https://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/1562894.html
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2024年1月24日 08:00
未知との遭遇!?~ネバダの砂漠に落ちてきた謎の巨大球体状構造物「The Sphere」は凄かった
筆者は、今年も1月初頭、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで行なわれた世界最大級のエレクトロニクス関連展示会「CES」を取材してきたわけだが、本稿のレポートはあまりCESとは関係ない内容である。
ただ、日本全国1,000万人の大画面☆ファンの諸君にはどうしてもその感動を伝えたかったので、CESレポートよりも早くこちらをお届けすることにした。ご容赦いただきたい。
マイクロLEDディスプレイとは?
筆者のような大画面☆マニアが、今、もっぱら注目しているのは、次世代ディスプレイと言われるマイクロLEDディスプレイだ。
マイクロLEDディスプレイとは、全ての画素が通常のLED(ただし大きさは「μm」級の微細サイズのLED)でできているディスプレイパネルのことで、有機ELパネルのような「焼き付きやすさ」や「液晶パネルの半分と言われる寿命の短さ」を心配することのない美点が強く訴求されている。
また現在、有機ELテレビで主流の、白色画素のみの有機ELパネルにカラーフィルターを組み合わせたLGディスプレイ式有機ELパネルと比べ、マイクロLEDディスプレイはRGBの各サブピクセルがRGB各純色で自発光するため、色再現性に関しても優位性があるとされる(この特性を量子ドット技術で解消しようとするアイディアも挙がってはいる)。
しかし、このマイクロLEDディスプレイの民生向けの見通しは、短期的には立っておらず、いずれそのあたりの話題もお届けしようとは思うが、現状、このマイクロLEDディスプレイは、当面は、業務用で活用されていくと見られている。
業務用での活用が始まりつつある……とはいっても、いまだ一般人が気軽に楽しめる劇場のスクリーンがマイクロLEDディスプレイに置き換わったという話はなく、なんだかんだ言って、マイクロLEDディスプレイは、身近な存在にはなっていない。
なお、どうしてもマイクロLEDディスプレイを見てみたいという人は、この分野で最も成功を収めているソニーのマイクロLEDディスプレイ「Crystal LED」の採用事例をチェックして見よう。
登場順序としては逆になるが、イベントホールなとでの催し物やサイネージ用途に活用が進んでいたものに、“マイクロ”ではない、普通のLEDディスプレイパネルがある。
本当に普通のLEDを使ったディスプレイパネルのため、ドットピッチは“cm”オーダー。“μm”オーダーのドットピッチのマイクロLEDディスプレイとは動作原理は同じでもサイズ感が違う。
しかも、こうしたLEDディスプレイは、情報ディスプレイとして活用されることが多く、高精細かつ高品位な映像表示が行なわれる機会はそう多くはなかった。技術的には可能でも、そもそもそんな「金の掛かりそうなこと」をだれもやろうとしなかった、と言うのが本当のところだろう。
Madison Square Garden(MSG)社とLas Vegas Sands社(ただし、後に撤退)が2018年に「The Sphere」(以下、スフィア)プロジェクトを発表するまでは……。
今ラスベガスで一番ホットな「The Sphere」とは?
スフィアの総建築費用は23億ドル(1月23日のレートで、約3400億円)。建設は2018年から始まっており、完成までには5年の月日が費やされた。サイズは高さ112m、全長157m。構造物としては半球状となっており、その延べ床面積は81,300m2に達する。
さいたまスーパーアリーナが全長126m・高さ42m、横浜アリーナが全長114m・高さ30mなので、建物の水平方向の広さはそのくらいのイメージだが、高さ方向はその3倍を上回る。
施設名の「The Sphere」は、“球体(Sphere)”から来ているわけだが、半球状の施設であればHemisphereと呼ばれるべきという指摘もあるかもしれない。
しかし、この建造物があえてSphereと名付けられたのは、実際に半球を“やや超えた”球体状構造物として建造されているためだ。
概観写真を見てもなんとなく分かるかもしれないが、このスフィアは「球体が空から地面に落ちてきて潜っている」というイメージで建造されているため、スフィアの直上を北極とするならば、赤道よりも下の南半球部分もごく僅かに構造体として作られているのだ。ただ、本稿では、この点を踏まえた上で、説明の都合上、以降も「半球状」という表現を使わせていただく。
