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2024年2月1日木曜日

「EV談義、きれい事やめよう」レアメタル研究第一人者 Polar Shift 覆る常識 岡部徹氏インタビュー Polar Shift 2024年2月1日 5:00 [会員限定記事]

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC308CU0Q3A131C2000000/ 

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中空麻奈さん他3名の投稿中空麻奈福井健策小玉祥司

電気自動車(EV)に使う希少金属(レアメタル)の需要が拡大している。二酸化炭素(CO2)を排出しないEVの普及は脱炭素社会で歓迎されるが、レアメタルの採掘や精錬には有害物質の排出が伴う。レアメタルに詳しい東京大の岡部徹教授(東京大生産技術研究所所長)は「EVがもたらす環境破壊への議論が少ない」と指摘する。

おかべ・とおる 1993年(平成5年)に京都大大学院工学研究科博士課程を修了し、2001年に東京大生産技術研究所助教授。09年に同研究所教授となり、19年から21年まで東大副学長を兼任した。21年から現職。02年から「レアメタル研究会」も主宰する日本におけるレアメタル研究の第一人者。

――EVに使われるレアメタルの需要が急増しています。

「走行中にCO2を出さないEVが普及するのは好ましいことで、技術の進歩はめざましい。ただ、EVの電池やモーターには多量のレアメタルが使われている。天然鉱物を地底から掘り出し、有用な金属だけを取り出す過程では、大量の有害物質が排出されている。日本が輸入するのは有害物質を取り除いた『きれいなもの』だけだが、その上流に環境リスクが存在することを認識すべきだ 」

「多くの自動車メーカーがエネルギーの消費量やCO2排出量に関心を持つようになったが、資源の採掘や精錬の工程で発生する害悪についての議論は少ない。車を1台造るのに、その何百倍ものごみが出ている。環境に優しいはずのEVが環境問題を起こしているという現実をわかっていても、企業は発言しにくいのだろう」

――環境負荷を抑える方策はあるのか。

「レアメタルであればウランやトリウム、銅ならヒ素や水銀などの有害物が一緒に出てくる。これらをうまく処理する技術は日々発展しているが、精錬プロセスにおける有害な廃液の処理などには相当な手間とエネルギーがかかる。そして、これらはコストとして積み上がる。環境調和型のプロセスを組めればいいが、現実的には、コストと環境対応はトレードオフの関係にある。コストに見合った環境対応のエネルギー技術を確立するのには、今後20~30年では難しいだろう」

――資源国はどのように動いていますか。

「インドネシアのように自国資源を付加価値の高い加工品にして輸出している国もある。ただ、精錬して製品化するには高い技術が必要で、同様の戦略を全ての国が取れるわけではない。資源市場は基本的に経済原理で動いている。消費者や自動車メーカーが環境に優しいという付加価値を求めても、市場はコストの安い方を選択する。今のところ、多くの資源国は環境コストを意識しない成長戦略を選んでいる」

――資源ナショナリズムの高まりも生じています。

「資源によって得た富を為政者が地域の人々に分配するのが本来あるべき姿だが、そういった目標を掲げていても、実際には行われていないケースが多い。 こういった問題は技術の進歩だけでは解決しない。社会システムと政治の変化が求められる」

(聞き手は松本晟)

Polar Shift 特集ページはこちら

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

  • 中空麻奈のアバター
    中空麻奈BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
    今後の展望

    きれいごと、というより、木を見て森を見ず、という方がしっくりくるかもしれない。二酸化炭素を出さない理想的なアウトプットのためのプロセスに二酸化炭素が出る工程はEVだけではない。実質の議論、ネットの議論をどこまでやれるかが重要であることは論を俟たない。レアメタルの確保は経済安全保障の観点でも、今後の競争力を温存する観点でも、重要な課題だが、その産出のために環境負荷がかかる問題は“トータル”で判断するしかない。トータルでの議論が重要であることについての問題を提起し、どう取り組むかのリーダーシップを取ることも専門家や先進国の役割と言えるかもしれない。

  • 福井健策のアバター
    福井健策骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
    分析・考察

    EV推し一辺倒の世界の「不都合な真実」に直球を投じる、良記事ですね。 環境面でのライフサイクルアセスメント(製造から廃棄まで評価)の重要性は、ずっと指摘されています。そもそもEVだって走行には電力を使う訳で、その全体での環境負荷が下がってはじめて意味があるのに、EVの販売シェアが上がるだけで何かしたポーズをとる。まさにグリーンウォッシュです。 環境負荷を抑える方策についての岡部教授の次の回答は、「数十年先に夢の技術が本当に普及するまでは、かしこい自動車利用の抑制、公共交通などへのモーダルシフトしかない」であるはずです。人生の豊かさを維持できる産業構造・社会構造へ、ということではないでしょうか。

     (更新)
  • 小玉祥司のアバター
    小玉祥司日本経済新聞社 編集委員
    ひとこと解説

    レアメタルをはじめ金属を鉱石から取り出す際には、有害物質に加えて大量のゴミが出ます。モーターに使われるレアメタルのジスプロジウムは、EV1台あたり1~4tのゴミが出るそうです。鉱石は世界中に豊富にあるにもかかわらず、レアメタルの生産が中国に偏る理由のひとつはこうした有害物質やゴミの処分が容易で安価に生産できることがあります。 レアメタルだけでなく広く使われる銅でも、EV1台に使う50kgを造るために10t以上のゴミが出ます。資源の確保という観点だけでなく、トータルでの環境負荷の低減という点でもリサイクル技術の開発は重要です。

  • 高橋徹のアバター
    高橋徹日本経済新聞社 編集委員・論説委員
    分析・考察

    EVは走行中にCO2を出さないものの、火力発電に依存している国では必ずしも排出が減らない、という議論はこれまでもなされてきました。車の製造、さらにバッテリーに必要な鉱物資源の採掘までさかのぼって、投入されるエネルギーや排出する有害物質について考察する視点は、極めて重要です。突き詰めていけば、究極の環境対策は、個人の移動の自由を制限し、公共交通機関を使うように仕向ける、ということになるのでしょうが、そうなれば経済や産業への影響は甚大です。極論にくみすることなく、常にバランスを考えながら、全体最適を探っていくしかないのでしょう。

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