キンドリルとAWSのリレーションシップの拡大はメインフレーム問題にどう切り込む過去のモダナイズ提案と何が違い、どう新しいか
デジタル戦略のスピード強化を目指してクラウドファーストを志向する企業が増える中、メインフレームが重い課題になっている。クラウドとメインフレーム、両領域の主力プレーヤーが手を組んでこの問題を根本から解決する取り組みが動き出している。
2023年11月、Amazon Web Services(AWS)はプレミアティアサービスパートナーのKyndryl(以下、キンドリル)と複数年にわたる戦略的協業契約を締結。併せて、キンドリルはメインフレームのアプリケーションとデータをAWSテクノロジーとシームレスに統合し、メインフレームのワークロードをAWSに移行するための新機能を発表した。
ミッションクリティカルシステムの構築や運用に強く、クラウドエンジニアの輩出でも近年注目を集めるキンドリルとハイパースケーラーのタッグは顧客にどんなメリットをもたらすのか。キンドリルジャパンでメインフレームモダナイゼーション戦略ディレクターを務める斎藤竜之氏とアマゾン ウェブ サービス ジャパンでAWS Mainframe Modernization Business Development Managerを務める清水大紀氏に話を聞いた。
キンドリルとAWSのリレーションシップの拡大はメインフレーム問題にどう切り込むのか
AWSが発表したAWS Mainframe Modernizationサービスは、メインフレームアプリケーションをモダナイズし、移行、テスト、実行するのに必要な仕組みを提供するツール群だ。アプリケーションの分析やリファクタリング支援、継続的インテグレーションと継続的デリバリー(CI/CD)のための環境のほか、データ連携をするための機能も提供している(注1)。
注1:AWS Mainframe Modernization
キンドリルはこれにプロビジョニング、バックアップ、コンプライアンス、監視などのライフサイクル管理を提供する「Kyndryl Cloud Native Services」(KCNS)といった独自のソリューションと、ハイブリッド環境のITインフラ全体を統合するプラットフォーム「Kyndryl Bridge」を生かし、メインフレームアプリケーションのモダナイズと開発・運用の合理化を進める。
AWS Mainframe ModernizationサービスとキンドリルのMainframe Application Modernization with AWS Cloudを組み合わせることで、基幹システムがメインフレーム上でもクラウド上でも、あるいはオンプレミスのオープン系基盤上であっても、全てを包括的にクラウドネイティブに合理化するのが狙いだ。
「AWSのサービス開発に加えてキンドリルでも技術検証や実績を積み重ねて方法論と必要なツール群をそろえたことで、技術特性や要件に基づいてプラットフォームを使い分け、必要があればメインフレームを残しながら安全にモダナイズと合理化を進める道筋が見えてきました」(斎藤氏)
進まないメインフレームモダナイズの現実解と3つの方法論
メインフレームからの移行先としてAWSを使いたいという要望が世界中からAWSに届いており「2021年ごろからサービスの準備をしてきました」と清水氏は語る。
「AWS Mainframe Modernizationサービスの発表は2021年11月末(注2)ですが、それ以前から専門人材を集めてパートナーと連携して体制を整えてきました。メインフレームをモダナイズしクラウドへの移行を考えているお客さまは、複雑なシステムをモダナイズすることの難しさを理解されています。そこで、お客さまはAWSへの移行実績が多くて実力のあるパートナーの支援を受け、お客さまのニーズに合った移行ソリューションを使って、メインフレームのモダナイゼーションを安全かつ確実に行いたいわけです。キンドリルとAWSが連携する目的は、こうしたお客さまの広範なニーズに対応するところにあります」(清水氏)
注2:AWS、「AWS Mainframe Modernization」を発表
IBMのマネージドインフラサービス部門を源流とするキンドリルは元来ミッションクリティカルシステムに強く、日本では特に金融や社会インフラ関連の企業を中心に多くのメインフレームユーザーをサポートしている。IBMから分社してからは、ベンダー中立の組織としてクラウドファーストを志向する企業の要望に応えるべく、各ハイパースケーラーと連携してグローバルでクラウドエンジニアを育成してきた。