で、このスフィア。座席数は18,000席以上あり、最大収容人数は20,000人。この収容人数規模も前出の大規模コンサートホールと同等。なお、来場者をフル収容するのはコンサートなどの大規模イベント時で、平常時の映像上映興行においては、その中央約1万席くらいが利用される。
このスフィア、建造物としての凄みも際立っているが、最大の魅力は、その内外を膨大な数の自発光素子のLEDで覆ってしまったことだ。
スフィアの外壁面積は54,000m2で、ここには120万個のLED画素が組み付けられており、昼夜問わず、半球状の動くリアルタイムグラフィックスベースの広告などが流れている。超高精細な半球グラフィックスがグニグニ動く様を見ていると、巨大な生物が本当にラスベガスに着地したらこんな感じに見えるんだろうな、という妄想に取り憑かれる。
この外壁映像表示の解像度である120万画素というと、ざっくりとしたイメージとしては1,024×1,024ピクセル程度に相当する。地上から見ている場合は、その表示面の半分しか見えていないわけなので約60万画素(ざっくり770×770ピクセル程度)の映像となるわけだが、遠方から見るとかなり高密度な表示に見える。
スフィアの外壁画面における各画素のドットピッチは、総画素数と表示面積が分かっていればおおよそ計算ができる。荒っぽいが「1÷(総画素数÷総面積)」の平方根で求めると約21cmほどとなる。これは、実際に、外壁に近づいて見たスケール感とほぼ一致する。
一方、メイン画面となるスフィアの内壁の方は、驚きの16,384×16,384ピクセル(つまり16K×16K解像度)となっている。総LED画素数は驚異の約2億6,800万個である。
なお、スフィア内部は、多くの座席スペース、移動用フロア、その他の施設領域、空洞領域もあるため、この映像表示用LEDディスプレイの総面積は外壁面積よりも小さい約15,000m2と発表されている。上と同様に荒っぽいドットピッチを求めてみると約7.5mmとなる。
また、このLEDディスプレイ上には約167,000基(!)のスピーカーも組み込まれており、映像演出にシンクロした音響も楽しめるようになっているとのことだ。
全天全周自発光画素16K映像体験とはどのようなものか
スフィアの体験に際しては、3D眼鏡もVR-HMDも不要。そのまま裸眼で楽しむことになる。
LEDディスプレイパネル自体は数十メートルから100m近く遠方に表示されるわけだが(座席によって違いあり)、映像表示は正面の視界ほぼ全域に行なわれるので、観光地で展望台を楽しんでいるのと変わらない。普段、実生活で視力矯正を行なっている人は普段通りに愛用の眼鏡などを利用して見ればいい。
実際に見てみると、表示面は遠方にあるが、解像感は必要十分。前段で計算したように、そのドットピッチは約1cmと推察できるわけだが、100m近く先の画素がその密度で2億6,800万個も列んでいれば、もはや、見た目としてはリビングで4Kテレビを見ているのとほとんど変わらない解像感の映像として見える。
そして、その高解像度の映像が、全天全周(といっても背後は座席群なので表示なしだが)に広がる様子は圧巻。最初は「わぁ」という声しか出てこない。
これまでにも、テーマパークなどの屋内アトラクションで、プロジェクタによるドーム映像投影を組み合わせたものは数多く存在したが、それらのほとんどが、黒表現は薄灰色となり、明るい表現にも強い煌めきは感じられなかった。
しかし、スフィアの映像は、各画素が自発光LEDで表現されているため、強烈に明るく、コントラストが猛烈に高いことにも感心させられる。
それこそ、逆光の太陽などの表現は目を閉じたくなるほど明るい。一方で、自発光画素の強みもあり、場内照明が落とされた上映時の黒表現は吸い込まれるほどの漆黒だ。周囲に明るい輝点があっても、その明部に周囲の黒が脅かされない。
筆者がさらに「おお」というため息までを漏らしてしまったのは、ギリシャ・ヒオス島のキリスト復活祭に行なわれるロケット花火打ち合い祭のシーン。
縦横無尽に飛び交うロケット花火の輝きと、その背後の夜空のあまりにもの深い漆黒さに、スフィア施設の内壁面の存在を忘れ、その漆黒の空が遙か向こうに存在し、飛び交う花火達が自分の近くに存在する、遠近感を感じてしまったのだ。
さらに、カメラがパンする映像や、前や後ろに進む空撮映像は、視界全域でカク付きなく、全く残像も起こさず動くので、「映像を見ている」というよりは「自分が動いている」という“ベクション効果”に陥ることが多いのもスフィア体験の特徴の1つだ。
ベクション効果とは、停車している電車に乗っているとき、横に停車している電車が前に進んだ様子が視界に入ると、自分の乗っている電車が後ろに進んだような感覚に陥る「あの感覚」のこと。認知科学、心理学などでは「視覚誘導性自己運動感覚」という難しい和訳語が当てられている。
