https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01158/122600058/
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量子コンピューター向けソフトウエアを開発するQuemix(キューミックス)。材料シミュレーションの世界でメジャーをとるソフトウエアの開発を目指す。研究者でもある「盟友」が編み出したアルゴリズムが切り札だ。
「材料シミュレーションの分野では、主要なソフトウエアは全て外国製で占められている。これからの量子コンピューターの世界でメジャーをとれるプロダクトを生み出したい」。Quemix(キューミックス)のCEO(最高経営責任者)を務める松下雄一郎はそう力を込める。
Quemixは材料シミュレーションと量子コンピューターの技術に強みを持つスタートアップで、量子化学計算の研究者ら博士号取得者が多数参画している。既存のコンピューターを活用した材料シミュレーションソフトQuloudをクラウドで提供する傍ら、量子コンピューターで稼働するシミュレーションソフトの開発を進めている。
実は、Quemixはクラウドのシステムインテグレーションを手掛けるテラスカイの傘下にある。同社は事業領域を拡大する手法として、起業家としての能力がある人材を外部から招き、子会社の経営を任せる取り組みを進めている。Quemixもその一環として設立している。
設立当初はテラスカイのCTO(最高技術責任者)だった竹澤聡志が暫定的にCEOに就いていた。その頃に起業を考えていた松下が量子研究者の交流会で竹澤と出会ったことが縁で、2020年にQuemixに参画することになった。そして入社からわずか3カ月でCEOに就任する。「うれしいと思う半面、何かワナにかかったのではないかと疑った」。当時を振り返り、笑いながらそう話す。
研究で感じた「絶望」から量子へ
学生時代には従来型コンピューターを活用した材料シミュレーションの研究に打ち込み、博士号を取得している。その後、ドイツの研究機関や母校の東京大学で研究者としてのキャリアを重ねた。
そんな松下に転機が訪れる。文部科学省から「萌芽的研究」として補助金を獲得し、当時開発が進められていたスーパーコンピューターの富岳を活用する材料シミュレーションの研究に取り組むことになったのだ。「世界でも自分たちでしかできないシミュレーションを富岳でやるんだ」と意気込んだという。
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希望に燃えての研究のスタートだったが、結果は「絶望だった」。目標とした世界最高速の材料シミュレーションを実現するには、富岳でも計算リソースが足りないことが分かったからだ。ある会議で研究発表した際、企業関係者から聞こえてきた「面白いけど、実用にはならないな」との言葉も心をえぐった。
そんな行き詰まった状況で研究も終わりに近づいた頃、量子コンピューターのニュースに触れた。「これをやるべきだ」。その直感が量子コンピューターの研究をスタートさせるきっかけとなった。だが、研究資金はまもなく底をつく。打開策として起業を模索していたとき、出会ったのがQuemixだったわけだ。
2028年に実用的なサービスを
Quemixの核となる技術は、萌芽的研究からの盟友で共にQuemixに参画した小杉太一が編み出した。「確率的虚時間発展法(PITE)」と呼ぶアルゴリズムだ。複数の候補化合物の中から最適構造を見いだす計算などができる。既存の量子化学計算や他の量子アルゴリズムと比較しても優位性があるとする。
ターゲットとするのは、量子ビットの数が少なく量子ビットの誤り訂正ができない現行の量子コンピューター(NISQ)ではない。2030年ごろの実用化が予想される、誤り訂正技術を実装した量子コンピューターだ。ただしPITEはそれ以前に商用化できる可能性もある。現行のNISQでもエラー率が十分低減すれば利用できると見込めるからだ。
PITEのクラウドサービスは2028年に提供を開始したいという。PITEは材料シミュレーション以外にも使えるため、ビジネスでの応用の範囲は広いとみる。もちろん「企業が利用しやすい実用的なサービスにする」意向だ。勝負の5年間はもう始まっている。(敬称略)
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