清水氏は、「キンドリルはAWSの技術者を精力的に育成しているパートナーであり、日本で最も進んだ取り組みをしている企業の一つ。AWSのサービスを使ってメインフレームをモダナイズしたいと考えるお客さまにとってキンドリルは力強い味方になります」とキンドリルを評価する。
キンドリルが2023年9月に公開した「メインフレームモダナイゼーション状況調査レポート」によると、90%の回答者が「メインフレームは依然としてビジネスに不可欠」と回答し、95%の回答者がメインフレームのワークロードの一部をクラウドまたは分散プラットフォームに移行していることが分かった。だが、全てのワークロードを移行できているとした回答はわずか1%しかない。
長くメインフレームシステムに携わる斎藤氏はこの問題を「クラサバの時代から抱えてきた課題」と説明する。システムそのものの見直しは随時行われており、折々でROIを考慮した改修を重ねてきたシステムも多い。それ故に実装は複雑化しており、オープン系システムへの移行を前提としたリファクタリングなどに大きな工数がかかる。
AWS Mainframe ModernizationサービスとMainframe Application Modernization with AWS Cloudの組み合わせはこの問題を根本的に解決する可能性がある。
キンドリルはモダナイズのアプローチとして、メインフレーム上でアプリケーションをモダナイズする「Modernize On」、適材適所でクラウドとメインフレームを使って統合する「Integrate With」、完全に移行する「Move Off」を必要に応じて適用する手法を提案している。
AWSも、クラウド移行の方法論として移行計画から実行まで包括的に支援する「AWS Migration Acceleration Program」(MAP)と、戦略的に移行するためのパターン「7つのR」(Relocate、Rehost、Replatform、Repurchase、Refactor、Retire、Retain)、およびAWSとメインフレームを組み合わせて利用するAugmentation Pattern(注3)を用意している。個々の企業のニーズを分析して、期待されるビジネスアウトカムに沿ってMAPと適切なパターンを適用することで、効率良く効果的な移行計画を策定する。
注3:Augmentation patterns to modernize a mainframe on AWS
「キンドリルとAWSはモダナイズの方法論でも多くの部分で合致しています。Move Offは7Rに対応していますし、Integrate WithはAugmentation Patternに合致しています。AWSのソリューションもキンドリルのソリューションとミックスすることでより効果を発揮することができます」(清水氏)
モダナイズとクラウドネイティブ化の重要技術で高スキル人材を抱えるキンドリル
メインフレームエンジニアのクラウド技術習得は、事業転換をきっかけとしたリスキリングを主目的とする場合が多い。キンドリルは若手を含めて両方のスキルでトップクラスのエンジニアの確保を目指しており、これこそが同社の強みになっている。
「メインフレームモダナイズにはメインフレームを含むシステムポートフォリオ全体の目利きができる人材が必要です。高いスキルと業務知識を持つメインフレームエンジニアがクラウドを理解し、アーキテクチャの違いを踏まえて移行先の設計、構築、運用までトータルで考えられる人材を育成することが近道です。メインフレームエンジニアというと年齢が高い方をイメージされるかもしれませんが、キンドリルは若手エンジニアも両方のスキルを身に付けられる体制を整えています」(斎藤氏)
キンドリルの人材育成の在り方は、パートナーのAWSにとっても大きな魅力だ。メインフレームに残る並行処理をどう扱うか、処理負荷のスパイクをクラウドでどう巻き取るか、アプリケーションと基盤のどちらで対応するか、サービスレベルは変えてよいのか……、と判断が必要な場面は多岐にわたる。顧客企業では部署や部門が異なると同じ要件の処理でも別の言葉を使っていることもある。これらを理解していないと大きな間違いにつながりかねない。クラウドのスキルだけでは理解が難しいシステムを管理するシーンも多く、エンジニアの業務理解力が問われる。
