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2024年8月25日日曜日

通信品質対策にHAPS、銀行にdポイント--2024年6月就任のNTTドコモ新社長、前田氏に聞く 佐野正弘2024年07月12日 09時00分

https://japan.cnet.com/article/35221382/?tag=rightAttn

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 6月14日に、NTTドコモの新たな代表取締役社長として就任した前田義晃氏。だがNTTドコモは現状、2023年の大幅な通信品質低下による品質に対する信頼性の低下など、主力の携帯電話事業で厳しい状況にある。そうした難局をいかに乗り越え、今後の成長につなげようとしているのか。前田氏本人に直接話を聞いた。

取材に応じたNTTドコモの前田新社長
取材に応じたNTTドコモの前田新社長

品質改善はスピード感重視で--苦境の端末販売は

 前田氏が就任当初の6月18日に実施した記者会見で、強く訴えていたのが「お客さま起点の事業運営」ということ。だがその顧客起点という意味で現在同社に問われているのが、2023年に話題となったネットワークの品質であろう。既にNTTドコモは通信品質対策を2023年12月までに実施しているが、それでもなお他社と比べてつながりにくいなどの声を耳にすることは多い。

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 そうした声があることは前田氏も認識しており、とりわけ“線”での通信品質として山手線の通信品質の問題を指摘する声が多くあったことから、前田氏は自ら「山手線を1周してどういう状況なのか、各社の電波状況を見ながら回った」とのこと。その上で、改善が必要な場所はいくつかあるとしながらも、品質改善が一定の効果を挙げていることは確認できたと話している。

 そうした経験から前田氏は、「つながりにくい場所が発生した時点でいち早く対策を取らないといけない」と話す。顧客から大きな不満が生じる前に早く対策を施すことこそが、顧客視点に立った通信品質対策になるとの認識のようだ。

 とりわけ今後の通信品質に影響してくるのは5G、より具体的に言えば6GHz以下のいわゆる「サブ6」と呼ばれる、高速大容量通信が可能な周波数帯の活用である。NTTドコモはそのサブ6によるエリアカバー率は最も高いとしているが、一方で前田氏は「しっかりした形で使える環境を作る、密な打ち方はできていない認識があった」と話している。

 そこで同社では、さらなる通信品質向上のため、東名阪の人口集中地域を主体としたサブ6の基地局の集中整備に人材とコストを割いて取り組み始めており、2024年度中に整備をやり切る考えだという。ただ、そこで大きな課題になってくるのがロケーションの問題だ。

 NTTドコモはこれまで、5Gの基地局を設置するビルなどの地権者との交渉に時間がかかり、整備が思うように進められなかったとの話を聞く。前田氏も「ロケーションは課題の1つ」との認識を示し、その影響で現在も品質改善が進まないエリアもあるというが、一方で「地権者との話を早くできた方がいいが、間に合わない時には他の手立てで埋める必要がある」と、カバーできる範囲も狭いがサイズも小さい基地局「マイクロセル」などを活用した、従来とは異なる手法での整備も検討したいとしている。

取材に応える前田氏。地権者との交渉に時間がかかる5Gの整備に関しては、マイクロセルの活用などさまざまな手段の活用も検討していく考えを示した
取材に応える前田氏。地権者との交渉に時間がかかる5Gの整備に関しては、マイクロセルの活用などさまざまな手段の活用も検討していく考えを示した

 また、5Gの高速通信を多くの人に利用してもらうには、5G対応スマートフォンに買い替えてもらうことも必要だ。だが現在、記録的な円安と政府主導の値引き規制でスマートフォンはかつてないほど高騰しており、5G端末への買い替え停滞が懸念されている。

 ただ前田氏によると、いわゆる「1円スマホ」を規制した2023年末の電気通信事業法一部改正でスマートフォン販売は一時減少したが、「2024年の4~6月でいうと、昨年対比で端末販売が増えている」とのこと。市場のニーズや買い替えのタイミングなどを見計らい、クーポンの提供など端末個別の施策も打ち出すなど販売面の工夫によって販売拡大につなげているようだ。

 そのスマートフォンに関してはもう1つ、4社の中で同社だけが製品を取り扱っていない中国メーカーと、今後どう付き合うのかという点も課題になってくるだろう。厳しい市場環境で国内メーカーが減少したことで、NTTドコモの端末ラインアップ減少の懸念が出てきた一方、NTTドコモと取引のあるFCNTが中国レノボ・グループの傘下となるなど、直接・間接的な形で中国メーカーの影響を受けるケースが着実に増えているからだ。

