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2024年7月28日日曜日

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

https://www.chem-station.com/blog/2024/07/antimichael.html







第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太 さんにお願いしました。

今回ご紹介するのは、anti-Michael型付加反応に関する研究です。α,β-不飽和カルボニル化合物に対し求核剤を反応させると、通常1,2-付加もしくは1,4-付加反応Michael付加反応が進行することが知られています。一方、α位への求核付加反応は特殊な例を除き難しいとされてきました。今回、α,β-不飽和カルボニル化合物への配向基の導入とPd触媒により、アクリルアミド類に対するanti-Michael型付加反応を報告されました。本成果はJ. Am. Chem. Soc. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

Palladium-Catalyzed anti-Michael-Type (Hetero)arylation of Acrylamides
Suzuki, H.; Moro, R.; Matsuda, J. Am. Chem. Soc. 2024146, 13697–13702. DOI: 10.1021/jacs.4c00841

研究を指導された鈴木弘嗣 助教から、茂呂さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

今回発表した研究は、ちょうど茂呂君が4年生の研究室配属になった頃に見つけた反応を基に、新たなプロジェクトとして始めたものです。この大事な新プロジェクトのスタートを任せるにあたり、4年生の中でも特に元気の良かった茂呂君に担当してもらうことにしました。その結果、α,β-不飽和カルボニル化合物に対する求核剤のα位への付加反応である“anti-Michael型反応”の達成に大きく貢献してくれました。

今回の研究は、私が途中で福井大学に異動になったため、茂呂君を直接指導できたのは最初の半年間だけで、その後はオンラインでの指導となりました。大変な状況でしたが、茂呂君はそのような環境にもめげず、しっかりと研究を進めてくれました。特に、毎週のディスカッションでその週の実験を確認するたびに、茂呂君の実験量の多さに驚かされました。茂呂君の圧倒的な実験量のおかげで、当初の課題であったβ位に置換基を持つアミド基質の問題も解決し、研究の質を高めることができました。

茂呂君は今後企業に就職しますが、研究に対する高い熱意と強い好奇心で、これからも大いに活躍してくれると信じています。最後になりますが、この研究を進めるにあたりご指導いただいた松田学則先生に、心から感謝申し上げます。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

α,β不飽和カルボニル化合物に対し求核剤を作用させると、通常1,2-付加または1,4-付加(Michael付加)が進行します。これはα,β不飽和カルボニル化合物のカルボニル基とアルケン部位が共役しており、カルボニル炭素とβ位炭素に正電荷が局在化しているためです。このことから、α,β不飽和カルボニル化合物に対する1,2-付加やMichael付加は古くより研究されています。一方で、Michael付加とは逆の選択性にあたるα位炭素への求核付加反応(anti-Michael付加)は非常に困難であり、β位に強い電子求引基をもつ基質や、分子内反応などの特殊な例を除いては、ほとんど報告例がありませんでした。

今回私たちは、α位選択的な求核付加反応: anti-Michael付加反応を実現すべく、α,β-不飽和カルボニル化合物への配向基の導入による、五員環パラダサイクル形成を介した反応中間体の安定化に着目しました。検討の結果、触媒量のトリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(OCOCF3)2)存在下において、配向基としてアミノキノリル基をもつアクリルアミドに対するインドールのanti-Michael付加が進行し、高収率で単一の付加生成物を与えることを見出しました。



anti-Michael型付加は、医薬品等に多いα-置換カルボニル化合物を一段階かつ原子効率100%で合成できる理想的な反応として今後応用されることが期待されます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究は自分にとっては初めてのテーマだったため、全ての実験に思い入れがありますが、特に思い入れがあるのはアミドの基質適用範囲の部分です。β無置換であるアクリルアミドを基質とした際の最適条件で反応をかけると、β位にPh基を持つシンナムアミドやMe基を持つクロトンアミドでは収率が著しく低下しました。温度や反応時間、試薬の当量なども検討し直したものの、収率はあまり向上しませんでした。そこで過去の文献を参考にしつつ添加剤を検討したところ、安息香酸誘導体を添加剤として用いると収率が向上することがわかりました。そこで、研究室に100種類近くあるほぼ全ての安息香酸誘導体を1つずつ添加してシンナムアミドとクロトンアミドの反応をかけ、最も良い結果を得たものを最適条件としました。クロトンアミドの単離収率が60%を超えたときは諦めないでよかったと心から思いましたし、あのときの高揚感は忘れることができません。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

この研究では、反応機構を推定するところに苦戦しました。反応機構については元々現在推定している機構を想定し研究に着手したのですが、文献調査の過程でC–H結合活性化を介する他の機構の可能性について気がつきました。中間体の単離にも取り組みましたがうまくいかず、最終的には重水素標識実験を行い、現在推定している機構が最も確からしいと結論づけました。revisionの際にもその辺りについては査読者の方々から多くの意見をいただき、一度提出してからアクセプトまでに4ヶ月もの期間がかかりました。非常に大変でしたが、その4ヶ月間によってより良い論文になったと感じています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今後もずっと有機化学に関わりつつ、より応用的な研究を企業で行いたいと思っています。来年の4月からは、農薬系の企業で農薬原体の研究開発を行う予定です。将来的には農薬の研究開発によって、世界の食糧不足問題解決の一端を担うことができればと考えています。大学や大学院での研究を活かしつつも、今まで以上に生物や物理、法規的な知識など、有機化学以外のことも吸収したいと思っています。有機化学を楽しむ心を忘れず、良い化学者になりたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。私が研究室に配属された学部4年の頃から行ってきた研究をこのような形で紹介することができ、大変嬉しく感じています。正直、自分の論文ということを抜きにしても純粋にとても面白い研究だと思うので、是非論文のほうも読んでいただけると嬉しいです。

最後に、日々研究をご指導くださっている鈴木 弘嗣先生、松田 学則先生をはじめ、本研究を行うにあたりサポートしてくださった皆様に深く感謝申し上げます。そして、本研究を紹介させていただけるこのような機会を提供してくださったChem-Stationスタッフの皆様に心より感謝いたします。

研究者の略歴

名前:茂呂 諒太 (もろ りょうた
所属:東京理科大学大学院理学研究科化学専攻 松田研究室 修士2年
研究テーマ:パラジウム触媒を用いたanti-Michael型付加反応の開発
略歴:
2016年4月〜2019年3月 成蹊高等学校
2019年4月〜2023年3月 東京理科大学理学部第一部応用化学科
2023年4月〜現在 東京理科大学大学院理学研究科化学専攻 修士課程

関連リンク

  1. 東京理科大学 松田研究室ホームページ
  2. 福井大学 生物有機化学研究室ホームページ(鈴木先生の現在のご所属)
  3. Suzuki, H.; Yamanokuchi, S.; Moro, R.; Matsuda, T. Palladium-Catalyzed anti-Michael-Type Hydroamination of N-(Quinolin-8-yl)acrylamide with 2-Pyridones. Org. Lett. 2024in press. DOI: 10.1021/acs.orglett.4c02234
      
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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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