「メインフレームのモダナイゼーションでは、的確な会話でメインフレームを持つお客さまの企業文化に溶け込み、さまざまなギャップを埋めながらモダナイズする必要があります。この点でキンドリルの存在はお客さまにとってもわれわれにとっても非常にありがたい」(清水氏)
アプリケーション移行のセキュリティリスク最小化にも手を打つ
AWS Mainframe Modernizationサービスの一つ「AWS Blu Age」(以下、Blu Age)のエンジニア育成はキンドリルジャパンでも重視している。Blu Ageはリファクタリングを総合的に支援するAWSサービスの一つで、AWS Professional Servicesやパートナーと連携して、企業のアプリケーションを変換したJavaコードを提供する。同様のツールは他にもあるが、Blu Ageは20年以上にわたりメインフレームのモダナイゼーションを行ってきた実績があり、開発生産性の高さと変換コードの品質の高さを強みとしている。
特筆すべきはBlu AgeのAutomated Refactoringだ。新たな挑戦を目指す企業にとって、アプリケーションを安全かつ速やかにモダナイズすると同時に、アプリケーションの開発・保守プロセスまでモダナイズしてビジネスの変化に対応できる開発体制を作ることが欠かせない。そこでBlu Ageでは、Javaへ自動変換した後、機能面に加えて性能面も含めて新旧比較テストを行う。このようにして、短期間で品質の高いコードを企業に提供することによって、移行期間を短縮し、移行リスクを下げることができる。
また、COBOLをJavaに変換しただけの「JaBOL」ではないメンテナンス性の高いネイティブJavaを生成し、DevSecOpsの手法を取り入れることによって、モダナイズした後の機能拡張や改修を効率化できる。
こうしたBlu AgeのAutomated Refactoringのアプローチは、技術的な負債を解消し、潤沢なJava開発者が容易かつ迅速にアプリケーション開発に参画できるようにし、将来のビジネス成長の可能性を生み出す上で重要だ。
「Blu Ageに関する最上級の認定を取得したエンジニアはキンドリルジャパンだけで既に4人。そのうち3人はメインフレームエンジニアです。両方をネイティブで理解するエンジニア育成の成果が見えてきました。彼らのナレッジはグローバルでも共有されます」(斎藤氏)
発展的な展望のあるモダナイズの実現こそが重要
キンドリルは生成AIを含む新たな技術の検証にも積極的に取り組む。メインフレームシステムの運用や開発にかかるリソースを軽量化した先に、ビジネス価値を生むために何をするか、そのために今どの手法でモダナイズすべきかについても議論を深めている。
モダナイズ後のIT施策支援に関わる取り組みはモダナイズ後の世界も見据えたものだ。モダナイゼーションはあくまでも通過点に過ぎない。「メインフレームのモダナイゼーションはお客さまのDX実現に向けて重要なステップ」と斎藤氏は語る。
数年前までは、リビルドなどの移行手法をどう選択するかが主な課題だったが、最近は「the right workload on the right platform」――つまりどのワークロードをどこで動かすかを課題と考える企業が増えているという。
「最近は、モダナイズ計画を策定し終えた企業からも『クラウドの利用やAI活用を見据えて現在の計画をレビューしてほしい』という要望が寄せられて始めています。人、ソリューション、技術それぞれにおいて、われわれには多様な選択肢から最新のIT施策に合致する最適解と実現の道筋を具体的に提示し、実行する準備ができています」(斎藤氏)
今までもメインフレームのモダナイズ問題の解決策は数々提案されてきたが、先の資料で見た通りその進捗(しんちょく)は芳しくない。実装と運用の実務を手掛けられるキンドリルとAWSが手を組んだことで、メインフレームモダナイズ問題は一気に解決する可能性が出てきた。リレーションシップの拡大が続く今後数年は事例も続々と出てくることだろう。既に計画を推進中の企業も、グローバルで連携する両社の知見を知ることでより良いモダナイズの形を模索できるのではないだろうか。
提供:キンドリルジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2024年5月27日
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
0 件のコメント:
コメントを投稿