムズと富士通と共同で同年10月31日に発表した。電力やスペースを抑えられるようになった秘訣は「光信号の変換装置の進化」にある。
光電変換機器をコンパクトに
ネットワーク事業者の回線網は大きく3つに分けられる。利用者の拠点と収容局を結ぶ「アクセスネットワーク」、都市内で収容局間などを結ぶ「メトロネットワーク」、メトロネットワークを集約し都市間を結ぶ「バックボーンネットワーク」である。
メトロネットワークやバックボーンネットワークでは、WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)と呼ぶ光通信技術を使う。波長をずらすことにより、1本の光ファイバーで複数の光信号を伝送する技術だ。
これまでは2つの機器を使う必要があった。電気信号を光信号に変換する「WDM用トランスポンダー」と、波長の異なる光信号を1本の光ファイバーで送れるよう変換する「WDM装置」である。これらをルーターのメトロネットワーク側に接続する。WDM装置は仕様上、同じメーカーのWDM用トランスポンダーにしか対応していない。
新構成のメトロネットワークでは、WDM用トランスポンダーを小型化し「光モジュール」として、ルーターに内蔵できるようにした。こうした構成は「IP(Internet Protocol)と光伝送レイヤーの融合」と呼ばれ、近年注目されている。KDDIによると「通信事業者がメトロネットワークに採用したのは国内初公表」だという。
またWDM装置をオープン化したOLS(Open Line System)に置き換えた。採用したのは富士通の「1FINITY」である。これによりWDM装置と異なるメーカーのWDM用トランスポンダーを使えるようになった。
消費電力とスペースを削減し、将来の拡張も見込む
新メトロネットワークは従来型と比べて、消費電力とスペースを削減できる。また将来の回線容量の拡張などが容易になった。
まず電力の面では外付けのWDM用トランスポンダーにつなぐ個別の電源が不要になり、電力使用量が40%減った。WDM用トランスポンダーを小型化するために、進んだ半導体製造プロセスを採用したことも電力使用量の削減に寄与している。とはいえメトロネットワークにおける電力使用量40%削減は「通信キャリアとしての設備全体から見ればわずかな数字で、収益に大きな影響を与えるものではない」(KDDIのネットワークシステム設計部)。わずかといえど「サステナビリティーを推進しており、こうした取り組みを続けることが重要」(同部)という。
外付けのWDM用トランスポンダーがなくなることで、物理的なラックに占める機器のスペースも減った。近年高速通信の需要の高まりなどにより、特に都市部のデータセンターのラックはスペースが枯渇してきている。KDDIも「局舎(通信設備を収容する施設)によってはスペースが枯渇してきている。特に都市部において顕著だ」(KDDIのネットワークシステム設計部)。
WDM装置をオープン化したOLSに置き換えることで、将来的な変更に対処しやすくなった。例えば伝送容量などを拡張したい場合、以前はWDM用トランスポンダーだけでなくWDM装置のソフトウエアを更新するなどの手間がかかった。新しい構成ではWDM用トランスポンダーへのハードウエア追加と設定変更だけで済み、OLSの設定変更は必要ない。拡張に伴う検証などのコストを「人月単位で減らせる」(KDDIのネットワークシステム設計部)という。
2023年時点では新しい構成を採用しているのはメトロネットワークのみ。同じWDMを使うバックボーンネットワークには使っていない。従来型の外付けのWDM用トランスポンダーを使っている。バックボーンネットワークにはメトロネットワーク以上の広帯域の通信が必要となるが、そうした通信に対応した機器では外付けのWDM用トランスポンダーしか用意されていないからだ。
だが「外付けで確立した技術がモジュール型へ還元されるサイクルが早まっている」(KDDIのネットワークシステム設計部)という。そう遠くない時期にバックボーンネットワークにも新しい構成が取り入れられ、キャリアの回線網全体の電力使用量削減が期待される。
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