スピントロニクス素子の注目材料を使用
東京大学の研究グループは、極めて簡易な手法で、反強磁性ワイル半金属「Mn3Sn」の磁気分極を可視化することに成功した。今回用いた磁気イメージング手法は、さまざまな磁性トポロジカル物質に適用できるという。
さまざまな磁性トポロジカル物質に適用可能な新手法
東京大学の研究グループは2024年5月、極めて簡易な手法で、反強磁性ワイル半金属「Mn3Sn」の磁気分極を可視化することに成功したと発表した。今回用いた磁気イメージング手法は、さまざまな磁性トポロジカル物質に適用できるという。
Mn3Snは反強磁性体でありながら、その磁気的な状態に応じて電流を垂直方向に曲げる特異な性質を持つため、次世代スピントロニクス素子の材料として注目されている。こうした性質を研究していくためには、磁気分極の空間分布を可視化する磁気イメージングが重要となるが、微細加工された試料を測定するのは極めて難しかったという。
研究グループは、微小な針から試料に熱流を注入し、局所的な磁気熱電効果の応答を検出して磁気像を得る方法を2023年に開発し、Mn3Snナノ細線の磁気イメージングを実現してきた。
今回は、この手法を多結晶Mn3Snナノ細線に適用した。磁場印加前の磁気像には、数百ナノメートル程度の大きさで上向きと下向きの磁気分極を示す領域がランダムに現れた。次に、外部磁場を上向きに印加した後、外部磁場を取り去って同じ領域の磁気像を観察すると、磁場印加後は全体的に上向きの領域が増え、下向きの領域は完全に消えることが分かった。
今回の実験により、「外部磁場を取り去った後でも、Mn3Snの磁気分極がナノ細線の幅方向(短手方向)に残留する」ことと、「磁気熱電信号を生成しない結晶粒が存在する」ことが分かった。前者は「形状磁気異方性がないこと」を、後者は「多結晶試料でこの領域の磁気分極が紙面垂直方向を向いている」ことを、それぞれ示すものだという。
今回の研究成果は、東京大学物性研究所の一色弘成助教、ニコ ブダイ大学院生、小林鮎子大学院生(当時)、上杉良太大学院生(当時)、大谷義近教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー兼任)および、東京大学大学院理学系研究科の肥後友也特任准教授、中辻知教授らによるものである。
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