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Rapidus(ラピダス、東京・千代田)が「どこよりも速い」とうたう半導体製造の戦略について詳細を明かし始めた。ウエハーを1枚ずつ処理する全枚葉式を戦略の軸とし、サイクルタイムを「従来と比べて4~6割短く」(同社)したい考えだ。測定できるウエハーデータも増えるため、短期間での歩留まり向上につながるという。製造装置メーカーとの連携がいっそう重要になる。
ラピダスが主な顧客層として見据えるのは、AI(人工知能)半導体メーカーだ。ASIC(特定用途向けIC)メーカー注1) や、米NVIDIAのようなGPUメーカーに秋波を送る(図1 )。「(AIの処理に向けて)消費電力が低いASICがこれからどんどん造られていく。これらの製品をタイムリーに市場に提供するニーズは高い。半導体にもタイムパフォーマンスが非常に重要だ」。ラピダスの専務執行役員である石丸一成氏は2023年12月14日、半導体製造に関する展示会「SEMICON Japan 2023」のセミナーの壇上でこう語った。
注1)ラピダスは米国時間2023年11月16日、RISC-VプロセッサーおよびAI処理専用チップの開発を手掛けるカナダTenstorrent(テンストレント)とIPコア開発に関して協業(パートナーシップ)で合意している。
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図1 ラピダスはAI半導体メーカーを中心に秋波を送る
2023年11月13日(米国時間)のラピダスや米半導体トップ企業による意見交換会の様子。同会は経済産業省が日米連携を目的に開催したものだが、米国企業側はラピダスの潜在顧客でもある。ラピダスとの協業に合意したTenstorrentに加え、米NVIDIAや米AMD(Advanced Micro Devices)、米Western Digital、米Supermicro、米Appleの経営トップが参加した(出所:経済産業省)
全枚葉式で待ち時間短縮へ 半導体製造装置の方式には大きく分けて2つある。ウエハーを1枚ずつ処理する枚葉式と、大量のウエハーを一度に処理するバッチ式だ。これまでの半導体製造では、枚葉式とバッチ式の装置を工程ごとに分けて採用する場合が多かった。例えば、リソグラフィーやエッチングは枚葉式、酸化や減圧CVD(薄膜形成)はバッチ式で実施するというような流れである。
ただ、こうした混合方式には課題がある。各方式の切り替えのための待機時間だ。バッチ式は複数ロットのウエハーがそろってから処理する仕組みのため、枚葉式と組み合わせると長い待ち時間が発生する。ラピダス デザインソリューション部シニアディレクターの南博剛氏は、2024年1月16日に「RISC-V Day Tokyo 2024 Winter」に登壇し、「リードタイムを短縮するためには、枚葉式に統一することが望ましい」と結論付けた(図2 )。
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図2 「RISC-V Day Tokyo 2024 Winter」に登壇したラピダス デザインソリューション部シニアディレクターの南博剛氏
(写真:日経クロステック)
そこでラピダスは、全ての装置を枚葉式で賄う計画だ注2) 。全枚葉式であれば「待機時間がない。基本的には工場内にウエハーストッカー(保管装置)がない作りを目指している」(南氏)という。
注2)同社 社長である小池淳義氏は、2000年代に社長を務めた半導体製造企業トレセンティテクノロジーズ(日立製作所と台湾UMCの合弁会社)で枚葉式製造を試みていたが、日立の方針転換などによって会社自体が失敗に終わった過去がある。今回はAI時代に向けた2度目の挑戦だ。
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AI半導体は「全枚葉式が向いている」 もちろんバッチ式を使うメリットもある。単一の品種を大量に造る場合には、バッチ式の方が効率が良いのだ。台湾積体電路製造(TSMC)や韓国Samsung Electronics(サムスン電子)などにとってはバッチ式に利点があるが、これからのAI半導体のニーズを見据え、少量多品種を狙うラピダスは全枚葉式で対抗したい考えだ。
従来の混合方式で1ロット25枚製造する場合と比べると、全枚葉式ではサイクルタイムを4割短縮できるという。さらに1ロット13枚の場合では「6割短くできる。それだけでなく、サイクルタイムのばらつきを従来に比べて3割削減できることが分かっている」と石丸氏は話す(図3 )。
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図3 「SEMICON Japan 2023」に登壇したラピダス 専務執行役員の石丸一成氏
同氏は元キオクシアで、メモリ技術研究所長を務めていた。なお、キオクシアはラピダスに出資する企業の1つ(写真:日経クロステック)
バッチ式は一度製造条件が決まれば大量生産に進めるが、ラピダスはこの生産立ち上げまでのリードタイムについて同方式に問題があるとする。具体的には、(1)処理時間が長い、(2)ウエハーのデータを取りにくい――という2点だ。
(1)バッチ方式での処理時間については、「例えば一度に100枚くらいの処理ができる機械で(1ロットにつき)50~100時間ぐらいと処理時間が長い」と南氏は述べる。枚葉式であれば1枚のサイクルタイムは短縮が可能だ。つまり、ある条件に対して結果が出るまでの時間が大幅に短縮できる。
(2)ウエハーデータについては、「歩留まり向上のためにガスの温度や時間、湿度、圧力を調整するが、(大量のウエハーから)データポイントを取るのに一番時間がかかる」(南氏)とする。対して枚葉式は「1枚でデータが取れるので、1時間でできる。(バッチ式の場合と同じ枚数で比較すると)多くのデータポイントでより正確な歩留まり向上を目指す」(同氏)と主張する。
石丸氏によれば、これまでは枚葉式であっても1枚1枚のウエハーをデータで管理することが技術的に難しかったという。「大量のデータを装置やプロセス情報を集めて処理するだけの能力が足りなかった。近年の技術であればウエハーを子細に管理し、ビッグデータを解析できる」と石丸氏は自信を示す。
全枚葉式での半導体製造には、半導体製造装置メーカーとの密な連携が欠かせない。加えてラピダスは「先進センサーを使ったシリコンビッグデータの収集」(社長の小池淳義氏)を目指しているため、従来の製造装置では対応できない場合がある。
2023年9月に開催されたラピダスの北海道・千歳工場での起工式には、東京エレクトロンや米Applied Materials、米Lam Researchといった装置メーカーの経営トップが参列しており、連携の可能性を暗に示す。専用の半導体製造装置をどこまで発注できるかも今後の課題になりそうだ。
■変更履歴 記事掲載当初、1ページ目最終段落で「基本的には工場内にウエハーストッカー(保管装置)がない作りをしている」としていましたが、ラピダスからの申し入れにより「基本的には工場内にウエハーストッカー(保管装置)がない作りを目指している」に変更しました。本文は修正済みです。[2024/1/25 17:00]
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