このベクション効果と同時に、映像内の各動体達、各々の遠近に応じた速度の差異が、見る者の脳に苛烈な運動視差を訴えてくるのもスフィア体験の面白さとなっている。そう、見る者は知らず知らずのうちにいつのまにか「立体感」を知覚していることに気がつくのだ。
なお、スフィアの表示映像自体は3D映像ではなく、普通の2D映像である。フレームレートも筆者主観で基本60fps程度だったと思う。にもかかわらず、スフィアの画面から解き放たれる、この没入感、臨場感、実在感は、その表示スペックを超えていると思えた。
平常の映像興行に用いられる中央側1万席については、場面展開や音響遷移に合わせた、振動や送風と言った特殊効果装置が組み付けられており、こうした4DX的な演出は映画コンテンツでは違和感しか感じない筆者も、スフィア体験では違和感を感じず。
山岳地帯の空撮映像シーン(送風演出)や象の接近シーン(振動演出)では、それこそ、その場面が終わってから「あ、今のは?」…と、その特殊効果演出にだいぶ遅れて気が付くことがあったほど。
機会があれば是非。画素欠けもない出来たてほやほやの今こそ、体験すべきだと思う。
西川善司がお届けする「スフィアの歩き方 2024」
最後に、観光ガイド的なTIPSを記しておこう。
チケットは公式サイト公式サイトから飛べる、tickermasterの専用ページから購入するのが楽チンだ。
公式サイトでは「最高の体験が楽しめるのは中央二階席[306]セクションである」と述べられているが、249ドルとお高い。
コストパフォーマンスが優れているのが、この[306]に隣接するセクション。価格は169ドル。具体的にはお勧めな順で[206]、続いて[305][307]、最後に[205][207]。各セクションの、最も中央寄りが空いているならば、そこがオススメだ。
この他、89ドルや119ドルといった安価な座席もある。物価が高いラスベガスでは、日本人感覚からするとこれでもお高いとは思うが。安価席については、平日の午前回など、曜日や時間帯によっては10~20ドル引きとなっている。
ラスベガスでは、過去に銃乱射事件などがあったことから、警備が厳しく、筆者が体験した際には入場に際して約40分ほどの時間が掛かった。
運営側もそのあたりを踏まえて上映時間を設定しており、たとえば、チケットに記載された開始時刻が7:00PMだとすると、実際の上映時間は8:00PMからになる。
早く入場した人は、上映時間までの間、ロビーエリアでお土産や飲食物の買い物を楽しむか、AIロボットとの会話を楽しめたりする、スフィア場内の常設展示物を見て楽しむことができる。なお、上映終了後はお土産を買う時間はなく、次の入場処理のために、警備員達から追い立てられるように外に出されるので注意(笑)。
場内撮影は基本的に可能だが、持ち込めるカバンのサイズを厳しく制限している。基本的にリュック(バックパック)はサイズにかかわらず持ち込みは不可。ハンドバッグやポシェット、たすき掛けの小さめのバッグなどはOKとされている。ルール上はカバンの大きさは15cm×15cm×5cmのサイズまで…とされているが、実際には入場時の警備員の目分量で判断される。
このカバンルールに収まる範囲であればカメラやスマートフォンの持ち込みは行なえる。三脚などの持ち込みは不可。なお、音楽ライブ公演などは別ルールが適用されるが、平常時の映像興行における動画撮影はお咎めなし。まあ、スフィア内の体験をそのまま記録するのは無理だという自信、そして観光地ということもあってか、撮影ポリシーについてはかなり緩くなっているようだ。
2024年1月時点で上映されている映像コンテンツは、アメリカの映画監督、ダーレン・アロノフスキー氏の作品「Postcard From Earth」になる。なお、同氏の劇場公開映画作品としては「ノア 約束の舟」(2014年)、「マザー!」(2017年)、「ザ・ホエール」(2023年)などがある。
本作「Postcard From Earth」は、ナラティブな物語展開はなく、ナショナルジオグラフィック的な自然・科学・文化をテーマとした記録映像集的な内容となっているので、ナレーション音声は全て英語ではあったが、特に英語理解力は必要ない。
オープニングとエンディング、そして劇中のナレーションについては、太陽系を脱出して宇宙移民を果たした人物が語っている…というようなSF演出が盛り込まれていることから、本編映像は「かつての地球上の様子を振り返る」という世界観でまとめ上げているのだと思う。映像内容はごく普通の記録映像なのに、ナレーションや音楽演出が、その内容に不釣り合いなほど荘厳でSFチックなのはそのためだろう。
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