NTTドコモと古くから関係のあるFCNTは国内メーカーであることを大きな特徴としていたが、2023年に経営破綻し現在では中国レノボ・グループの傘下となっている
NTTドコモと古くから関係のあるFCNTは国内メーカーであることを大きな特徴としていたが、2023年に経営破綻し現在では中国レノボ・グループの傘下となっている

 前田氏は現時点で特定の国のメーカーに対して話すことはないと話すが、一方でスマートフォンのラインアップに関しては「フラットに考えたいと思っている」とも回答。顧客のニーズが多様化していることから、ニーズに合わせてラインアップを増やしていくことが必要との認識を示している。

HAPSは強化もWeb3やメタバースへの投資はやや抑制か

 ネットワークの今後を考えた場合、主として30GHz以上の「ミリ波」をどう扱っていくのかも気になる所だ。カバーできるエリアが狭いミリ波はその特性から利活用が全く進まず、スマートフォンの値引き販売に非常に厳しい総務省までもが、ミリ波対応端末には一定の値引きを認めてなんとか普及を図ろうとしている状況にある。

 前田氏は政府の割引施策に対して「悪い話ではないと思っている」と、活用の方針を示しているが、一方でミリ波の整備に対しては「どういう価値を生み出すか、積極的に考えるべきだと思っている」と説明。ミリ波の活用が有望視される法人ソリューションなどの開拓を進めながら、ニーズを見極めていきたい考えのようだ。

 ただ、その法人ソリューションやメタバースなど、5Gで当初期待されていたユースケースの開拓も、世界的に全く進んでいない状況にある。新たなユースケースが見つからないことが、ミリ波だけでなく、5G、ひいては携帯電話会社全体のビジネスを停滞させる要因になっていることも確かだ。

 では前田氏は、5Gの本格活用を進める鍵がどこにあると見ているのかというと、コンテンツの品質向上にあるようだ。ゲーミングの体験価値を高めるためにゲーミングPCと光回線を導入する人が増えているように、コンテンツの質を追及するニーズはモバイルでも「絶対ある」と前田氏は話し、モバイルでも高い品質を提供できるコンテンツサービスの進化が必要だとの考えを示している。

 もう1つ、今後に向けた課題となっているのが海外事業だ。NTTドコモは2024年5月に新会社「NTTドコモ・グローバル」を設立し、Web3関連の事業を担うNTT Digitalと、複数ベンダーの通信設備を導入可能にする「オープンRAN」の海外展開を担うOREX SAIを中心に海外事業を強化する方針を打ち出しているが、Web3もオープンRANも世界的に導入・活用の機運が高まらず、苦戦が続いている。

NTTドコモは2024年2月に、日本電気(NEC)とオープンRANの海外展開に向けた合弁会社「OREX SAI」を設立しているが、オープンRANの需要は世界的に見て思うように伸びていない状況にある
NTTドコモは2024年2月に、日本電気(NEC)とオープンRANの海外展開に向けた合弁会社「OREX SAI」を設立しているが、オープンRANの需要は世界的に見て思うように伸びていない状況にある

 前田氏はWeb3とオープンRAN、それぞれの事業について市場がすぐ顕在化して伸びるものではなく、市場開拓にはある程度時間が必要の時間が必要との認識を示す。そして市場が立ち上がった時にビジネスを成長させるには事前の実績作りが重要で、その戦略をドコモ・グローバルと煮詰めている最中とのこと。秋頃までには戦略を定めていきたいと前田氏は話している。

 ただ、NTTドコモはWeb3やメタバース関連の子会社を設立し、大規模な投資をしていくことを打ち出していたが、昨今の生成AIブームでそれら技術への関心は一気に薄れてしまった。今後の成長に向けたテクノロジーへの研究開発投資に関しても、何らかの見直しが求められる所ではないだろうか。

 前田氏はこの点について、「早いフェーズでお金を入れることがいいかどうか、状況を見ながら判断するしかない」と回答。Web3やメタバースに関しては「どう育てていけるかを見極める。可能性の是非があるので、そこが顕在化して良い方向に展開できそうだという時点で大きな投資をする可能性がある」と、明るい兆しが見えるまでは投資を抑える可能性も示唆している。

