https://youtu.be/M75cZyWUYU0?si=pprqt-2CMNgNQJS6
マイクロソフトがAIで全固体電池開発に参戦、80時間で18種類の材料を新発見
リチウム(Li)、金属元素M、そしてハロゲンXを組み合わせたLiαMXβといった組成でハライド系とも呼ばれる次世代固体電解質の探索には、パナソニックや中国勢だけでなく日本を含む多くの企業や研究機関の研究者が参戦している。大学などは既に多数。企業では、トヨタ自動車、日本ガイシ、米Microsoft(マイクロソフト)などが含まれる注1)。
MIで探索範囲を広げながら時短
日本ガイシやMicrosoftに共通するのが、機械学習を用いた材料探索、いわゆるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用していることだ。
ハライド系の基本的な組成はLiαMXβで一見単純そうに見えても、本連載の記事で触れたように、元素の一部を別の元素に置換して結晶性の乱れや空隙を意図的に作り出すことでイオン伝導率を高めたり、還元耐性を高めたりするのが最近の潮流になっている。結果、用いる元素は5~6種類にもなる上にその組成比は小数点以下2~3桁と非常に細かくなることがある。さらに、たとえ組成が同じでも結晶構造が異なることもある。こうなると調べるべき材料の数は天文学的数字になり、人間がすべてを実験できる水準をはるかに超えてしまう。ここでMIを用いれば、探索範囲を広げながらも、それまでよりもはるかに短時間で有望な材料を絞り込めるのである。
54元素を基に3260万種類の結晶を仮想
ここから、Microsoftと米Pacific Northwest National Laboratory(パシフィックノースウエスト国立研究所、PNNL)が2024年1月に発表した内容を紹介する。MIに基づく固体電解質の材料探索で新しい材料を共同で発見したというものだ1)。これで18種類の新規固体電解質を正味80時間、実際には約1週間で見つけたとするが、結果的にそれらはすべてハライド系、もしくはハライド系のXの一部を酸素原子(O)で置換したオキシハライド系だった。
MicrosoftとPNNLはまず周期律表を基に、材料探索する対象として54元素を選定した(図1)。選定基準は、(1)ヘリウム(He)などの貴ガスは化学反応性が乏しいため除外、(2)白金(Pt)などの貴金属は高価すぎるため除外、(3)ランタン(La)以外のランタノイド、そして周期律表で最後の段の元素、つまりフランシウム(Fr)の段の元素はLiイオン2次電池(LIB)では使われたことがほとんどないとして除外注2)といった具合だ。結果的に54元素が残ったとする。
次に、固体電解質となり得る既存の材料の結晶構造を基に、価数を考慮しながら54元素の可能な組み合わせを調べたところ、計3259万8079種類の仮想的な結晶が得られたとする(図2)。
結晶構造はまずその概形によって、単斜晶系や三方晶系といった7種類の結晶系に分類される。さらに詳細な分類法はいくつかあるが、Microsoftらは空間群†による分類を用いた。得られた仮想的な結晶の空間群は184種類だったという。
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