https://news.yahoo.co.jp/articles/de165f6805f97604c85de8d8fc1a1aaef1833bb0
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ACアダプターの悪影響を排除する、強化電源が続々登場 直近の5年間、拙宅のオーディオシステムにおいて、最も手間暇とおカネをかけて取り組んできたのが、ネットワーク再生の品質向上だ。なかでも、初期の頃に一番頭を悩ませたのが、ネットワーク機器の電源である。 当時は汎用のスイッチングハブや光メディアコンバーターを使っていたため、付属ACアダプターの貧相なスイッチング電源が、音質に悪影響を与えていることは明らかだった。これを何とかしようと、低ノイズと噂の窒化ガリウム(GaN)USB充電器や、いわゆる“中華リニア電源”と呼ばれる安価なトランス式電源も試してみたが、それらの効果は正直“お値段なり”といったところで、強化電源選びの難しさを実感することになった。 そんな強化電源の世界にも、最近では10万円以上の高級機が相次いで登場し、新たなトレンドとなっている。これはオーディオグレードのネットワーク機器や、DC入力端子が装備されたオーディオ機器が増えていることに加え、ユーザーの要求レベルも年々上がっていることが要因の1つだろう。 そこで今回は、いま注目の高級モデル3機種と、従来からのベンチマーク的な製品1機種を用意して、最新強化電源の実力を探ってみたい。 RMEのUSB-DAC&プリの電源のグレードアップにトライ! 本テストの栄えある被験者に選ばれたのはRMEの多機能DAC「ADI-2/4 Pro SE」である。9V~15V(8W)の外部電源駆動に対応し、ノンカラーレーションでフラットバランスな出音は、今回のような実験にはうってつけだ。これをDACプリとして使い、スピーカーにはパワード型のGENELEC「8351B」をチョイス。GLMソフトウェアを用いてキャリブレーションを行い、環境に左右されない正確なモニタリングシステムを構築した。 試聴は価格順に行った。メインの試聴曲は、「最新のテストは最新の音源で行う」という筆者のポリシーに則って、桑田佳祐の最新ベストアルバム『いつも何処かで』から「いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)」(44.1kHz/16bit)と、アニメ「推しの子」オープニングテーマのYOASOBI「アイドル」(96kHz/24bit)の2曲を選んだ。 さらに今回は、主に40Hz以下の最低域の変化を確認するために、ジャネット・ジャクソンの『Unbreakable』から「The Great Forever」(44.1kHz/16bit)も追加した。こちらは伝説的スピーカー設計者であり、超低域再生に並々ならぬ情熱を捧げてこられた元ダイアトーンの佐伯多門氏から教えていただいた楽曲である。2015年リリースになるが、ダイナミックレンジもしっかりと確保された優秀録音であり、システム全体の調整用としても読者にオススメしたいアルバムだ。その他にも、クラシック、ジャズ、ロックの定番曲を適宜使用したが、基本的に前出の3曲だけでジャッジに迷うことはなかった。 なお、強化電源を使用する際の注意事項として、電源電圧が入力・出力機器側で揃っていること、それにコネクタの種類が合致していることを確認してほしい。誤った使用方法は機器を破損する可能性がある。各社、使用機器に合わせたケーブルを用意している場合もあるので、手持ちの機器の電圧、コネクタの形状をよく見ておきたい。 AUDIO DESIGN 「DCA-12VHC」 同社のロングセラー「DCA-12V」の大電流仕様であり、2Aまでの出力に対応したモデルだ。メーカーのホームページでは、ADI-2 Proへの使用も推奨されていて、ロック機能が付いたRME製品専用プラグまで用意されている。それ以外の製品と組み合わせる場合にも、購入時にプラグ形状などの相談が可能なようだ。こうした配慮は、初めて強化電源にチャレンジするユーザーには大変心強い。 桑田佳祐はボーカルの音像だけでなく、オケ(演奏)もググッと前に出てきて、全体のトルク感が増すのが分かる。横方向への広がりはそれほど感じられず、トップエンド(超高域)の伸びも控えめだが、高さ方向への展開力はしっかりと備わっている。 YOASOBIは出だしの「バン!」という打音の迫力が付属電源とは別物。ここが腰砕けになるとこの曲の魅力は半減してしまうだろう。ジャネット・ジャクソンでも全体的な傾向は変わらず、サウンドの厚みが一様に増す。ただし、ボトムエンド(超低域)の伸びはもうひとつだ。 総じて、帯域バランスが少しカマボコ型に感じられるのが惜しいが、導入効果は確実に得られるため、前述したように、初めての強化電源には最適な1台と言えるだろう。 EDISCREATION 「LPS JPSM」 特筆すべきは、余計な脚色が一切感じられないことだ。スタジオ機材としての一面も持つADI-2/4 Pro SEにとっては理想的な伴侶と言えるだろう。桑田佳祐はイントロのエレピがクリアに澄み渡り、打ち込みによるスネアの響きは部屋の隅々まで広がっていく。いわゆるレコーディング界隈でよく言われる“位相が良い”とされる音の典型であり、メインボーカルとコーラスの重なり具合まで克明に見透すことができる。 YOASOBIはド頭から地響きのような一撃に圧倒されるが、その後のリスナーの後方まで回り込む位相差を使ったオケのギミックにも正確無比に追従。