 一方で、6Gや衛星通信、HAPS(成層圏プラットフォーム)など5Gの先を見据えたネットワークの技術開発は、今後も最優先で投資を進めていくとのこと。2026年のサービス開始を目指すと発表したHAPSに関しても、前田氏は「スマートフォンでどこでもつながる状態や、一定のサービスが使える状態を作っていくことのブレイクスルーポイントになる」と、サービス提供に強い期待を抱いている様子を見せた。

NTTドコモは“空飛ぶ基地局”ことHAPSを用いた商用サービスを2026年に日本国内で開始することを発表しており、その実現に向けた取り組みが注目されている
NTTドコモは“空飛ぶ基地局”ことHAPSを用いた商用サービスを2026年に日本国内で開始することを発表しており、その実現に向けた取り組みが注目されている

“時間”を買ったアマゾンとの提携、銀行はどうなる

 では、前田氏がこれまで手掛けてきたスマートライフ事業に関しては、どのような戦略を持って取り組もうとしているのか。とりわけ注目されているのは金融・決済の分野に関する取り組みだろう。

 NTTドコモは「d払い」「dカード」など決済サービスを中心に大きな成長を遂げてきたが、それ以外の金融事業に弱みがあった。そこでマネックス証券やオリックス・クレジットを相次いで子会社化し強化を図っているが、それでも他社と比べ欠けているとされるのが銀行だ。

 NTTドコモは三菱UFJ銀行の口座と連携した「dスマートバンク」を展開しているが、金融・決済サービスのシームレスな連携、さらに言えば決済時の入金や、決済サービス加盟店への入金などにかかる手数料を削減できるという点でも、銀行を直接保有することのメリットが大きいことは前田氏も認めている。

 ただ一方で前田氏は、銀行サービスの提供に関しては「さまざまなやり方がある」とも回答。今使っている銀行のサービスと連携してもらった方がいいという人もいれば、グループ内に銀行を保有し密な連携を求める人もいる。それだけに、顧客の両面の声を考慮した取り組みを進めていきたいとの考えを示している。

 もう1つ、NTTドコモのサービスに不足しているのがEコマースである。同社は2024年4月にアマゾンジャパンと、Eコマース大手の「Amazon.co.jp」で「dポイント」が貯まる・使える連携施策を開始しているが、系列に大手のEコマースサービスを持つ楽天グループやソフトバンクなどと比べた場合、ポイント付与などの面で弱みがある感は否めない。

NTTドコモは2024年4月にアマゾンジャパンとの協業を開始し、「Amazon.co.jp」と「dポイント」の連携を実現しているが、他社との競合ということもありポイント付与に制約も多く、競合と比べ不利な部分もある
NTTドコモは2024年4月にアマゾンジャパンとの協業を開始し、「Amazon.co.jp」と「dポイント」の連携を実現しているが、他社との競合ということもありポイント付与に制約も多く、競合と比べ不利な部分もある

 前田氏はアマゾンジャパンとの連携について「顧客から見て分かりやすく便利であるかが重要」と回答。今から自社のEコマースを強化して競合に追いつくにはかなりの時間がかかるだけに、アマゾンジャパンとの連携には大きな意味があったとしている。

 ただ、「ドコモとしてのEコマースを止めるつもりはない」とも話しており、「dショッピング」は継続するほか、同社が力を入れているマーケティング関連のソリューションとセットで、企業のEコマースの立ち上げに協力する事業なども検討していく考えを示した。

 最後に、ここ最近の同社を巡る大きな動きとして、2024年6月にNTTドコモが参加するグループが、国立競技場の民営化を担う事業者の優先交渉先に選定されたことが話題となっている。前田氏はその狙いについて、エンタテインメント事業の強化にあると答えている。

 NTTドコモはこれまで動画配信サービスの「Lemino」などコンテンツの配信プラットフォームに注力してきたが、今後はコンテンツの制作や興行など、ファンとのエンゲージメントに直接つながる部分にも力を入れていきたいとのこと。その取り組みの1つとなるのが、国立競技場をはじめとしたスタジアムやアリーナの運営事業だ。

 施設運営に踏み込む理由について、前田氏は「携帯電話のプレーヤーとエンタテインメントとの親和性は高いが、一部のビジネスに対する関わり方に閉じている」と説明。スマートフォンに限らないICTの活用を進めることが、スタジアムやアリーナで実施される興行の体験価値を高めることがビジネス機会創出につながるとしており、単なる施設の運営にとどまらず、ダイナミックプライシングを含めたチケットの新しい販売モデルの確立や、飲食なども含めた価値創出なども進めていきたいとしている。

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