https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2403/12/news098.html
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2403/12/news098.html
(1/2 ページ)
米ジョージア工科大学と中国天津大学の研究チームは、グラフェンを用いた機能性半導体の作成に成功したと発表した。SiCの結晶面で成長する単層のグラフェン(エピタキシャルグラフェン)を用いたものだ。
米Georgia Institute of Technology(ジョージア工科大学)の研究チームは2024年1月、中国Tianjin University(天津大学)の研究チームとの協業により、強固な結合で知られる単層のカーボン構造であるグラフェンから、「業界初」(同研究チーム)とする機能性半導体を開発したと発表した。
グラフェンは、同じ厚みの鉄よりも強固で、熱や化学物質にも強い耐性を持つ、優れた導電体である。しかし、グラフェンにこのようなメリットがあるにもるにもかかわらず、研究者たちはこれまで、電気を選択的に伝導/隔離することが可能な機能性グラフェン半導体を実現することができなかった。
研究者たちが既存の半導体の本質的な特徴とグラフェンの特性を比較したところ、グラフェンは必要とされるエネルギーギャップが不足しているために、オン/オフを正確に行えないということが分かった。ジョージア工科大学の研究チームは、特殊な加熱炉を使用し、SiCウエハー上でグラフェンを完成させるまでに10年間を費やしたという。
研究チームがNature誌で発表した論文によると、単結晶SiC上の「半導体エピグラフェン(SEG)」は、バンドギャップが0.6eV、室温での移動度は5000cm2/Vsを超え、その移動度はシリコンと比べて10倍超、他の2次元(2D)半導体と比べると20倍超だという。
研究チームは、「今回われわれが開発したグラフェン半導体は、ナノエレクトロニクスで使用するために必要な全ての機能を備えた、現時点で唯一の2Dプラットフォームである」と述べた。グラフェン半導体は、シリコンに代わる実用可能な半導体の基本要件とされる、標準的なマイクロエレクトロニクスの製造プロセスと互換性を持つ。
“極端な微細化”がもたらした課題
トランジスタの極端な微細化は、半導体製造における重要な課題となっている。例えば、ゲート絶縁膜の薄膜化で絶縁が不十分になり、リーク電流が増加する。さらに、消費電力量の増加、半導体の過熱などにつながる可能性もある。過熱問題が悪化する原因は、構造の微細化に伴いトランジスタ密度が高まるためだ。原子スケールのトランジスタレベルで量子効果が顕在化し、非決定論的なデバイス動作につながる。
さらに、高額かつ複雑な製造プロセスも、生産能力に負担をかけている。製造プロセスが複雑化すればするほど、歩留まりは低下する。このような複雑なプロセスの代表例が、EUV(極端紫外線)リソグラフィだ。このため業界は、半導体製造プロセスの新たな手法を見つけ出すことにより、トランジスタを劇的に小型化することのメリットと、それに伴う技術的課題とのバランスを取ろうと努力しているところだ。
ジョージア工科大学の飛躍的な成果は、エレクトロニクスの新たな手法の到来を告げるものであり、それだけにシリコンと同じく極めて重要な現代エレクトロニクスの礎となるが、速度と小型化の点で限界に直面している。同大学の物理学指導教授であるWalter de Heer氏は、「私はこれまで、過熱を起こしたり機能性を低下させたりすることなく超高電流にも耐え得る、信じられないほどレジリエントな材料であるグラフェンに、大きな期待を寄せてきた」と述べる。同氏は、半導体としての可能性がある炭素系材料に関する初期研究において、2Dグラフェンに焦点を当てた。
SiCウエハー上でグラフェンを製造
de Heer氏とジョージア工科大学の研究チームは当初、独自の構造を利用してSiCウエハー上でグラフェンを製造するための方法を開発した。そして、SiCの結晶面で成長する、単層エピタキシャルグラフェンの作成に成功した。研究チームは、エピタキシャルグラフェンを正しく合成すれば、SiCに化学的に付着し、半導体性の兆候を示し始めることを発見したのだ。
そして、ジョージア工科大学と天津大学の天津国際ナノ粒子・ナノシステムセンター(TICNN:Tianjin International Center for Nanoparticles and Nanosystems)とのパートナーシップ提携により、さらに多くの研究が可能になった。
グラフェンは自然状態では、金属でも半導体でもない半金属である。広帯域材料に電場をかけると、オン/オフを切り替えることができる。実践的なグラフェンエレクトロニクス研究における重大な問題は、どのようにグラフェンのオン/オフを切り替えれば、シリコンのように、そしてわれわれがよく知るトランジスタのように動作させることができるのかという点だ。
しかし、実用的なトランジスタを作るためには、問題となる材料を大幅に加工する必要がある。その半導体の実用性と機能性を確保する上で重要な鍵となるのは、半導体にダメージを与えることなくその電気特性を測定することだ。
問題になっているのは、いわゆるバンドギャップの欠如である。半導体は、上下のエネルギーバンドやバンドギャップと呼ばれる点によって特徴付けられ、励起電子は1つのバンドから別のバンドへと移動することができる。これにより、電流のオン/オフが可能になり、デジタルコンピュータで使われる0と1の2進法が生み出される。
研究チームは、「電子をシステムに放出する原子であるドナー原子を材料に追加することで、グラフェンをドープした。この手法は、物質やその特性に害を及ぼすことなく成功した。研究チームの測定結果から、成果物であるグラフェンの移動度は、シリコンの10倍になることが明らかになった」と述べている。
研究チームは、「われわれは、ナノエレクトロニクスで使用するために必要とされる全ての特性を備えた、これまでで唯一となる2D半導体を開発した。この半導体の電気特性は、現在開発中の他のどの2D半導体よりもはるかに優れている」と強調した。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
0 件のコメント:
コメントを投稿