ikuraのボーカルの鮮度感も抜群だ。ジャネット・ジャクソンは重低音の伸びと制動力が見事で、ここに来て初めて最低域で蠢くグルーヴの全貌が明らかになり、その深淵に引き込まれそうになった。 どの音源を聴いてもGENELEC 8351Bがラージモニター化したようなワイドレンジでダイナミックな鳴りっぷりが印象的だが、じつは、同じような変化を、筆者は同社の「FIBER BOX 2 JPSM」や「SILENT SWITCH OCXO JPSM」を自室に導入した際にも体験している。その時はパワーアンプのグレードが2ランクくらい上がったような錯覚を覚えたのだが、こうした如実なスケールアップ効果は、創業者エディソン・ウォン氏の手によるディスクリート電源回路の賜物なのかもしれない。 OLIOSPEC 「canarino DC power supply 12V」 PCオーディオの先駆け的ショップであり、以前から付属ACアダプター問題を解決するための様々な提案を行っているオリオスペックが、満を持して自社ブランドから送り出した高級モデルだ。設計製造は城下工業で、ダイトロン社製の複合共振型スイッチング式電源に独自のカスタムを施し、超低ノイズでありながら150W(12V/12.5A)の出力を実現している。 先ほどのEDISCREATIONがどちらかというとモニターライクな傾向だったのに対して、こちらは明らかな美音系だ。桑田佳祐のボーカルは繊細で、音像がハードに定位するというよりも、ホログラフィックに浮かぶイメージ。YOASOBIの冒頭のアタックはもう少し迫力が欲しいが、いわゆる海苔波形特有の歪みっぽさはかなり軽減されて、耳当たりが良くなる。ジャネット・ジャクソンはサビの重層的なコーラスが美しく、低域も自然体で適度な奥行き感がある。こうした傾向は、ややもすれば平面的で刺激的になりがちな、アニソンやキャラソンとの相性も良さそうだ。 本機の流麗なサウンドはクラシック愛好家にも喜ばれるだろう。なによりバリバリのスタジオモニターであるGENELEC 8351Bが、DACの電源を変えただけでハイエンドオーディオブランドの雰囲気に早変わりしてしまうのが面白い。こうした独自の世界観を持った強化電源も個人的には大歓迎である。 FERRUM AUDIO 「HYPSOS」 最初に断っておくと、本機は筆者の現用機でもある。そのため、評価にはバイアスがかからないよう慎重に試聴に臨んだのだが、音が出た瞬間にそんなことはどうでも良くなってしまった。その差は歴然。この音に一番驚くのはRMEの開発者ではないだろうか。 桑田佳祐は声の艶めかしさが段違いで、歌に込められた情感や憂いがビシビシと伝わってくるのが凄い。空間表現は幻想的でありながらリアリティも圧巻で、この一見矛盾しそうな要素をこともなげに両立してしまうところに、本機の非凡さを感じる。YOASOBIは音数が大幅アップ。音場は空間オーディオのようにぐるりと天井まで包み込む。ジャネット・ジャクソンはCD音源とは思えない溢れんばかりの情報量と、揺るぎない重低音の馬力と量感で格の違いを見せつけた。 この時点でも文句なしの10点満点なのだが、じつは、ここまでのインプレッションはHYPSOSの出力電圧を12Vに設定した場合の話。これをADI-2/4 Pro SEの最大対応電圧である15Vまで上げたところ、今まで聴いていた音はすべて前座だったのかと言いたくなるような、驚天動地の結果が待っていた。 試聴メモには「全然違う!ストレスフリー!」「重い音が軽々と飛び回る!」「広い広い!高い高い!」と大興奮の走り書きがしてある。もし、ブラインドテストで「これはウン百万円のDACです」と言われても、私は何の疑いもなく信じてしまうだろう。これぞオーディオ的快感の極致である。 ◇ まず、ADI-2/4 Pro SEの付属ACアダプターの品質が思いのほか高かった。「NTCB-XT」という型番のようだが、メーカーのホームページにも「スイッチング・レギュレーターの後に標準的なリニア・レギュレーター、さらに超低ノイズのリニア・レギュレーターを配置」と書かれていて、巷の安価なACアダプターとは一線を画す設計となっているようだ。なお、RME社では現在、ADI-2シリーズ向けの純正強化電源を近日発売予定とのこと。こちらも要注目だろう。 このような条件下であったにも関わらず、約6万円のDCA-12VHCでも強化電源導入の恩恵がしっかりと感じられたのは収穫だった。 DACのポテンシャルを見事に引き出していたLPS JPSMは、10万円超えという価格を考慮してもコストパフォーマンスが抜群だと思うし、canarino DC power supply 12Vにはシステム全体を自分色に染めてしまうほどの支配力があった。 最終的には、HYPSOSが伝家の宝刀「電圧可変」を使ってライバルたちを圧倒したわけだが、過去の取材でも、Ferrum Audio「ERCO」やMYTEK Digital「Brooklyn DAC」と組み合わせた際に、驚愕の音質向上を目の当たりにした経験があったので、やはり現時点では図抜けた存在であると言わざるを得ない。リニア電源とスイッチング電源のハイブリッド式なのでそれほど発熱しないのもいい。じつにインテリジェンスな強化電源である。 ちなみに、拙宅ではHYPSOSをルーターとONUに給電するため“だけ”に導入している。贅沢な使い方と思えるかもしれないが、音質だけではなく、配信映像の画質にも絶大な威力を発揮していることを最後に申し添えておきたい。
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